群青の空の下で(修正版)

花影

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第2章 タランテラの悪夢

104 不穏な気配1

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 合議の間の準備が整い、遅れていたブロワディとグラナトが到着したのは明け方になってからだった。
 知らせを受けてエドワルドはすぐに起きるつもりでいたのだが、診察したバセットが険しい顔で首を横に振る。仮眠をして少しは体が楽になるかと思っていたのだが、逆にだるさが増している。自分でも良くない状態なのは分かっているが、今は大人しく寝ている場合ではい。
 口論の末、体を無理やり寝台から引き剥がして身支度を整えると、先ずは父親の様子をうかがう。勅令を発するのに残るすべての力を使ったのか、アロンは昏睡状態におちいっていた。
 グスタフによって解雇されていた専属医が再び呼び寄せられて治療に当たっていて、ヘイルや古参の女官がその補佐をしている。
 エドワルドはその痩せ細った手を握りしめ、一言、二言父親に話しかける。意識のないアロンには声は届いていないかもしれないが、そうせずにはいられなかった。そして後を医者に任せ、合議の間に足を向けた。
「殿下!」
「遅参して申し訳ありませんでした」
 合議の間に入ると、真っ先にブロワディとグラナトがエドワルドの前に跪く。今までの経緯の説明を受けて彼の生存を知らされていたのだが、改めてその姿を目にして感無量といった様子だった。
「2人共、良く戻って来てくれた」
エドワルドは2人をねぎらい、それぞれと軽く抱擁をして握手を交わす。ハルベルトの腹心として仕えていた2人は、グスタフによって遠方に左遷され、半ば監禁された状態だった。その為にエドワルドの署名付きの書状によって解放されてもすぐに駆けつけることが出来なかったのだ。
 それでもいつまでも感慨にふけってはいられず、グラナトはエドワルドに席を案内する。
「殿下、どうぞこちらに」
 用意されていたのは玉座の左隣……そこはかつてハルベルトが座っていた席だった。エドワルドが足を向けると、一同は改めて国主代行に就いた彼に敬意を表し、起立して迎える。
 上座の左側は竜騎士を中心とした武官の席になっており、ブロワディを筆頭にヒース等各竜騎士団長やアスターとエルフレート、そしてリーガスが控えている。右側は文官席で5大公家の当主とグラナト、主だった文官が居並ぶ。グスタフが死亡した事により、5大公家の空席は2つになってしまった。今はそこにセシーリアとアルメリアが付き、その背後にユリウスとマリーリアが立っている。本当はマリーリアにも席を用意されたのだが彼女はそれを固辞し、あくまで2人の護衛という立場を貫くつもりの様だ。
 部屋の隅ではウォルフが書記として同席し、エドワルドの後にはバセットが当然といった様子で控えている。そして扉の外にはルークとキリアンが警護についていた。
 エドワルドが席に着くと一同は揃って頭を下げ、彼がうなずくと彼等も腰を下ろした。
「では、始めよう」
 時間が惜しいので余計な前置きは一切省く。先ずはサントリナ公が立ち上がり、エドワルドが休んでいた間の経緯を説明し始める。
「グスタフ殿の遺骸は清めて本宮内の一室に安置しております。ご家族に知らせましたが対面は奥方とご息女に許可いたしました。今、彼女達にはソフィアが付き添っております」
 突然の訃報におそらく取り乱している事だろう。そんな彼女達をなだめる役をソフィアは自ら買って出た様だ。
「ゲオルグ様は北の塔に監禁しております。随分と荒れておいでですが、見張りには静観するように命じております」
「あれは処遇が決まるまではそのまま北の塔に入れておけ。後回しでいい」
「かしこまりました」
 正直、ゲオルグに対して怒りが収まりきらない今は公正な裁断をする自信がない。そしてそれよりも手がけなければならない重要案件が山積みなので、後回しにせざるを得ないのだ。
 続く報告では本宮内の混乱はまだ完全には収まってはおらず、その為にエドワルドが命じた人事と法令の復旧は人手が足りずにまだ終わってはいない。苦肉の策としてサントリナ領やブランドル領で働く文官に手を貸してもらっている状態らしい。
「皇都では一部の市民がワールウェイド家公邸へ押しかける事態が起こりましたが、市内を警護していた竜騎士達の説得に応じて解散しました。暴動を想定して街中の警備を強化した効果が出ている様で、混乱に乗じた犯罪の報告はまだ上がっておりません。一部の地域では殿下の帰還を祝い、お祭り騒ぎとなっている所もあります」
 サントリナ公に代わって今度はブランドル公が立ち上がって報告する。皇都に於いては最悪の事態は避けられた様子でエドワルドはひとまず胸を撫で下ろした。



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