掌中の珠のように Honey Days

花影

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★雛の家2

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 カフェでランチを楽しんだ沙耶と幸嗣は、また手をつないで歩きだす。この先にあるビルで義総と落ち合う約束なのだが、まだ時間に余裕があるので散策を楽しむ事にした。
 ジェラートの有名な店も近くにあるのだが、さすがにお昼を食べたばかりなので沙耶は泣く泣く諦めていた。それでも目に付いた雑貨店に立ち寄り、細々としたものを手に取り悩んでいる姿はどことなく楽しそうだ。
 そんな彼女の姿を幸嗣は幸せな気持ちで眺める。本当であれば興味を魅かれて手に取った物全部買ってあげたいのだが、それをすると後から綾乃に怒られる。グッとその衝動を堪えて様子を見守る程度に留めた。
「これにしよう」
 しばらく悩み、この店で結局沙耶が買ったのはバスソルトだけだった。小物入れも熱心に見ていたが、気に入るものが見付からなかったらしく止めた様だ。まだ他にも店はあるので、また気に入る物が見つかるかもしれない。
「お待たせしてごめんなさい」
「大丈夫だよ」
 幸嗣は荷物をさりげなく受け取り、沙耶に手を差し出す。相変わらず周囲からの視線は凄いが、気にせず2人は手をつないで歩き出した。



 その後も雑貨を扱う店を見て回り、2人が目的のビルに着いたのは約束の10分前だった。このビルは星ビルと呼ばれ大倉家が所有していた。1階には義総や幸嗣の目に留まった若手のクリエイターの作品が集められたセレクトショップがあり、2階は多目的ホールになっていた。ちなみに3階より上はアパートになっている。
 多目的ホールでは現在、若手のクリエイターを対象とした展覧会が開かれていた。今日はただ見に来たわけではなく、セレクトッショップで扱えるクリエイターがいるか、見極めにきたのだ。要は仕事の延長なのだが、近い将来大倉家の嫁となる沙耶も勉強の一環として連れて来たのだ。
「兄さん来てないね」
 外から様子を伺った限りでは義総が来ている様子はない。沙耶が絡むといつも以上の能力を発揮して何が何でも仕事を終わらせてくるはずなのだが、今日は無理だったらしい。とりあえず中で作品を眺めながら待とうかと思ったところで幸嗣のスマホが鳴った。
「ごめん、ちょっと中で待ってて」
 ホール内での通話はさすがにマナー違反だ。かといって沙耶を外で待たせておけないので、先に入っていてもらう。彼の気遣いを心得ている彼女は、素直に頷いて中に入っていった。



「……分かった」
 電話の相手は義総だった。やはり仕事の都合がつかないらしく、今回の選定は幸嗣に一任されることになった。夕方までには仕事を終わらせるつもりらしく、夕食は3人で取ることになり、新たな待ち合わせ場所と時間を決めた。
「はぁ……」
 通話を切ると幸嗣は深くため息をついた。別に一人でクリエイターの作品を見極めるのが不安なのではない。義総が来ない分、沙耶を独り占めできて嬉しいくらいだ。
 では、何が問題かというと、新たに決められた待ち合わせ場所である。正直、その場所にはトラウマに近いものがあるのだが、今更変えてくれというのは彼の矜持が許さなかった。決まったものは仕方がない。幸嗣は腹を括ると、先ずは任された仕事を終わらせるためにホール内へ入っていった。



 一般的なギャラリーとは異なり、気軽に入れる様に工夫されているために思った以上に来場者は多い。その為、幸嗣が一歩中へ入っただけでホール内が一瞬ザワリとどよめいた。いつもの事と割り切った彼は、周囲からの気にせず中を見渡して沙耶の姿を探す。
「沙耶」
 彼女も視線の集まる中に居たが、気付いた様子もなく何かを熱心に見ていた。声をかけると花が綻ぶような笑みを浮かべて振り向いた。
「幸嗣さん。お電話終わったの?」
「うん。やっぱり兄さんは仕事だって」
「そう……」
 沙耶は寂し気に俯く。しかし、幸嗣に心配をかけまいと思ったのか、すぐに顔を上げた。
「でも、夕食は絶対一緒に取るって言ってたから、夕方には会えるよ」
「本当?」
 沙耶の表情が綻ぶ。分かりやすい反応だなと幸嗣は内心苦笑しながら沙耶が熱心に見ていたものに視線を向ける。そこにあったのは掌に乗るほど小さなガラス製のお雛様だった。
 今回はテーマが春だったので、雛人形は桜と人気を二分するほど多く出品されていた。沙耶が見ていたガラス製に限らず、陶器や木目込み等素材も様々だ。
「それが気に入ったの?」
「うん。可愛いと思って」
 義総も幸嗣も沙耶が気に入ったものはすぐに買おうとするので、彼女はなかなか口に出して言うことは無いのだが、このお雛様は随分気に入ったようだ。それに今回の展示は販売をしていないので、言っても大丈夫だろうと思ったのかもしれない。
 よく見れば細部にまで細やかな細工がほどこされており、手の込んだ作りとなっている。本来の目的はセレクトショップで扱うクリエイターの発掘なのだが、この作品を見る限りは加えても問題なさそうだ。作者の名前を確認し、入り口で手に入れた一覧のリーフレットにチェックを加えた。
「他のも見てみようか?」
「はい」
 幸嗣が手を差し出すと沙耶はその手を取ってくれたので2人は手をつないで作品を見てまわる。並んでいるのは工芸品だけではなく、絵や服もある。バラエティーに富んだ作品を見て歩きながら、幸嗣は時折沙耶の意見を取り入れつつ今後扱う可能性のあるクリエイターの名前をチェックしていった。
 勿論、これですべて決まる訳ではない。実際に商品を作ってもらい、それが自分達の基準を満たしているか見極めてから正式に契約となる。
 過去には沙耶の服を誂えているクレッシェンドムーンや義総御用達のブランドもここが出発点だった。国の内外で活躍するアーティストも多数いる。クリエイター側も作品を選んでもらうために自然と力が入るが、店に出すとなるとその品質を保てるかどうかが重要になってくるのだ。
「こんなものかな」
 一覧を眺めながら幸嗣は呟く。時間を確認してみると、これから待ち合わせ場所に向かえばちょうどいい頃合いになる。
「じゃあ、行こうか」
「はい」
 とりあえず沙耶が気に入ったお雛様はオーナー権限を活用して後で購入可能か問い合わせてみようと幸嗣は決意し、彼女を促してホールを後にした。
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