掌中の珠のように Honey Days

花影

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★雛の家7

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 旬の食材を使った料理に舌鼓を打ちながら、3人で他愛もない会話をする。主にしゃべっているのは沙耶で、昼間のデートが話題になっている。幸嗣がそれに応じ、義総はそんな2人を眺めながら静かに杯を重ねていた。
「ギャラリーでは気に入ったものがあったか?」
 会話が途切れたところで義総が沙耶に質問する。既にお腹が膨れて締めのデザートとなるブランド苺に手を付けていた沙耶は律義に皿を置いてから質問に答えた。
「可愛いお雛様がたくさんあって、あと、桜の花びらのアクセサリも素敵だったわ」
「そうか」
 今日の外出はよほど楽しかったらしい。今までは沙耶自身が狙われていたり、薬の後遺症などの理由で外出を控えなければならない状態だった。吉浦との決着がついた現在では、体調も落ち着いてきており、幸嗣が一緒であれば問題ないようなので、今後もこう言った外出は増えていくだろう。少々妬けてしまうが、代わりに自分しか連れていけないところへ連れて行けばいいのだと義総は自分を納得させた。
 やがて3人の会食もお開きとなった。ほろ酔いの義総に促され、一緒に帰る幸嗣に手を取られた沙耶は名残惜しそうに席を立った。そしてもう一度ライトアップされた庭を眺めてから部屋を出た。
 今では裏口となっているが、元々の玄関へ行くと、既に青柳が幸嗣の車を待機させて待っていた。一同の姿を認め、彼は恭しく頭を下げると助手席のドアを開ける。
「気を付けて帰れよ」
「義総さんも無理をなさらないで」
 沙耶が乗り込む前に真摯な視線を向けると、義総は苦笑してその頬に口づける。サイラムとの事業提携もあって多忙を極め、明日からまた海外出張で今夜は空港近くのホテルに泊まる予定となっている。一旦家まで戻る時間がもどかしく、少しでも長い時間沙耶の顔を見るためだけにここでの会食をセッティングしたのだ。
「ああ。幸嗣、頼むぞ」
「任せて」
 助手席に沙耶が乗り込むと、幸嗣は義総に肩を叩かれる。後を任され、少し誇らしい気持ちになる。青柳が助手席のドアを閉め、幸嗣も運転席に乗り込むと、見送る義総らに手を振る沙耶の為にゆっくりと車を動かした。
 静かな音楽を聴きながら車を走らせていると、不意に会話が途絶える。信号待ちで止まったところで隣をみると、沙耶はシートに体を預けて眠っていた。久しぶりに外出したので疲れたのだろう。
 自分は随分信用されているんだと思うと嬉しくなると同時に、今夜は無理をさせられないなと残念な気持ちが入り混じる。複雑な気持ちを抱えながらも、可愛い寝顔が見れたからまあ、いいかと気持ちをきりかえてハンドルを握り直し、家路についたのだった。



 沙耶と幸嗣の車を見送った義総は、青柳に30分後の出立を告げると再び屋内へ戻った。長い廊下を歩き、着いたのは秋の庭に面した最奥の部屋だった。彼は呼吸を整えると、そのふすまを開ける。真新しいイグサのにおいが広がるこの部屋は歴代当主の私室として使われてきた部屋だった。
 当主の部屋に相応しく、高名な絵師による襖絵に細かい彫刻の入った欄間、凝った作りの調度品が置かれている。しばらくの間、戸口に立ったまま室内を見渡していた義総だったが、意を決すると室内に踏み込み、その中央に胡坐をかいて座った。
「これが、本来の姿か……」
 生前、彼の父親もこの部屋を私室としていた。しかし、彼の記憶に残る当時の部屋はとは大きく異なる。
 家具は部屋の中央に置かれた大きなベッドだけだった。怪しい香が焚き染められ、ベッドの上だけでなく畳の上に敷かれた絨毯の上など、至る所で若い女性が男達に組み敷かれていた。そんな淫猥な宴が連日連夜繰り広げられ、未成年だった義総も父親の命令でその一員として加わっていた。
 そんな過去を思い出すのも苦痛で、父親の死後はこの部屋を閉ざしていた。この屋敷に戻ってきても近づく事は無く、ついこの間までそのまま放置していたのだ。
 しかし昨年末、吉浦との決着をつけた。そして沙耶に全てを打ち明けることで改めて過去を見直し、自身の心中を整理したことで余裕ができた。その上でこの後始末は自分自身でしておかなければならないと決意し、洋館の修復と同時にこの部屋の復元を決めたのだ。
「義総様」
 声をかけられて振り返ると、戸口に綾乃が立っていた。
「どうした?」
「そろそろお時間でございます」
「分かった」
 義総は立ち上がるともう一度部屋を見渡し自重する。
「やってしまえば簡単な事だったのにな」
「随分と回り道をされましたが、義総様には必要な時間だったのでございましょう」
「そうだろうか?」
 綾乃の返答に義総は改めて相手の顔を見る。綾乃自身もこの部屋での記憶が悪いものばかりのはずだが、それでも彼女は義総が閉ざしていた間もこの部屋の掃除を他人に任せることなく自ら行っていた。その責任感には頭が下がる思いだ。
「全て任せっきりで悪かった」
「急にどうされましたか?」
「改めて頼りっぱなしだったと反省したところだ」
 義総の返答に綾乃は腰に手をやって仁王立ちなり、彼を見上げる。
「そう思われるのでしたら、今日のようなことは少しお控え頂きませんと」
 食事前に沙耶を抱いたことを指摘しているのだ。それを察した義総は肩をすくめる。
「彼女といると私の理性は抑えられなくなってしまうのだよ。まぁ、いろいろ準備をしていてくれて助かった」
 全く反省していない様子に綾乃はあきれた様子でため息をついた。
「それでしたら、沙耶様とお2人での外出は控えなければなりませんね。デートは全て幸嗣様にお任せいたしましょう」
「それは……困る」
「でしたら、少しは自重なさってくださいませ」
「……善処する」
 やはり綾乃には敵わない。義総は渋々といった様子で返答した。そんな会話をしている間に2人は再び玄関に戻ってきていた。いつもの車が横付けされ、青柳が立って待っている。
「では、行ってくる」
「お気をつけて」
 車に乗り込む義総を綾乃はいつも通り頭を下げて見送る。彼女はこの後、スタッフに任せた片づけを確認し、戸締りをしてから帰宅する予定となっていた。そんな働き者の彼女に見送られ、車は動き出したのだった。


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幸嗣が暴走しなければ後1話で終わる予定ですが、まだ書きあがっていないので続きは書きあがってからの更新となります。すみません。
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