群青の軌跡

花影

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第2章 オリガの物語

第1話

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この章はオリガ視点となります。
なお、彼女の目線で物語が進んでいくので、ルークのカッコよさとか頼もしさが割り増しされていますのでご了承ください。


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 初秋の柔らかな日差しが降り注ぐ中、プラチナブロンドの美丈夫とつややかな漆黒の髪の美女が腕を組んで庭園を散策している。2人は3か月ほど前に正式に婚礼を挙げられたエドワルド殿下と奥方のフレア様。
 半月後に即位式を控えて特に殿下はお忙しい毎日を過ごされておられるのだけど、周囲の協力もあって家族と過ごす時間を作られるようにされている。今日みたいに午後のお茶の時間だったり、朝が少しゆっくりだったりとその日によって違うけれど、御一家にとってとても大事な時間になっている。
 お住まいとなった北棟に面したこの庭園の一角は、段差もなく、遊歩道には小石一つ落ちていない。殿下のご下命で目が不自由な奥方様も子供のコリン様も安心して散策できるように整備されていた。秋の花々が咲き誇る庭園にお2人が立つ光景はまるで絵画のようで誰もが目を奪われるに違いない。
 小竜のルルーがいれば、奥方様は短時間なら同調して小竜が見ているものを見ることができるけれど、危険はできるだけ排除しておきたいのは間近に接している者に共通した意見だった。そのおかげで奥方様は苦も無く庭園の散策を楽しんでおられるご様子。2人で時折顔を見合わせて笑い合う姿は私達傍に仕える者にとっても心癒されるひと時だった。
 絡め合うお2人の腕には婚礼で交わされた金の腕輪がきらめいている。装飾の少ないシンプルなものだったけれど、今はそれぞれに翡翠がはめ込まれている。元々は2年前の夏至祭の折、当時まだロベリア総督だった殿下がフレア様にお土産として皇都からあがなってこられたイヤリングについていたものだった。
 イヤリングを気に入られたフレア様は日常的によく身に付けておられた。内乱が起こったあの日も。殿下と離れ離れとなり、辛い逃亡の最中に片方を失くされてしまわれた。その後は残った片方をお守りとされ、ラトリ村にたどり着いた後は内乱の前に交わされた組紐の留め具に作り替えられて肌身離さず持っておられた。
 もう片方は私達を探していたルークが偶然に見つけ、殿下の下に届けられた。殿下もそのイヤリングをお守りにして持ち歩き、フレア様やコリン様の無事を祈っておられた。
 お2人は無事に再開を果たされ、数奇な運命をたどった翡翠も揃った。内乱が終結し、少し落ち着いたところでお2人はこの翡翠をどうするか話し合われた。元の様にイヤリングにすることも考えられたそうだが、互いに想いが詰まりすぎたのもあってそれぞれの腕輪の装飾にされることを選ばれた。


 私がそんな過去を振り返っている間に散策を終えられた殿下と奥方様が戻って来られた。お2人の妨げにならないよう北棟に続く露台の傍らで控えていた私は、奥方様が差しておられた日傘を受け取り片付ける。
 殿下は奥方様の手を取り、露台への緩やかなスロープを上って木陰にしつらえられた長椅子に2人で腰掛ける。そこへは既にオルティスさんの采配によってお茶の準備が整えられており、私が日傘を片付けている間にお2人には薫り高いお茶が用意されていた。
「ありがとう、オルティス。美味しいわ」
「光栄でございます、奥方様」
 フォルビアのお館にいた頃からなんでも完ぺきにこなす彼はフォルビア公でもある奥方様に忠誠を誓う家令の鏡のような人だった。私も使える者の1人として見習いたいのだけど、まだまだその足元にも及ばない。今は毎日が勉強の日々でやりがいを感じている。
 お2人がお茶で喉を潤していると、午後の勉強を終えられたコリン様がイリスを伴って露台に来られた。2人の姿を見て、姫様はパッと顔を輝かせる。殿下が御一緒だと特別なのだと以前に仰っていたのを思い出す。
「こちらへいらっしゃい」
「ここへ座りなさい」
 殿下と奥方様に手招きれ、姫様はその間にちょこんと座られた。そしてオルティスさんが用意したお茶を飲みながら、今日の勉強の内容を話し始める。いずれ礎の里へご留学をされる姫様には優秀な講師がついているのだけど、その厳しい講師陣も姫様の目まぐるしいご成長に驚いているご様子。聖域で過ごしていた間も、奥方様のご養母アリシア様から学んでおられたのが功を奏しているのかもしれない。
「よく頑張っているな」
「偉いわ」
 殿下と奥方様は姫様を褒めて抱きしめる。フォルビアにいた頃は勉強嫌いで逃げ回っておられたのだけど、奥方様と出会われてからは変わられた。一緒に歌うことから始め、絵本を読む楽しさが文字を覚えるきっかけになった。今ではすっかり勉強が好きになられて、今では同じ年頃の子供達よりも難度の高い教育が行われている。この方ならば賢明なフォルビア公となられるに違いない。


「お寛ぎのところ失礼いたします」
 露台にアスター卿が姿を現す。殿下の休憩の終わりを意味することを知っている姫様は途端に表情を曇らせる。
「もうお仕事行っちゃうの? エルヴィン、お昼寝からまだ起きてないよ?」
 姫様としては一家4人が揃って過ごしたかったのでしょう。その寂しげな様子に殿下は姫様をギュッと抱きしめた。
「晩餐には間に合うように戻るから、その時また一緒にお話しよう」
「うん……」
 仕事に行くのが遅れればその分だけ終わるのが遅くなるのも姫様も理解はしておられる。わがままを言っていられないのは十分わかっておられるご様子の姫様は小さく頷いた。
「申し訳ありません、姫様。その代わり、いいものが届いていますよ」
 アスター卿の言葉に姫様は思わず顔を上げる。アスター卿は姫様に簡素な書簡筒を差し出した。
「ティムから姫様宛です」
 姫様は顔を上げると、その書簡筒を嬉しそうに受け取られた。書簡筒を手に頬を染めている姫様の姿は恋する乙女そのもので、殿下も奥方様も優しいまなざしで見守っておられる。しかし、周囲にはほほえましく見える光景を見ている私は複雑な心境だった。
 姫様が弟のティムを慕う気持ちは本物の様に見受けられる。ティムはどう考えているのかはまだわからないけれど、今のままでは身分差もあり、姫様の想いを成就させるのは難しい様に思える。
 まだ考えるには早すぎると思うけど、それでもこういった光景を目の当たりにするとつい色々と考え込んでしまう時がある。ただ、姫様には幸せになってほしいと思う気持ちは変わらないのだけれど。
「では、行ってくる。また夕食の時に」
 私がぐるぐると考え込んでいる間に殿下は奥方様と姫様と抱擁を交わしてから席を立たれた。そしてアスター卿を伴い、露台を後にされた。
 その後、風が冷たくなってきたので露台での午後のお茶は終わりとなった。同時にエルヴィン殿下もお昼寝から目覚められたので、夕餉までの時間を屋内で過ごされていた。奥方様が編み物をしておられる傍らで姫様は本当に嬉しそうに何度もティムからの手紙を読み返している。
 その内容からティムは今夜、ルーク達とアジュガに滞在するらしい。明日、ヒース卿を筆頭とした第3騎士団に合流し、当初の予定通り昼頃本宮に到着する。ルークに会える喜びもあるが、やはり姫様とティムの事を考えると複雑な気持ちになった。


 その日は姫様と約束した通り殿下も早くお戻りになられて御一家が揃って夕餉を召し上がられた。尤も、まだ目を通す書類が残っているとかで、夕餉の後も少し執務をされるご予定らしい。
 今宵の付き添いは別の侍女が担当だったので、私は早目に御前を退出し、北棟にある私室に戻ることができた。そしてその部屋に見覚えのある書簡筒が届いていた。それは恋人のルークからだった。ティムから姫様宛に届いていたからルークも送ってくれているだろうと思っていたけど、実際に届いているとやっぱり嬉しい。私は一度その書簡筒を胸に抱きしめ、そして中から手紙を取り出した。

『忙しいみたいだけど変わりないかい? ティムを連れて一度アジュガに寄るけど、予定通りそちらへ着きそうだ。手紙で書ききれなかったことが沢山あるんだ。会えるのを楽しみにしている。愛しているよ。   ルーク』

 短い文章だけど彼の気持ちが真っすぐに伝わってきて嬉しい。明日会えると思うと胸がいっぱいになる。これだけで心中の複雑な気持ちが和らいでくるから不思議。でも、嬉しすぎてその日はなかなか寝付けられなかった。



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群青本編でもあまりオリガの事を書いていなかったなぁということで第2章は「オリガの物語」
即位式前後と過去の回想で2人の出会いを書いていけたらと思っております。
たぶん、第1章と同じくらいの長さになる予定。
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