群青の軌跡

花影

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第3章 2人の物語

第23話

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なかなか書きあがらなくて、更新が遅くなってすみません。


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「ルーク兄さん、起きて」
 ティムに起こされて目を覚ますと、既に夕刻だった。状況判断が追い付かず、ボーとしながら体を起こす。そこでようやくフォルビア城に着いてちょっとのつもりで横になり、そのまま寝入ってしまったことを思い出した。
「ヒース卿から夕食を一緒に取りたいと連絡がありました。着替えと洗顔の水を用意していますけど、使いますか?」
「ああ、ありがとう」
 手際のいいティムが既に準備万端整えてくれていた。本当に良く気が利くヤツだよ。俺は礼を言うと用意してくれた水で顔を洗い、さりげなく差し出してくれた布で水滴をぬぐった。そしてしわになってしまった服を脱ぎ、ティムが用意してくれた騎士服に袖を通した。
 身支度を整えると、ティムにヒース卿が個人的に客をもてなす時に使われる客間へ連れて行かれる。食事をするんじゃないのかと思ったが、そんな事を指摘する間もなくティムが扉を叩いて俺の来訪を告げた。
「入れ」
 ヒース卿からの返答があり、扉を開けて中に入る。すると部屋の中ではヒース卿とリーガス卿が既に酒を酌み交わしていた。
「おう、来たか」
 俺の顔を見たリーガス卿は座れとばかりに空いていた席を指さす。バセット爺さんに禁酒を解かれたばかりで、以前のようにはまだ飲めないんだけどなぁと少し憂鬱な気持ちになりながら指定された席に座る。ティムも付き合わせようと思ったが既に遅く、危険を察知したアイツは既に姿をくらましていた。
「まだ討伐期が開けていないのに大丈夫ですかね?」
 一応、確認をしてみるが、その辺はぬかりなく手配を済ませてあるらしい。何しろフォルビア城には俺のお供で付いてきたラウルとシュテファンがいるし、ロベリアの方もリーガス卿1人抜けたところで問題は無いらしい。
「快気祝いと結婚の前祝くらいさせろ」
 そう言ってリーガス卿が差し出した酒杯にはなみなみとエールが注がれていた。ささやかな抵抗も空しく、俺はそれを受け取らざるを得なかった。それでも先ずは腹を満たしてから。酒肴をつまみながらちびちびと呑むことにした。
「ジーン卿は来られなかったのですか?」
 何気なく質問すると、ヒース卿は冷やかすような視線をリーガス卿に向け、当のリーガス卿は照れ臭そうに頬を掻いている。どうしたんだろうと思っていると、実にめでたい答えが返ってきた。
「分かったばかりだが子供が出来てな、留守番している」
「それは、おめでとうございます」
 リーガス卿がちょっと照れ臭そうにしているのは、昨年次男が生まれて早くも3人目を授かったからだろう。まあ、傍目にも仲がいい夫婦だから、当然の結果だ。俺はお返しとばかりにリーガス卿の杯にエールを注いだ。
「でも、傍に居なくていいんですか?」
「お前に祝いを言ってこいと言って蹴り出された」
 身重の奥さんの方が大事だろうと思って聞いてみたが、当の本人にそう言われたのなら仕方がないか。さすがに蹴ってはいないだろうけど、彼の口ぶりから妊娠初期にあると言うつわりはひどくはないのだろう。
「具体的な話は決まっているのか? その辺を聞いて来いと言われているんだが……」
 本当はさりげなく聞き出すものなんだろうけど、こうして真正面から聞いてくるところはリーガス卿らしい。俺もその方が変に気を遣わずに済む。そんな俺達のやり取りをヒース卿は苦笑しながら眺めておられた。
「オリガの希望でアジュガで式を挙げることにしました」
 2年前、兄さんとリーナ姉さんの結婚式に参加した時の印象が強く残っているらしい。あんな風に花に囲まれて挙げるのが素敵だと言っていた。俺としても家族だけでなく今まで俺達を見守ってくれたアジュガの人達にオリガの晴れ姿を見てもらいたい。
「今年は国主会議がありますし、皇都では秋にお披露目の席を設けられればとは考えています」
 まだあくまで希望の段階だ。一応アジュガの両親やオリガの後見して下さっているブランドル公夫妻にも結婚する旨と俺達の希望を書き連ねて手紙を送っている。この時期なので返事はまだだが、オリガの希望通りにさせてくれるだろう。
「そうか……。それならこちらもそのつもりでいさせてもらおう」
 ヒース卿もリーガス卿もお披露目の時には絶対に呼ぶようにと念押しして了承してくれた。
 その後は女王との戦いの折の話に変わった。2人とも例のダミアンさんが伝えた記憶を見ていたらしく、無茶しすぎだと怒られた。それでも楽しいと思えてしまうのは、こうした酒席自体が久しぶりだったからかもしれない。それに薬草園で引きこもっているからか、こういった会話自体が出来るのが嬉しいのは確かだった。
 討伐期間中ということで、ありがたいことに酒席は早い時間にお開きとなった。ほろ酔いで部屋に戻ると、ティムが寝台を整えてくれていた。さっさと逃げたことを思い出し、ちょっと本気を出して締め上げた。それでもすぐに逃げられてしまい、また鍛え直さなければと固く決意した。



 翌朝、朝食を済ませるとすぐに古の砦へ向けて出立した。本当はティム1人が付いてきてくれるだけでも良かったのだが、やはり討伐が完全に終わっていないと言うことでラウルとシュテファンも同行することとなった。
 長距離の移動は俺以上にエアリアルが喜んでいて、ついつい速度を上げようとするのを抑えるのが大変だった。それでもそんな相棒とのやり取りも楽しい。討伐期間を丸々引きこもっていたからか、何でも楽しく感じてしまう自分にちょっと困惑していた。
「ルーク卿!」
 古の砦に着くと、顔なじみの傭兵達がわらわらと集まって来た。そんな彼等を押しのけてジグムント卿が俺の前で膝を付く。
「我々の不手際で貴公を危険にさらし、本当に申し訳なかった」
「ジグムント卿、頭を上げて下さい」
 ともかくふきっさらしの着場でする話ではない。俺はジグムント卿を立たせると、ともかく中へ入ろうと皆をうながした。夜までにフォルビア城に戻らなければならないので、滞在する時間は限られている。話をするなら、おそらく居住区で首を長くして待っているであろうゲオルグも交えてからにしようと決めていた。
 俺の提案にジグムント卿も同意し、集まって来た傭兵達に持ち場へ戻る様に指示した。そして勝手を知る場所ではあるが、ジグムント卿の案内で居住区に移動した。
「ルーク卿!」
 俺の姿を見たとたん、ゲオルグが駆け寄ってくる。杖をつきながらなので非常に危なっかしい。俺は慌てて彼を制し、落ち着くように言いおいて俺の方から近寄った。
「良かった本当に、会えて、良かった」
 ひざまずいてしまったゲオルグはそう何度も繰り返し、涙ぐんでいる。とにかく廊下では場所が悪い。俺は彼を立たせると、落ち着いて話が出来る食堂への移動を促した。
「俺の代わりに連れ去られた上に、大けがをしたと聞いて……もう、本当にどう謝っていいか……」
「いや、ここを任されていた我々の失態だ」
 とにかく、涙ぐむゲオルグとまだ神妙な顔つきをしているジグムント卿を食堂の椅子に座らせる。賄いのおばちゃんに人数分のお茶を淹れてもらい、それで喉を潤してから俺は勤めてのんびりとした口調で話を切り出した。
「攫われたのが俺でまだ良かったと思っているよ」
 俺の言葉にゲオルグはパッと顔を上げる。
「もし、本当にゲオルグが攫われていたら、きっと陛下は君を切り捨てる決断をしなければならなかった。それはそれで正しい選択だとは思うけれど、陛下はきっと、気に病まれるに違いない。賊が間違えて俺を連れ去ったことで、その足跡をたどることも出来たし、首謀者へつながる手がかりも得た」
「だけど、怪我を……」
 ゲオルグは連れ去られた俺が怪我をしたことを悔やんでいる。あの一件以来会う彼は一層線が細くなってしまったように感じる。気に病みすぎて病気になってしまうのではないかと周囲が心配しているのだとヒース卿から聞いていた。
「あの怪我は俺の判断ミスだ。女王を足止めしようなどと思わず、上手くやり過ごせば負わずに済んだ怪我だ。アスター卿にも無茶しすぎだと随分と叱られたよ。昨夜もヒース卿とリーガス卿に叱られた。だから、ゲオルグもジグムント卿も怪我の事は気にしないでもらえると助かる」
「だが、ここに賊の侵入を許さなければ防げたはずだ」
 今回の責任をとって、ジグムント卿は竜騎士を引退するとまで言っているらしい。彼一人の責任ではないし、彼の力はまだ必要だ。俺はヒース卿とリーガス卿から彼の説得を押し付けられて……任されていた。責任重大だ。
「それは全てをジグムント卿に任せきりにしてしまった第3騎士団の失態だ。カルネイロの残党がゲオルグを狙うのは想定の範囲内だった。居場所を悟られないようにするためにも仰々しい警備が出来なかったにしても、もう少しやりようがあったはずだ。それにあの時は俺も駐留していた。賊の侵入はジグムント卿1人の責任ではないと思います」
「だが……」
「責任を感じておられるなら、もう少し我々の為に竜騎士を続けてもらえませんか? 俺達の隊は皇都へ移動となります。フォルビアにはあなた方の力がまだ必要なんです」
 ジグムント卿はまだ迷っているようにも見えた。もう一押しとばかりに俺は言葉を続ける。
「もちろん傭兵であるあなた方に強要は出来ません。ですが、討伐期が済んだらもう一度ヒース卿やリーガス卿と話し合ってもらえませんか?」
「話し合うだけなら構わないが……」
「2人に伝えておきます」
 説得を任されたわけだが、俺にできるのはここまでだ。話し合いをする気になってくれたのだから上出来だろう。後はあの2人が何とかするはずだ。
 滞在時間が決まっているので、謝罪云々の話はここまでで打ち切った。せっかく会いに来たのだからそれだけで終わりたくはない。無理やりだが話を変えて場の雰囲気を変えることにした。
「報告が後回しになったけど、春になったらオリガと籍をいれることにしたんだ」
 俺の報告に真っ先に反応したのはゲオルグだった。
「おめでとう。お祝い、何にしよう」
「そうか、それはめでたい」
 功を奏して今まで暗かった2人の表情が明るくなる。そんなに気を使わなくていいよと言ったものの、引き下がらない。そこでふと、以前にもらった香油を女王にくれてやったことを思い出す。
「また、作った香油を分けてくれないか? 前のは女王にくれてやってしまったから、またお守り代わりに持ち歩けるものを頼むよ」
「それは構わないけど……そんなのでいいのか?」
「女王にも効果てき面だったんだ。これ以上の物はないさ」
 自分が作った香油が女王にも効いたと聞いてゲオルグは嬉しそうにしている。つられて思いつめた様子だったジグムント卿の表情も和らいだものと変わっていた。
 その後は時間まで他愛のない話をして過ごした。来た時には思いつめて暗かった2人も別れ際には表情が明るくなっていたのでもう大丈夫だろう。俺は2人に再会を約束して別れた。
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