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聖夜1
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「うわぁ……」
午後から降り始めた雪は一面を銀世界へと変えていた。午睡から覚めた沙耶は窓の外を見るなり感嘆の声を上げる。今まで住んでいた所では雪が降っても積もるのは年に数えるほど。それもすぐに溶けてしまう程度だったので、目の前に広がる光景が目新しくてならない。加えて今日はクリスマスイブ。最高にロマンチックな演出である。
「沙耶様、お風邪を召されます」
雪に見とれて薄着のままテラスに出た沙耶に、美弥子の好意で付けてくれたメイドの葉月が慌てた様子でコートを着せかける。
「ありがとう」
歳が近い事もあり、この10日余りの間で彼女とはすっかり打ち解けて話せるようになっていた。彼女がいてくれたおかげで、この別荘でもさほど寂しい思いをせずに済んでいるのは確かだろう。
あの翌朝、高嶺家の客間で目を覚ました沙耶は状況が良く飲みこめずにひどく取り乱した。側に居た幸嗣がどうにか彼女を宥め、落ち着いたところで事情を説明してこの別荘へ連れて来たのだ。それでも最初の3日くらいは精神的に不安定で、重度の眩暈を起こしてベッドから起き上がれない日もあった。
よく気の利く葉月が沙耶の体の様子を見ながら気が紛れるものを用意し、時には話し相手となってくれた。管理人の山崎夫妻はまるで孫の様に可愛がり、連れて来た2匹の犬が癒しになった。そして毎日義総とネットを介して会話をしたのが功を奏し、寂しさは感じるものの、どうにか日常生活を送れるまで回復していた。
「グレイスもおいで」
雪がちらつく中でも元気なアレクサンダーは既に庭に出て走り回っているが、グレイスは初めて触る雪の冷たさにびっくりして部屋の中に戻って行ってしまった。沙耶が呼んでも暖炉の前に敷かれたラグの上に寝そべって動こうともしない。そんなグレイスを誘うのは仕方なく諦めると、用意してもらった長靴に履き替えて沙耶も庭に出る。
「きれい……」
はらはらと舞い落ちてくる雪を手で掬うように受け止める。だが、それは手の熱ですぐに溶けてしまい、また次を受け止める。何度かやって飽きて来ると、今度は積もった雪を丸めて小さな雪だるまを作る。今度はもうちょっと大きいのを作ろうと思って雪玉を作り始めると、駆け寄ってきたアレクサンダーが小さな雪だるまを壊してしまう。
「もう、アレク」
沙耶は怒って犬を追いかけるが、アレクサンダーは素知らぬ顔で逃げていく。走りにくい長靴を履いているし、元より犬に敵う筈も無い。それでも気付けば庭の端の方まで犬を追いかけて来ていた。ここからだと美しく雪化粧した遠くの山々が見渡せる。そのまま立ちすくんでその美しい景色を眺めていた。
「義総様にも見せてあげたいな……」
そう呟くと、後ろから誰かが着ているカシミヤコートですっぽりと包まれて抱きしめられる。すると覚えのある男性用の香水がふわりと鼻孔をくすぐる。
「俺には見せたくないの?」
「……幸嗣様!」
慌てて声がした方を向くと、傷ついた表情を浮かべた幸嗣が立っていた。仕事用のスーツにダウンコートを羽織り、予め渡してもらうように言付けてあったあのネックウォーマーを付けてくれている。彼がそこにいるのなら、背後から抱きしめてくれているのは……。
「沙耶」
一番会いたい人の声が耳元で聞こえる。心臓が高鳴り、沙耶はゆっくりと背後の人物を振り仰いだ。
「……義総様」
「会いたかった」
「義総様!」
沙耶は夢中で義総に抱きついた。義総もそれに応えるようにきつく沙耶の体を抱き返す。
「沙耶」
「義総様、義総様……」
しばらくの間、夢中で互いの名を呼びあいながら抱きしめあっていたが、互いの顔を見合すと唇を重ねる。周囲はもう目に入っておらず、2人だけの世界に浸っていた。
「あの……俺の事忘れてない?」
呆れたように幸嗣が声をかけるとようやく2人も我に返る。沙耶は頬を染めて慌てて体を離したが、自分が思っていた以上に体が冷えていたらしく小さなくしゃみをする。
「風邪を引く。中に入ろう」
義総に促され、沙耶は別荘へと歩き始める。すると、幸嗣が近寄って来て軽々と彼女を抱き上げた。
「お連れしましょう、お嬢様」
「歩けるのに……」
幸嗣はにっこり笑うとそのまま沙耶に口づけた。
「沙耶が風邪をひく。行くぞ」
まだ空からは雪が舞い落ちている。少しぶっきらぼうに幸嗣を促した義総は忠実な愛犬を連れて先に別荘へ向かう。自分から愛しい少女を抱き上げようとしないのは、やはりまだ完全に回復していないからなのだろう。
「すぐ……お帰りになられるのですか?」
義総の後を追って歩き出した幸嗣に沙耶は恐る恐る尋ねる。会えて嬉しい。だが、幸嗣が義総の仕事も背負い込んで多忙を極めているのを沙耶は知っていた。折角のクリスマスイブなのだから、楽しく過ごしたいとも思うのだが、それは無理なお願いだろうと半ば諦めてもいた。
「帰るのは明日の早朝かな。折角のクリスマスイブだからね。今夜はパーティするよ」
「本当に?」
沙耶が顔をほころばすと、幸嗣はにっこりとほほ笑む。この10日間、この為に頑張ったと言っても過言では無い。幸嗣はその笑顔だけで苦労が報われる気がした。
「ああ。このネックウォーマーのお礼も用意したから、楽しみにしていて」
「嬉しい」
沙耶は嬉しさのあまり幸嗣の首に抱きつく。役得とばかりに彼は彼女に軽く口づけた。
「幸嗣」
不機嫌そうな義総がテラスで仁王立ちしている。無理が出来ないのを自分でも分かっているから幸嗣にその役目を任せたのに、いちゃついてすぐに戻ってこないのが腹立たしいのだろう。
「やばっ……」
義総から吹き付ける見えないブリザードにさすがの幸嗣もまずいと思ったらしい。彼は沙耶を抱えたまま器用に肩を竦めると、足を速めて別荘に向かったのだった。
午後から降り始めた雪は一面を銀世界へと変えていた。午睡から覚めた沙耶は窓の外を見るなり感嘆の声を上げる。今まで住んでいた所では雪が降っても積もるのは年に数えるほど。それもすぐに溶けてしまう程度だったので、目の前に広がる光景が目新しくてならない。加えて今日はクリスマスイブ。最高にロマンチックな演出である。
「沙耶様、お風邪を召されます」
雪に見とれて薄着のままテラスに出た沙耶に、美弥子の好意で付けてくれたメイドの葉月が慌てた様子でコートを着せかける。
「ありがとう」
歳が近い事もあり、この10日余りの間で彼女とはすっかり打ち解けて話せるようになっていた。彼女がいてくれたおかげで、この別荘でもさほど寂しい思いをせずに済んでいるのは確かだろう。
あの翌朝、高嶺家の客間で目を覚ました沙耶は状況が良く飲みこめずにひどく取り乱した。側に居た幸嗣がどうにか彼女を宥め、落ち着いたところで事情を説明してこの別荘へ連れて来たのだ。それでも最初の3日くらいは精神的に不安定で、重度の眩暈を起こしてベッドから起き上がれない日もあった。
よく気の利く葉月が沙耶の体の様子を見ながら気が紛れるものを用意し、時には話し相手となってくれた。管理人の山崎夫妻はまるで孫の様に可愛がり、連れて来た2匹の犬が癒しになった。そして毎日義総とネットを介して会話をしたのが功を奏し、寂しさは感じるものの、どうにか日常生活を送れるまで回復していた。
「グレイスもおいで」
雪がちらつく中でも元気なアレクサンダーは既に庭に出て走り回っているが、グレイスは初めて触る雪の冷たさにびっくりして部屋の中に戻って行ってしまった。沙耶が呼んでも暖炉の前に敷かれたラグの上に寝そべって動こうともしない。そんなグレイスを誘うのは仕方なく諦めると、用意してもらった長靴に履き替えて沙耶も庭に出る。
「きれい……」
はらはらと舞い落ちてくる雪を手で掬うように受け止める。だが、それは手の熱ですぐに溶けてしまい、また次を受け止める。何度かやって飽きて来ると、今度は積もった雪を丸めて小さな雪だるまを作る。今度はもうちょっと大きいのを作ろうと思って雪玉を作り始めると、駆け寄ってきたアレクサンダーが小さな雪だるまを壊してしまう。
「もう、アレク」
沙耶は怒って犬を追いかけるが、アレクサンダーは素知らぬ顔で逃げていく。走りにくい長靴を履いているし、元より犬に敵う筈も無い。それでも気付けば庭の端の方まで犬を追いかけて来ていた。ここからだと美しく雪化粧した遠くの山々が見渡せる。そのまま立ちすくんでその美しい景色を眺めていた。
「義総様にも見せてあげたいな……」
そう呟くと、後ろから誰かが着ているカシミヤコートですっぽりと包まれて抱きしめられる。すると覚えのある男性用の香水がふわりと鼻孔をくすぐる。
「俺には見せたくないの?」
「……幸嗣様!」
慌てて声がした方を向くと、傷ついた表情を浮かべた幸嗣が立っていた。仕事用のスーツにダウンコートを羽織り、予め渡してもらうように言付けてあったあのネックウォーマーを付けてくれている。彼がそこにいるのなら、背後から抱きしめてくれているのは……。
「沙耶」
一番会いたい人の声が耳元で聞こえる。心臓が高鳴り、沙耶はゆっくりと背後の人物を振り仰いだ。
「……義総様」
「会いたかった」
「義総様!」
沙耶は夢中で義総に抱きついた。義総もそれに応えるようにきつく沙耶の体を抱き返す。
「沙耶」
「義総様、義総様……」
しばらくの間、夢中で互いの名を呼びあいながら抱きしめあっていたが、互いの顔を見合すと唇を重ねる。周囲はもう目に入っておらず、2人だけの世界に浸っていた。
「あの……俺の事忘れてない?」
呆れたように幸嗣が声をかけるとようやく2人も我に返る。沙耶は頬を染めて慌てて体を離したが、自分が思っていた以上に体が冷えていたらしく小さなくしゃみをする。
「風邪を引く。中に入ろう」
義総に促され、沙耶は別荘へと歩き始める。すると、幸嗣が近寄って来て軽々と彼女を抱き上げた。
「お連れしましょう、お嬢様」
「歩けるのに……」
幸嗣はにっこり笑うとそのまま沙耶に口づけた。
「沙耶が風邪をひく。行くぞ」
まだ空からは雪が舞い落ちている。少しぶっきらぼうに幸嗣を促した義総は忠実な愛犬を連れて先に別荘へ向かう。自分から愛しい少女を抱き上げようとしないのは、やはりまだ完全に回復していないからなのだろう。
「すぐ……お帰りになられるのですか?」
義総の後を追って歩き出した幸嗣に沙耶は恐る恐る尋ねる。会えて嬉しい。だが、幸嗣が義総の仕事も背負い込んで多忙を極めているのを沙耶は知っていた。折角のクリスマスイブなのだから、楽しく過ごしたいとも思うのだが、それは無理なお願いだろうと半ば諦めてもいた。
「帰るのは明日の早朝かな。折角のクリスマスイブだからね。今夜はパーティするよ」
「本当に?」
沙耶が顔をほころばすと、幸嗣はにっこりとほほ笑む。この10日間、この為に頑張ったと言っても過言では無い。幸嗣はその笑顔だけで苦労が報われる気がした。
「ああ。このネックウォーマーのお礼も用意したから、楽しみにしていて」
「嬉しい」
沙耶は嬉しさのあまり幸嗣の首に抱きつく。役得とばかりに彼は彼女に軽く口づけた。
「幸嗣」
不機嫌そうな義総がテラスで仁王立ちしている。無理が出来ないのを自分でも分かっているから幸嗣にその役目を任せたのに、いちゃついてすぐに戻ってこないのが腹立たしいのだろう。
「やばっ……」
義総から吹き付ける見えないブリザードにさすがの幸嗣もまずいと思ったらしい。彼は沙耶を抱えたまま器用に肩を竦めると、足を速めて別荘に向かったのだった。
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