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新学期
1.体内環境。
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♦︎ ♦︎ ♦︎
「...い。......おい」
朦朧とする意識の中で、誰かが叫んでいる。
背中が柔らかく、だけど喉はまだピリピリと痛くて声が出ない。
目は開いているはずなのに、ぼやけて何が何だか分からない。多分ここは、応急処置室。
自分はあの後どうなって、どうしてここにいるのかわからなかった。
「う、あ...」
ここは?と聞こうと思ったが、出たのはそれだけだった。左腕がじんじんと強く痛む。
「大丈夫か?」
「だ...れ、っ?」
聞いたことのない声と、嗅いだことのない甘くて、ベリーのような匂いがした。
知らない人は、李由の手を握って多少の汗を流していた。視界はまだぼやけて見えにくい。だけど雰囲気だけが見えた。
「お前、倒れてたぞ」
黒髪に、スッとした輪郭。どこかで見たことのある、そんな雰囲気だった。
「......そ、っか」
「水、飲むか?」
「ん......」
頭がズキズキと痛む。だけど水を飲むため、ゆっくりと体を起こした。
知らない人は、起こすのを助けてくれて、水の入ったペットボトルを口元まで運んでくれた。優しい人。
水を飲んでいると、ぼやけていた視界がだんだんとはっきり見えてくる。
李由はペットボトルから口を離すと、涙で濡れている目を左腕で擦った。
辺りを見渡す。
白いベッドと、パソコンの前に座っているのは、眼鏡をかけ、白衣を着た若い男の先生、増川龍慈(リュウジ)だった。そして目の前には、心配そうにこちらを見つめる、透き通るように綺麗な青い瞳をした、知らない人だった。
その目は確かにこっちを見ていて、醜い顔をはっきりと映していた。
青く綺麗な瞳の奥に、疲れきっている自分がいた。心臓が高鳴った。
目を逸らそうにも、離せなかった。
「大丈夫か?」
低くて耳に響く、妖艶な声。
それと同時に背骨が出ている丸っこい背中に、大きくて筋肉質な手が上下する。
背筋に悪寒が走った。李由は反射的にその男と突き放し、布団を握った。
「あ...そのっ、ごめん...なさい」
はっと我に返った李由はすぐに、驚きの顔をしている男に謝った。
男は黒髪の質のいい髪が生えた頭をぽりぽりと掻いた。
「いや、いい。大丈夫なら、よかった」
そう一言言い残すと、男は立ち上がり、鞄を持った。
背が高く、スタイルのいい体だが、筋肉質でたくましい身体をしていた。俯きがちな瞳はとても美しく、まつげも長かった。一重の切れ目なのに、パッチリとした目をしていた。
額から顎にかけてのラインは、日本人とは思えないくらいに綺麗だった。特にスッとした鼻筋が、なんとも言えないほどに整っていた。
男は、後ろを振り向き、龍慈に一礼をした。それにつられるように、龍慈も頭を下げる。そしてもう一度、こちらを振り向いた。
「ゆっくり休めよ」
頭を撫でられた。
そして一度、振り返るほんの一瞬だけ、目があったような気がした。
また、心臓が高鳴った。
このドキドキが嫌いで、李由はすぐに下を向き、視界には真っ白いシーツだけを入れた。
「じゃあ、俺はこれから自己紹介があるんで。お願いします」
そう言うと、男は応急処置室から出て行った。
李由はふぅ、と一息つき、龍慈の方を見つめた。
「寝てろ。まだ顔色悪いぞ」
「...はい」
龍慈の冷酷な目つきと声に抵抗することはできなくて、李由は言われるがままにもう一度枕に頭を埋めた。
「...い。......おい」
朦朧とする意識の中で、誰かが叫んでいる。
背中が柔らかく、だけど喉はまだピリピリと痛くて声が出ない。
目は開いているはずなのに、ぼやけて何が何だか分からない。多分ここは、応急処置室。
自分はあの後どうなって、どうしてここにいるのかわからなかった。
「う、あ...」
ここは?と聞こうと思ったが、出たのはそれだけだった。左腕がじんじんと強く痛む。
「大丈夫か?」
「だ...れ、っ?」
聞いたことのない声と、嗅いだことのない甘くて、ベリーのような匂いがした。
知らない人は、李由の手を握って多少の汗を流していた。視界はまだぼやけて見えにくい。だけど雰囲気だけが見えた。
「お前、倒れてたぞ」
黒髪に、スッとした輪郭。どこかで見たことのある、そんな雰囲気だった。
「......そ、っか」
「水、飲むか?」
「ん......」
頭がズキズキと痛む。だけど水を飲むため、ゆっくりと体を起こした。
知らない人は、起こすのを助けてくれて、水の入ったペットボトルを口元まで運んでくれた。優しい人。
水を飲んでいると、ぼやけていた視界がだんだんとはっきり見えてくる。
李由はペットボトルから口を離すと、涙で濡れている目を左腕で擦った。
辺りを見渡す。
白いベッドと、パソコンの前に座っているのは、眼鏡をかけ、白衣を着た若い男の先生、増川龍慈(リュウジ)だった。そして目の前には、心配そうにこちらを見つめる、透き通るように綺麗な青い瞳をした、知らない人だった。
その目は確かにこっちを見ていて、醜い顔をはっきりと映していた。
青く綺麗な瞳の奥に、疲れきっている自分がいた。心臓が高鳴った。
目を逸らそうにも、離せなかった。
「大丈夫か?」
低くて耳に響く、妖艶な声。
それと同時に背骨が出ている丸っこい背中に、大きくて筋肉質な手が上下する。
背筋に悪寒が走った。李由は反射的にその男と突き放し、布団を握った。
「あ...そのっ、ごめん...なさい」
はっと我に返った李由はすぐに、驚きの顔をしている男に謝った。
男は黒髪の質のいい髪が生えた頭をぽりぽりと掻いた。
「いや、いい。大丈夫なら、よかった」
そう一言言い残すと、男は立ち上がり、鞄を持った。
背が高く、スタイルのいい体だが、筋肉質でたくましい身体をしていた。俯きがちな瞳はとても美しく、まつげも長かった。一重の切れ目なのに、パッチリとした目をしていた。
額から顎にかけてのラインは、日本人とは思えないくらいに綺麗だった。特にスッとした鼻筋が、なんとも言えないほどに整っていた。
男は、後ろを振り向き、龍慈に一礼をした。それにつられるように、龍慈も頭を下げる。そしてもう一度、こちらを振り向いた。
「ゆっくり休めよ」
頭を撫でられた。
そして一度、振り返るほんの一瞬だけ、目があったような気がした。
また、心臓が高鳴った。
このドキドキが嫌いで、李由はすぐに下を向き、視界には真っ白いシーツだけを入れた。
「じゃあ、俺はこれから自己紹介があるんで。お願いします」
そう言うと、男は応急処置室から出て行った。
李由はふぅ、と一息つき、龍慈の方を見つめた。
「寝てろ。まだ顔色悪いぞ」
「...はい」
龍慈の冷酷な目つきと声に抵抗することはできなくて、李由は言われるがままにもう一度枕に頭を埋めた。
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