転生するのにベビー・サタンの能力をもらったが、案の定魔力がたりない~最弱勇者の俺が最強魔王を倒すまで~

葛来奈都

文字の大きさ
10 / 242
第1章 異世界《エムメルク》の歩き方

第10話 一難去ってまた一難

しおりを挟む
「うわっ!」

 驚いてバランスを崩した俺はバトルフォークを握ったまま後ろに倒れ込む。幸い原っぱの草花がクッションになったので後頭部の強打はなんとか守られた。とはいえ、ノアの奴いきなり飛んでくるとはいったいどういうつもりだ。

「なんだってんだよ――」

 文句を言おうと思ったが、無意識のうちに口が噤んだ。ノアが鋭い眼差しで俺を睨みつけていたからだ。

「今だけ死んどけ……それができないなら息を止めろ」

 低い声で威圧するノアに俺は目を瞠ったまま息を呑んだ。こんな鋭い眼差しで睨んでくるノアは初めて見る。こんな鬼気迫る顔をされては、俺もこれ以上何も言えなかった。彼女の言う通り、ただ息をひそめる。

 ノアはというと俺のほうを見向きもせず、ずっと後方を気にしていた。何度もちらちらと振り返っては耳を動かして物音を聞いている。

 仰向けでは周りの状況を判断しにくいので、ノアに視線を送った。俺の訴えに気づいたノアは渋々俺から降りたので、すぐさまうつ伏せになった。

 ノアがまだ耳を動かしていたので、俺も一緒になって耳を澄ました。聞こえてくるのは風の音と二人の呼吸音――そして、微かな足音。

「何か来るのか?」

 小声でノアに尋ねるが、無反応だった。

 足音が近づく。同時に、俺の心音も緊張で高鳴る。

 察知した気配にノアのひげがピクリと動いた。そして、顔を上げたノアはじっと前方を見つめる。

「なんで……こんな奴がここにいるんだよ」

 眉間にしわを寄せながら、消えそうなくらい小さな声でノアは呟いた。

 俺たちの近くに何者かの気配を感じる。

 恐る恐る視線を上げる。そして、見てしまったその輩に思わずハッと息を呑んだ。現れたのは、人ではなかった。カンガルーのような細長い顔に茶色の体毛。あとは、かろうじて立った小さな耳が見える。ただ、そいつは二足歩行だった。しかもズボンも履いており、腰元には二本のビッグナイフを差している。

 人獣の魔物がこちらに近づいてくる。よく見るとそいつの顔面には赤い花みたいな模様が刺青のように入っていた。野生の魔物にしては、あの模様が人工的に見えて変に浮いている。

「あいつ、いったい何者なんだ?」

 魔物に聞こえないように囁いてノアに訊くと、ノアは視線だけこちらに向けてきた。

「あいつは、魔王の配下だ」

 ノアが言うにはエムメルクには野生の魔物の他にあのような魔王の配下の魔物もうろついており、町や人を襲うのだという。しかもあの赤い模様は魔王の配下の証である他に魔王の魔力も流れており、知力も能力も高い者が多いらしい。

「言っておくが、今の貴様じゃあいつの相手は無理だ」

 真剣な顔つきでノアははっきりと告げる。だが、それは俺もよくわかっていた。あの小さなスライムですら四苦八苦していた俺が、あんな武器を持った魔物に勝てるはずがない。このまま身を潜めてやり過ごして、隙を見て逃げる。多分、ノアも同じことを考えているはずだ。

 いよいよ魔物がこちらまで近づいてきた。

 俺もノアも頭を下げて地面に這いつくばる。幸い、俺たちの体は伸びた草花のおかげでギリギリ隠れられていたので、魔物からはこちらの姿が見えていないようだ。

 息を殺して、奴が通り過ぎるのをひたすら待つ。こんな恐怖は初めてだった。動いたら見つかる。動いたら襲われる。動いたら死ぬ。死なないようにこうして必死に耐えているのに、生きた心地がしなかった。この時だけ妙に心臓の音が大きく感じて、時の流れも止まっているように感じた。

 早く行け。早く行け!

 心の中で何度も念じる。しかし、俺の祈願とは裏腹に奴の足音がピタリと止まった。

 なぜ、こんな何もない原っぱで足を止めるのだ。嫌な予感がするが、ここで顔を上げると奴に気づかれてしまう。今はただ、こうして奴が立ち去るまで忍ぶしかない。

 だが、嫌な予感ほどよく当たる。

 魔物からクンクンと何かを鼻で嗅ぐような音がする。そして、嗅ぎ終わったのか、「ククッ」と小さく笑った。

「臭う……臭うねえ……人の臭いだ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。 何も成し遂げることなく35年…… ついに前世の年齢を超えた。 ※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。 ※この小説は他サイトにも投稿しています。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~

こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』 公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル! 書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。 旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください! ===あらすじ=== 異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。 しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。 だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに! 神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、 双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。 トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる! ※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい ※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております ※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

処理中です...