13 / 242
第1章 異世界《エムメルク》の歩き方
第13話 赤き炎の青年剣士
しおりを挟む
魔物の背中に炎が立ち昇ったのは、その時だ。
「あっちぃ!」
熱さに驚いた魔物は飛び上がって後ろを振り向く。
俺たちの背後には草原が魔物と一直線上になるように黒く焦げていた。その先にはハットをかぶった青年が魔物に向けて持っている剣の切っ先を向けていた。
青年の剣の切っ先からは火が出ており、風でゆらりと揺れている。
「……見つけた、『ルソード』」
青年は魔物を睨みつけながら、小さく呟く。どうやら、この魔物の名前が『ルソード』と言うらしい。
「なんだお前は……!」
ルソードが目を丸くするまもなく、青年は一気に駆け出してルソードに向けて剣を振るった。
ギンッ! と金属がぶつかり合う。だが、ルソードは両手のナイフで青年の剣を押さえるのが精一杯で腕が震えていた。
青年が剣を振ってルソードのナイフを振り払う。その勢いで青年のかぶっていたハットがハラリと落ち、彼の顔が露わになった。
彼の表情に俺は思わず息を止めていた。
年は多分俺より少し上。肩ほどまで伸びた赤い髪は毛先にウェーブがかかっており、背はすらりと高い。そのうえ線が細いのに体つきは筋肉で締まっている。男の俺から見ても彼は美青年だと思う。
だが、彼の切れ長の目は鋭く、眉間にしわを寄せてルソードを睨んでいた。彼のルソードに対する憤りがここからでもわかる。
その殺気はルソードも感じていたようで、怖くなったのか彼に背を向けた。しかし、青年がルソードを逃さなかった。
「……消えなさい」
剣を構えた青年の目がカッと見開く。そして青年が剣を振ると、斬撃から噴射するように炎が出てきた。
出てきた炎は逃げるルソードを立ち切り、奴の体を燃えつくす。悲鳴をあげる暇もなく燃やし尽くされたルソードは先程俺が倒したスライムのように紫色の靄を発して消えていった。
消えたルソードと入れ替わるようにしてコアが落ちる。ただし、スライムの落としたコアより一回り以上大きい。
青年は剣に纏った炎を振るって消し、鞘に剣を戻した。そして落ちた核とハットを拾い上げ、ひと息つく。
「……大丈夫? お兄さん」
こちらに顔を向けてきた青年はニコッと頬を綻ばせ、俺に微笑む。その表情があまりにも艶やかで、男なのに色気すら感じた。
なんだこのイケメンは。しかも強いし、もう彼こそが勇者様ではないか。
鮮やかな戦闘スタイルに惚れ惚れとしていると、青年もといお兄さんは俺の肩を見てハッと息を呑んだ。
そして目を瞠り、大きく開けた口を両手で覆いながら彼は言う。
「やだ~~! ちょっとお兄さん! 怪我してるじゃないのよ~~!!」
「…………え?」
彼の口調に目が点になった。耳を疑う勢いだった。こんな美形な人がそんな口調を使うはずがないと勝手に思っていた。それなのに――
「ほら、怪我してるところあたしに見せなさい!」
何回聞いても、がっつりオネエ口調ではないか。
顔を強張らせながら固まっていると彼は自分のショルダーバッグから小ビンを取り出していた。
手のひらサイズのその小ビンの中には青い液体が入っている。小ビンのコルクを開けると、彼はそのまま俺の肩に水をかける。すると、あれだけ痛みのあった肩の痛みが一瞬で和らいだ。
「な、何これ! すげー!」
よく見ると流れていた血も止まっている。ただ、あの勢いで投げられたせいもあって、傷は思ったより深く、跡はしっかりと残っていた。
「あとは、気休めかもしれないけど……」
彼はバッグからタオルを取り出し、包帯のように俺の傷口に結ぶ。痛みは完全に取れていないとはいえ、彼の手当のおかげで動かせるくらいまでは回復した。
「あ、ありがとうございます!」
咄嗟に頭を下げると、彼は「いいのよ」と静かに首を振った。
「困った時はお互い様でしょ? あたしはアンジェ。あなたは?」
「えっと……ムギトっす」
「ムギト? へえ、可愛い名前じゃない。よろしくね、ムギちゃん」
「ム、ムギちゃんって……」
その呼び名が気になるが、アンジェが屈託のない笑みで握手を求めてきたから渋々俺も手を取る。
すると、アンジェは手を握ったままヌッと俺に顔を近づけてきた。アンジェは切れ長の目でじっと俺を見つめる。そんな美形な顔で凝視されると緊張してしまう。
「な、なんすか……?」
顔を引きつらせながらアンジェに尋ねると、彼はクスッと笑った。
「あっちぃ!」
熱さに驚いた魔物は飛び上がって後ろを振り向く。
俺たちの背後には草原が魔物と一直線上になるように黒く焦げていた。その先にはハットをかぶった青年が魔物に向けて持っている剣の切っ先を向けていた。
青年の剣の切っ先からは火が出ており、風でゆらりと揺れている。
「……見つけた、『ルソード』」
青年は魔物を睨みつけながら、小さく呟く。どうやら、この魔物の名前が『ルソード』と言うらしい。
「なんだお前は……!」
ルソードが目を丸くするまもなく、青年は一気に駆け出してルソードに向けて剣を振るった。
ギンッ! と金属がぶつかり合う。だが、ルソードは両手のナイフで青年の剣を押さえるのが精一杯で腕が震えていた。
青年が剣を振ってルソードのナイフを振り払う。その勢いで青年のかぶっていたハットがハラリと落ち、彼の顔が露わになった。
彼の表情に俺は思わず息を止めていた。
年は多分俺より少し上。肩ほどまで伸びた赤い髪は毛先にウェーブがかかっており、背はすらりと高い。そのうえ線が細いのに体つきは筋肉で締まっている。男の俺から見ても彼は美青年だと思う。
だが、彼の切れ長の目は鋭く、眉間にしわを寄せてルソードを睨んでいた。彼のルソードに対する憤りがここからでもわかる。
その殺気はルソードも感じていたようで、怖くなったのか彼に背を向けた。しかし、青年がルソードを逃さなかった。
「……消えなさい」
剣を構えた青年の目がカッと見開く。そして青年が剣を振ると、斬撃から噴射するように炎が出てきた。
出てきた炎は逃げるルソードを立ち切り、奴の体を燃えつくす。悲鳴をあげる暇もなく燃やし尽くされたルソードは先程俺が倒したスライムのように紫色の靄を発して消えていった。
消えたルソードと入れ替わるようにしてコアが落ちる。ただし、スライムの落としたコアより一回り以上大きい。
青年は剣に纏った炎を振るって消し、鞘に剣を戻した。そして落ちた核とハットを拾い上げ、ひと息つく。
「……大丈夫? お兄さん」
こちらに顔を向けてきた青年はニコッと頬を綻ばせ、俺に微笑む。その表情があまりにも艶やかで、男なのに色気すら感じた。
なんだこのイケメンは。しかも強いし、もう彼こそが勇者様ではないか。
鮮やかな戦闘スタイルに惚れ惚れとしていると、青年もといお兄さんは俺の肩を見てハッと息を呑んだ。
そして目を瞠り、大きく開けた口を両手で覆いながら彼は言う。
「やだ~~! ちょっとお兄さん! 怪我してるじゃないのよ~~!!」
「…………え?」
彼の口調に目が点になった。耳を疑う勢いだった。こんな美形な人がそんな口調を使うはずがないと勝手に思っていた。それなのに――
「ほら、怪我してるところあたしに見せなさい!」
何回聞いても、がっつりオネエ口調ではないか。
顔を強張らせながら固まっていると彼は自分のショルダーバッグから小ビンを取り出していた。
手のひらサイズのその小ビンの中には青い液体が入っている。小ビンのコルクを開けると、彼はそのまま俺の肩に水をかける。すると、あれだけ痛みのあった肩の痛みが一瞬で和らいだ。
「な、何これ! すげー!」
よく見ると流れていた血も止まっている。ただ、あの勢いで投げられたせいもあって、傷は思ったより深く、跡はしっかりと残っていた。
「あとは、気休めかもしれないけど……」
彼はバッグからタオルを取り出し、包帯のように俺の傷口に結ぶ。痛みは完全に取れていないとはいえ、彼の手当のおかげで動かせるくらいまでは回復した。
「あ、ありがとうございます!」
咄嗟に頭を下げると、彼は「いいのよ」と静かに首を振った。
「困った時はお互い様でしょ? あたしはアンジェ。あなたは?」
「えっと……ムギトっす」
「ムギト? へえ、可愛い名前じゃない。よろしくね、ムギちゃん」
「ム、ムギちゃんって……」
その呼び名が気になるが、アンジェが屈託のない笑みで握手を求めてきたから渋々俺も手を取る。
すると、アンジェは手を握ったままヌッと俺に顔を近づけてきた。アンジェは切れ長の目でじっと俺を見つめる。そんな美形な顔で凝視されると緊張してしまう。
「な、なんすか……?」
顔を引きつらせながらアンジェに尋ねると、彼はクスッと笑った。
12
あなたにおすすめの小説
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~
シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。
前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。
その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる