転生するのにベビー・サタンの能力をもらったが、案の定魔力がたりない~最弱勇者の俺が最強魔王を倒すまで~

葛来奈都

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第1章 異世界《エムメルク》の歩き方

第14話 フォルムチェンジが些細すぎる

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「気にしないで。綺麗な髪色と紫色の瞳だなって思っただけだから」

「むらさき?」

 反射的に目に触れる。俺の瞳の色は黒だ。なのにアンジェは紫と言った。

 確かめたいとズボンのポケットを探るが、顔を見られるような鏡もスマホもない。もたついている俺を不思議に思ったのか、アンジェは首を傾げながらまたバッグの中を探る。

「こんなのでいいかしら?」

 彼が取り出したのは木製の小さな鏡だった。

「わ、悪い」

 会釈しながら鏡を受け取り、顔を覗き込む。すると、アンジェの言った通り俺の瞳が紫色になっていた。

「うわ、マジだ! どういうことだよノア!」

 隣に座るノアに訊くと、ノアは澄ました顔でゆっくりと尻尾を振る。

「さあ? 転生したから見た目が変わったのでは?」

「さあって……適当だな、おい」

 半目になって顔をしかめていると、そのやり取りを見ていたアンジェがクスクスと笑う。

「凄いわムギちゃん。あなた、猫の言葉がわかるのね」

「え」

 しまった、と思った時は遅かった。ノアの声が俺にしか聞こえていないということを忘れていた。

 彼からしてみれば、ノアは「にゃーにゃー」としか言ってない。猫と話しているところを見られるなんて、ちょっと、いや、かなり恥ずかしい。

 頬に火照りを感じながらなんて誤魔化そうかと考える。けれども、アンジェは気にしていないようで、ニコニコ笑いながらノアの前にしゃがみ込んだ。

「あなたもよろしくね、ノア」

 そう言ってアンジェはノアの喉元を指で優しく撫でた。

 ノアは目を細めながら嬉しそうにゴロゴロと喉を鳴らす。元の姿は神の使いだというのに、こう見ると本当にただの猫だ。こいつ、順応性高いな。

 感心しながら腕を組んでいると、ノアを撫で終えたアンジェがすっくと立った。

「ところで……あなたたち、見ない顔よね。どこから来たの?」

 ドキッとした。アンジェの問いは当然の疑問だ。けれども、「どこから来たの?」と言われても、なんて言えばいいのだ。日本で通じるのか?

「え、えっと……」

 何を言おうか戸惑っていると、アンジェが不思議そうに小首を傾げた。これ以上言及されたくないあまりに咄嗟に視線を逸らす。すると、ニヤニヤと面白そうに笑うノアを目が合った。こいつ、案内人のくせに助ける気は毛頭なさそうだ。

 困惑している俺に、アンジェは見兼ねたのか心配そうに眉尻を垂らす。

「……もしかして、迷子?」

「え……あー……迷子っちゃ迷子っすね」

 主に人生の。

 それはどうでもいいとして、その場を取り繕うために俺は話を続けた。

「迷子もあるんすけど……い、色々と記憶がないんすよね」

 誤魔化すつもりだったが、目が泳いでいるのが自分でもわかる。ただ、この状況を上手く打破できるのがこれしか思いつかなかった。ちらりとノアを見ると、相変わらず澄まし顔だった。少しくらいなんか言ってくれ。

 恨めしそうにノアを見ていたが、そんな俺の不安を他所にアンジェは「まあ!」と声をあげた。

「もしかして記憶喪失? さっき魔物に襲われたせいかしら」

「可哀想に」とアンジェは人差し指を自分の頬に当てて小さく息を吐いた。この人は本当、仕草の一つ一つが女性……いや、女性より女性な気がする。

「そういえば、アンジェさんはなんでこんなところに来たんすか?」

 素朴な疑問をアンジェにぶつける。

 すると、アンジェは「呼び捨てでいいわよ」と笑みながら答えた。

「ギルドからさっきの魔物……ルソードの討伐のクエストがあってね。ここに出没情報があったからやってきたのよ」

「な、なるほど……」

『ギルド』『クエスト』気になる言葉は色々あるが、この場をやり過ごすために敢えて深追いはしないでおいた。

「でも、びっくりしたわ。着いてみたらいきなり悲鳴が聞こえたんだもの。本当、飛んできたかいがあったわ」

 アンジェはホッとした様子で頬を綻ばす。

 俺も本当に不甲斐ない。アンジェが来てなかったら間違いなく死亡していただろう。その魔物退治を依頼した人にも感謝せねば。

 そんなことを思っていると、アンジェは「さて」と話題を切り替えるように軽く手を叩いた。
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