転生するのにベビー・サタンの能力をもらったが、案の定魔力がたりない~最弱勇者の俺が最強魔王を倒すまで~

葛来奈都

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第3章 青年剣士の過日

第41話 魅惑の踊り子の話

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 音が誘うところに行くと、噴水がある広場で演奏会が行われていた。明るい笛の音色、元気にビートを刻むパーカッション、陽気なメロディラインを奏でるアコーディオン……聴いている大人も子供もみんな笑顔だ。中には音楽に合わせ踊っている人もいる。

 ミドリーさんも近くのベンチに座って演奏を眺める。その表情は穏やかで、何かを懐かしむように遠い目をしていた。

 俺も彼の隣に座って演奏を観ていると、噴水の周りで遊んでいた子供たちがミドリーさんに近づいた。

「神官様、こんにちは!」

「おう、こんにちは。元気か?」

「うん! 元気!」

「それはいい。でも、怪我はするなよ」

 ニッと笑ったミドリーさんは大きな手でガシガシと子供たちの頭を撫でる。頭を撫でられた子たちも嬉しそうだ。こう見ると、ミドリーさんが子供たちに慕われているのがよくわかった。

 ほっこりしながらたむろする子供たちを見ていると、一人の女の子が演奏者の様子に首を傾げていた。

「ねえねえ神官様。今日もイルマはいないの?」

 女の子はパッチリとした大きな目でミドリーさんを見つめる。

 そんな無垢な彼女にミドリーさんは困ったように眉尻を垂らした。女の子に問われてもミドリーさんは口を噤んだままだった。彼女になんて言おうか答えをためらっているようにも感じた。

 そうしているうちに噴水のところに道化師が現れた。その手には風船をたくさんあり、手招きして子供たちを呼んでいる。

「ほら、ピエロが呼んでる。行ってあげなさい」

 ミドリーさんが優しく言うと、子供たちは元気に返事をして道化師のところへ駆けていった。

 その様子にミドリーさんはホッと胸を撫で下ろしている。女の子の問いから逃れられたことを安心しているのだろうか。

「……その、イルマって人のこと訊いていいんすか?」

 禁句に触れるような雰囲気だったので、恐る恐る尋ねてみた。

 ミドリーさんは一瞬目を瞠ったが、何か察したように微笑んだ。 

「イルマは、この街に住んでいた【踊り子ダンサー】の女の子だ」

 踊り子と聞いて脳裏に肌を大いに露出したエロティックな服装を身に纏い、魅惑の腰つきでフェロモンを振りまくような妖艶な女性が浮かび上がった。想像しただけで飯が三杯食える。

 そんな想像を膨らませていたが、イルマという人は俺が思っているよりも凄い人のようだった。

「非常に表現力のある子だったよ。陽気な音楽の時は元気でアクロバティックな踊りを。そして艶やかなジプシー音楽の時は数多を虜にする婀娜《あだ》な踊りを……しかも、属性魔法が『土』だったものだから、彼女が屋外で舞うと花が咲き乱れるんだ。踊りと魔法を上手く掛け合わせた上手い魅せ方で、俺も目を奪われたものだよ」

 花咲く大地で舞う踊り子……ミドリーさんの語り口だけでもうっとりするような演出だ。

 そのうえ美貌もあり、大人びた切れ長の目で流し目されると誰もが魅了されたのだという。

 そこまで幅広い演舞ができるのならば場数を踏んだベテランなのだろうと思っていたが、なんと彼女は若干二十歳だというではないか。俺より年下じゃん。何してるんだよ、俺。

「若さと実力を兼ね合わせていたから、爆発的な人気だったよ。彼女に会うためにこの街に来る冒険者もいたくらいだ」

「な、なるほど……」

 ひとまず頷いてみるが、さっきからミドリーさんのイルマに対する熱が凄い。本人は淡々としているつもりだろうが、さっきから語りが止まっていない。

「ミドリーさん……もしかしてイルマのファンだったんすか?」

 三十過ぎのおっさんが二十歳の【踊り子ダンサー】のファン……そう思ったら自然と顔がにやける。

 俺の吹っかけにミドリーさんも面食らったように「え?」と素っ頓狂な声をあげた。だが、すぐに大きく口を開けて大笑いする。

「そうだなあ……そう言われると、俺もファンだったんだろうな」

「あらあら、ミドリーさんもお好きですねえ」

 むっつりスケベなミドリーさんにいやらしく目を細め、肘で小突く。

 けれども、俺にからかわれてもミドリーさんの反論はなかった。ただ、どこか懐かしみ、それでいて淋しそうな眼差しでどこか遠くを見ていた。そんな表情をされてしまったら、俺もこれ以上何もできないではないか。

 イルマのことは、やはり禁句だったのだろうか。
 これ以上訊けない雰囲気に俺も固まってしまう。
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