転生するのにベビー・サタンの能力をもらったが、案の定魔力がたりない~最弱勇者の俺が最強魔王を倒すまで~

葛来奈都

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第3章 青年剣士の過日

第43話 ラブコメの波動、再び

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「あの……」

 ふと、頭のほうから遠慮しがちな女の子の声が聞こえてきた。

 聞き覚えのある声と人の気配に俺ははじけるように飛び上がる。

「お邪魔して……大丈夫でしたか?」

 その声の正体に俺は思わず目を見開いた。そこにいたのは他でもなくセリナだったからだ。

 しかも今日のセリナの服装は淡い黄色のワンピースで、長いオレンジ色の髪も下ろしていた。ギルドの受付の制服も白がベースで可愛かったが、私服の今もとても可愛い。

 いやいや、彼女の容姿に見惚れている暇ではない。

「な、なんでこんなところに……」

 口をパクパクさせながら、彼女から退くように身動ぎする。こんな街の離れにポツンとある家だから誰も来ないだろうと油断していた。

 だが、うろたえる俺を見て、セリナは優しく微笑んだ。

「アンジェさんに言われていたんです。ムギトさん、魔法が上手く使えないことに悩んでいるから力になってあげてって。きっと、今日なら魔法の修行しているだろうからって」

「アンジェが……そんなことを……」 

 セリナの証言にウインクしたアンジェの得意げな表情が浮かんだ。

 アンジェの奴、俺の悩みも行動も全部読んでいたのだ。しかし、ここまで手に取るように思考や行動がバレているとは……アンジェには敵わない。

 照れ臭くなって頬を掻いていると、セリナはクスクスと口に手を当てて笑う。

「アンジェさんから話は聞いていましたが……ムギトさんって本当にノアちゃんの言葉がわかるんですね。『にゃーにゃー』鳴いてるノアちゃんとお話しているの、とても可愛かったですよ」

「うっ……」

 セリナにノアとの会話を聞かれていた。いや、聞かれていたのは俺の一方的な発言でノアのほうはどうせ適当に鳴いているだけか。恥ずかしいシチュエーションではないか。

 そもそも、俺ノアとどんな話をしていたのか。凄くどうでもいい話しかしてないような……思い返せば思い返すほど顔が熱くなるのを感じる。

 あと、「アンジェから聞いた」というのも聞き捨てならない。なぜアンジェもバラしているのだ。

 そんな恥ずかしむ俺の隣でノアはわざとらしく「にゃー」と鳴いた。そのムカつく態度に思わず舌打ちが出そうになる。セリナがいるからしないが。

「クソー……どいつもこいつも俺のプライバシーを侵害しやがって」

 羞恥心を誤魔化すように頭を掻き乱す。すると、セリナは俺を見て微笑ましそうに口角を上げた。

「……お腹、減ってるって言ってましたよね?」

 そう言ってセリナは持っていた籠のバスケットを軽く上げる。

「サンドイッチ作ってきたんです。一緒に食べませんか?」

「……え?」

 その瞬間、暖かい風が吹いた。そして、同時に胸が高鳴った。

「あ、ありがとう……いただきます」

 緊張で声が震える。これは俗に言う「ランチデート」ではないか。しかもこの風景はほぼピクニック。ラブコメの波動を多いに感じる!

 ……と、思っていた矢先、嬉しそうに目を細めたセリナがその場でしゃがみ込んだ。

「ノアちゃんには果物を持って来ましたからね」

 フフッと笑いながらセリナはノアの喉元を撫でる。

 あー、そういえばいたな。このクソにゃんこ。

 この一瞬で期待が崩れ去り、憎悪を込めてノアを見下ろす。けれども、ノアも嘲るように口角を上げた。俺の下心を見抜いているようだった。

 そんなことになっていることも知らず、セリナだけは楽しそうにシートを広げてランチの準備をしていた。

 二人横に並んで食べるというのは、なんだか照れ臭い。けれども、こうしてシートを敷いて青空の下でサンドイッチを食べるのは、こうも気分がいいものか。

「お口に合いますか?」

「うん。どれも美味いよ」

「よかった。作った甲斐がありました」

 こんな恋愛シミュレーションゲームのような会話なのに、実は緊張で喉が通っていなかった。本当はよく味わって食べたいが、食べないと間が持たなかった。

 というか俺、女の子と二人で食事をするの初めてだ。これも異世界に転生していなければ叶わなかっただろう。異世界最高。邪魔者もいなければもっと最高。

 そんな邪魔者、もとい、ノアはセリナがくれたりんごをむしゃむしゃと食べていた。

 どうやら、ノアがりんごを食べることもアンジェから予め聞いていたらしい。こんな奴に気を遣わなくていいのに。本当にセリナはいい子だ。
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