転生するのにベビー・サタンの能力をもらったが、案の定魔力がたりない~最弱勇者の俺が最強魔王を倒すまで~

葛来奈都

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第4章 ギルド、崩壊

第62話 離れていてもずっと一緒だよ(白目)

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 ◆ ◆ ◆


 翌朝。

「……おい、起きろ」

 今日もノアに起こされたので、俺は半分寝ながらもうっすらと目を開けた。

 だが、この日はなんだかノアの様子がおかしかった。いつもなら目を開けるとノアの顔面が視界に入るのだが、今回は頭上から声が聞こえただけで、奴の姿はない。

 ぼうっとしながら掛け布団の周りを見てみるが、やはりいない。

「貴様……まだ寝てるのか?」

 ノアの呆れたような声が横からしたので、寝ぼけたまま徐ろに顔を向ける。しかし、そこにいたのは猫のノアではなかった。

「うわっ! びっくりした!」

 俺が仰天した声をあげるのも無理はないだろう。なんせ、俺の横にローブを着た水色の長い髪の女性が立っているのだ。だが、彼女こそがノアだ。すっかり猫として定着していたが、本来はこの姿である。

「なんだよその格好! 驚かすんじゃねえよ!」

 朝っぱらから予言なしていきなりその姿で現れるなんて心臓に悪い。起こすならもっと丁寧に優しく起こしてほしいものだ。

 そんな俺を見て、ノアは「やれやれ」とため息をついた。

「貴様、私の顔を忘れていたな?」

「こんだけ会ってなかったら忘れるわ。というか、異世界でもその姿になれるのかよ」

「むしろなぜなれないと思った。確かに貴様以外の奴には認識されないが、自由に姿を変えられる。ただ、猫の姿あれのほうが動きやすいというだけだ」

 そう言ってノアは舌打ちを打ちながら腕を組んだ。彼女が今になってこの姿になっているのは訳があるらしい。

「神に呼び出された。少しの間、神のところに行ってくる」

「……は?」

 突然のことで目が点になる。

 けれどもノアは呼吸をするように背中から羽を生やし、無言で窓を開けた。

「待て待て待て! もう行こうとするな!」

 窓の縁に足を開け、今にも飛び立とうとするノアを止める。しかし、ノアは「なんだよ」と不機嫌そうに顔をしかめた。

「『なんだよ』じゃねえわ。なんで呼ばれたか説明しろよ」

「それは私が知りたいくらいだ。ニートの貴様にわかるか? 上司から用件も何一つ言われずに呼び出しくらうこの恐怖を」

「だからニートじゃねえから! まだ学生だから!」

 クワッと口を開けてツッコミを入れるが、ノアには億劫そうに欠伸をされた。人の姿になってもいちいちムカつく奴だ。

「そもそも、俺たち契約してるんじゃないのかよ。離れていいものなのか?」

「それは問題ない。残念ながら契約はそう簡単に切れるものではないだ。貴様が私の前から逃げようが効力は続く」

「なるほど、魂が一心同体って訳な。クッソほど嬉しくねえけど」

「それはお互い様だ」

 眉をひそめる俺を「シッシッ」とあしらうようにノアは言う。

「と言っても、かかっても二、三日くらいだろ。私がいなくてできなくなるのはせいぜいステータスボードが観れないくらいだ」

 言われてみるとこいつがいなくても大して困らない。どうせレベルは上がっても気づかないし、ステータスの伸びも悪い。数日程度では然程変化はないだろう。それに、わからないことがあればアンジェに聞けばいい。

「どうせ神様に会うなら魔王の情報くらいもらってこいよ」

「言われなくてもわかっている。貴様も死んだらぶっ殺すからな」

「へいへい。こっちも二度も殺されてたまるかよ」

 わざとらしく半目にして返すと、ノアは煙たそうな表情で窓の縁を蹴った。

 羽を広げたノアは飛んだと思うとそのまま白い発光体に包まれて消えた。その姿はまさしく天使そのもので、今まで半信半疑だった「神の使い」というのにようやく信憑性が増した。

 さて、ノアもいなくなって清々したところだし、俺も朝食を取ることにしよう。

 欠伸をしながら寝巻のままリビングに行く。そこではアンジェが優雅に紅茶を飲んでひと休みしていた。

「おはようムギちゃん……あら、ノアちゃんは?」

 ノアがいないことに気づいたアンジェは不思議そうに首を傾げる。だが、ここで馬鹿正直に「上司に呼ばれた」なんて言っても意味不明なので、適当に誤魔化すことにした。

「まあ……あれだ。猫の集会って奴?」

 嘘が下手くそか俺は。

 と、思ったのだが、アンジェのほうから「野暮用って奴ね」と深入りしないでくれた。本当、空気を読んでくれる良い人だ。

「ノアちゃんがいないのは淋しいけど……ひとまず今日も集会所に行きましょうか」

「そうだな。武器も回収しないとだし」

 息をつき、椅子に座って皿に置かれたパンを口に入れる。差し詰めクエストを通しての修行といったところだろう。今日も変わり映えのない一日になりそうだ。

 それでもアンジェは張り切っており、「頑張るわよ」と俺の背中を押した。
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