転生するのにベビー・サタンの能力をもらったが、案の定魔力がたりない~最弱勇者の俺が最強魔王を倒すまで~

葛来奈都

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第4章 ギルド、崩壊

第70話 クエスト開始

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 ミドリーさんのクエストはこうだ。

「方法はどんなことでも構わない。彼女の命を救ってほしい。期限は……三日前後。おそらくそれが彼女の寿命だろう。報酬はなんでもいい。資金でも武器でもお前らの望むものをなんでもやろう」

「し、神官?」

 つらつらと話すミドリーさんにアンジェもまごついた。

「別に俺たちは報酬がほしいんじゃないんすけど」

「まあ、そう言うのでない。お前らだってギルド員だろ? ここまでやるなら正式に依頼させてくれ。それに、クエストとして通したほうが都合のいいこともあるだろよ」

「そうかもしれないけど……本当にいいの?」

 申し訳なさそうに眉尻を垂らすアンジェにミドリーさんは「いいんだ」と首を振る。

「私もムギトの言葉で目が覚めたんだよ。君たちの誠意に私も精いっぱい応えさせてくれ……いいだろう?」

 同意を求めるように【創造者クリエーター】の彼らのほうを見ると、セバスは渋々頷いた。

「わかりました……僕も、セリナさんが死ぬのは嫌だから……」

「俺もです。できることならなんでもサポートさせてください」

「そうか……ギルドのご協力に感謝する」

 ミドリーさんは安堵したように息をつく。

 正式にギルドのクエストとして通ったのはいい。ただ、依頼内容で一つ引っかかることがあった。期限のことだ。

「タイムリミットは三日……いや、それよりも短いかもしれないのか」

 口にするとより緊張感が増した。こればかりはセリナの生命力にかかっているし、あくまでも目安で事態が一刻を争うということは変わりない。

「でも、歩きだと森にたどり着くだけで半日はかかるわ。移動するなら馬車がいいと思うけど……」

「問題は、御者ぎょしゃがそこまで送ってくれるかだな」

 ミドリーさんの言う通りだ。森までの道中も魔物が出るのだ。そんな危険な場所まで俺たちを送るなんてリスクが高いことを御者がしてくれるとは思えない。

 どうしようかと悩んでいると、フーリが「あの」と俺たちの話に割り込んできた。

「俺が二人を森まで送って行きます」

「なんですって?」

 フーリの発言にアンジェが素っ頓狂な声をあげる。セバスなんて「マジで言ってるのかこいつ」と言わんばかりに目を見開いて数歩退いた。しかし、彼の表情は真剣だ。

「フーリ……いいのか、そんな危険なことを担ってもらって」

 確認するようにミドリーさんが訊くと、フーリは力強く頷いた。

「俺なら馬車を扱えるし、帰りであれば馬車ごと魔法で街に戻れます」

「それはそうなのだが……」

「それに、仲間がこんな目に合ったのにここで何もしないなんて男が廃るじゃないですか」

 彼の真っすぐな眼差しから彼の本気度合いが伝わる。それはミドリーさんも感じ取ったようで彼も渋々「わかった」と了承した。

「ということで、セバス。書類関係は頼んだ」

「わ、わかりました。任せてください」

 フーリがセバスに請うと、セバスは「こうしちゃいられない」と慌ただしく部屋を出て行った。

 クエストを正式に受けるとなると依頼書も必要。ギルドの印鑑も必要。あの半壊になったギルドの集会所に行って色々と取りまとめなければならないのだろう。

 立ち去ったセバスを見送ると、フーリは腰に手を当て、「よしっ」と気合いを入れた。

 なんかいつの間にかあれやこれやと事が進んでしまった。完全に差し置かれているが、今の俺たちに味方が増えるのにデメリットはないだろう。

「ど、どうもありがとうございます」

 まごつきながらも会釈すると、フーリはふるっと首を横に振った。

「言っただろ。できることならなんでもサポートするって」

 そう言って彼はニッと口角をあげた。

「改めて……俺はフーリ。風属性の【騎手ライダー】だ」

「こちらこそ、よろしく頼むっす」

 握手を求めるフーリに俺も彼の手を握り返す。そんな固い握手を交わす俺とフーリを見て、アンジェは嬉しそうに微笑んだ。

 移動手段も得た。一時的とはいえ味方も増えた。 

 あとは、出発するだけである。

 ――死ぬんじゃねえぞ。セリナ。

 振り返り、眠る彼女に心の中で話しかける。そして人知れず瘴気と戦う彼女の姿をしかと目に焼きつけ、自分自身を奮い立たせた。

「――行くぞ。お前ら」

 クエスト、開始だ。
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