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第5章 『死の森』へ
第71話 「街を出たら本気出す」
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すぐに出発したいところだったが、フーリの準備が整うまで俺たちは教会の前で待機していた。
治療を終えたモネさんからは「餞別に」とクーラの水と彼女が調薬した回復薬をいただいた。
しばらくは街に戻れないだろうから、この辺りは節約しないとすぐにゲームオーバーになるだろう。
「気合い入れていかないとな」
腕を伸ばしてストレッチしていると、アンジェが「そうね」と短く返した。
しかし、先ほどから彼の顔が浮かばない。彼も緊張しているのだろうか。
不思議がっていると、やがて向こう側から馬の足音が聞こえてきた。フーリだ。どういう訳かダルマンさんも一緒にいる。
「待たせたな」
そう言った彼は馬の手綱を引き、ちょうど俺たちの前で馬車を停めた。
「おお……すげー……」
立派なたてがみを揺らす大きな黒い馬と初めて見る馬車に感嘆の声が出る。
なお、荷台のほうは簡易的で、シートのような覆うものがない無蓋馬車だった。乗れるのもせいぜい大人が三人までだろう。馬とのギャップが凄い。
「悪いな。うちで空いているのがこれしかなかった」
「うちって……それ、フーリさんの家の馬車なんすか?」
「ああ。大事な商売道具なんだから、壊すんじゃねえぞ」
フーリに聞いたのに、なぜかダルマンさんが答える。ダルマンさん曰く、これを使って転々と移動しながら商売していたらしい。
「ちなみにこいつはセントリーヌ。俺の愛馬だ」
セントリーヌと呼ばれた馬は返事をするように「ブルッ……」と小さく鳴いた。というか、メスだったんだなこいつ。凛々しい顔をしているからてっきりオスだと思っていた。
「頼むわね、センちゃん」
アンジェは優しくセントリーヌを撫でると、彼女は嬉しそうに目を細めた。
「あと、これは俺からの餞別だ。遠出するんだろ?」
「え、いいんすか」
手渡されたゴツゴツと角ばって膨らんだ麻の袋を受け取る。思わずうろたえたが、ダルマンさんは「サービスだ」と言ってくれた。
「頑張ってギルドの嬢ちゃん救ってこい!」
「はい!」
気合いが入った俺の声にダルマンさんが「良い返事だ」と歯を見せ笑う。その期待には、意地でも応えなければならない。
「それでは、そろそろ」
そう言ってアンジェは荷台の縁に手を伸ばして軽々と乗り込んだ。
無論、俺にはそんな身軽さも運動神経もないので、乗る時はアンジェに手を伸ばしてもらった。恰好悪いなんて言うのでない。ヒーロー性なんて、手前のページに置いてきた。
そんなメタいことはさておき、いよいよ出発だ。
「んじゃ、行ってくるっすわ」
「ああ。頼んだぞ」
「気をつけてね」
グッと親指を立てるミドリーさんと心配そうに見守るモネさんにも手を掲げる。それを合図にフーリも手綱を引いてセントリーヌを走らせた。
走らせるというが、セントリーヌの歩みはゆっくりだった。
よく考えれば当たり前だ。馬一体に対し、成人男性三人と荷台を引いているのだ。そんなに早く走れることはない。
それなのに、どうして「移動は馬車で」と彼らは言ったのだろう。
「なあ……これ、大丈夫なのか? このペースだと日ぃ暮れね?」
心配して聞いてみると、アンジェは「大丈夫よ」とウインクした。
「こんな街中であまり早く走ると危ないでしょ?」
「街を出たら本気を出すから、今はちょっと待っててくれよ」
「そ、そうっすか……」
アンジェとフーリにそう諭されたので、納得するように頷いてみる。しかし、『本気を出す』という言葉に一抹の不安を感じるのはなぜだろうか。
そんな俺をよそに、アンジェはフーリに近づいて彼に話かけた。
「それにしても、あなたが手伝ってくれて助かったわ」
「といっても、これくらいしかできないがな。本当に頼むぜ、アンジェ」
「ええ。やるだけのことはやってみるわ」
そうして会話する二人は親しげに見える。アンジェとフーリは年も近そうだし、元々友達だったのだろうか。
「なあ、アンジェとフーリさんって……」
「フーリでいいよ。それに、その変な敬語使うのも疲れるだろ?」
「あ、んじゃ遠慮なく……んで、二人共昔馴染みなのか?」
なんとなしに尋ねると、アンジェが「そうだったわ」と思い出したように手を叩いた。
治療を終えたモネさんからは「餞別に」とクーラの水と彼女が調薬した回復薬をいただいた。
しばらくは街に戻れないだろうから、この辺りは節約しないとすぐにゲームオーバーになるだろう。
「気合い入れていかないとな」
腕を伸ばしてストレッチしていると、アンジェが「そうね」と短く返した。
しかし、先ほどから彼の顔が浮かばない。彼も緊張しているのだろうか。
不思議がっていると、やがて向こう側から馬の足音が聞こえてきた。フーリだ。どういう訳かダルマンさんも一緒にいる。
「待たせたな」
そう言った彼は馬の手綱を引き、ちょうど俺たちの前で馬車を停めた。
「おお……すげー……」
立派なたてがみを揺らす大きな黒い馬と初めて見る馬車に感嘆の声が出る。
なお、荷台のほうは簡易的で、シートのような覆うものがない無蓋馬車だった。乗れるのもせいぜい大人が三人までだろう。馬とのギャップが凄い。
「悪いな。うちで空いているのがこれしかなかった」
「うちって……それ、フーリさんの家の馬車なんすか?」
「ああ。大事な商売道具なんだから、壊すんじゃねえぞ」
フーリに聞いたのに、なぜかダルマンさんが答える。ダルマンさん曰く、これを使って転々と移動しながら商売していたらしい。
「ちなみにこいつはセントリーヌ。俺の愛馬だ」
セントリーヌと呼ばれた馬は返事をするように「ブルッ……」と小さく鳴いた。というか、メスだったんだなこいつ。凛々しい顔をしているからてっきりオスだと思っていた。
「頼むわね、センちゃん」
アンジェは優しくセントリーヌを撫でると、彼女は嬉しそうに目を細めた。
「あと、これは俺からの餞別だ。遠出するんだろ?」
「え、いいんすか」
手渡されたゴツゴツと角ばって膨らんだ麻の袋を受け取る。思わずうろたえたが、ダルマンさんは「サービスだ」と言ってくれた。
「頑張ってギルドの嬢ちゃん救ってこい!」
「はい!」
気合いが入った俺の声にダルマンさんが「良い返事だ」と歯を見せ笑う。その期待には、意地でも応えなければならない。
「それでは、そろそろ」
そう言ってアンジェは荷台の縁に手を伸ばして軽々と乗り込んだ。
無論、俺にはそんな身軽さも運動神経もないので、乗る時はアンジェに手を伸ばしてもらった。恰好悪いなんて言うのでない。ヒーロー性なんて、手前のページに置いてきた。
そんなメタいことはさておき、いよいよ出発だ。
「んじゃ、行ってくるっすわ」
「ああ。頼んだぞ」
「気をつけてね」
グッと親指を立てるミドリーさんと心配そうに見守るモネさんにも手を掲げる。それを合図にフーリも手綱を引いてセントリーヌを走らせた。
走らせるというが、セントリーヌの歩みはゆっくりだった。
よく考えれば当たり前だ。馬一体に対し、成人男性三人と荷台を引いているのだ。そんなに早く走れることはない。
それなのに、どうして「移動は馬車で」と彼らは言ったのだろう。
「なあ……これ、大丈夫なのか? このペースだと日ぃ暮れね?」
心配して聞いてみると、アンジェは「大丈夫よ」とウインクした。
「こんな街中であまり早く走ると危ないでしょ?」
「街を出たら本気を出すから、今はちょっと待っててくれよ」
「そ、そうっすか……」
アンジェとフーリにそう諭されたので、納得するように頷いてみる。しかし、『本気を出す』という言葉に一抹の不安を感じるのはなぜだろうか。
そんな俺をよそに、アンジェはフーリに近づいて彼に話かけた。
「それにしても、あなたが手伝ってくれて助かったわ」
「といっても、これくらいしかできないがな。本当に頼むぜ、アンジェ」
「ええ。やるだけのことはやってみるわ」
そうして会話する二人は親しげに見える。アンジェとフーリは年も近そうだし、元々友達だったのだろうか。
「なあ、アンジェとフーリさんって……」
「フーリでいいよ。それに、その変な敬語使うのも疲れるだろ?」
「あ、んじゃ遠慮なく……んで、二人共昔馴染みなのか?」
なんとなしに尋ねると、アンジェが「そうだったわ」と思い出したように手を叩いた。
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