転生するのにベビー・サタンの能力をもらったが、案の定魔力がたりない~最弱勇者の俺が最強魔王を倒すまで~

葛来奈都

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第5章 『死の森』へ

第79話 誰にだって弱点はある

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 慌ててアンジェの横にしゃがんで顔を覗き込むと、彼の体は凍えるように小刻みに震えていた。

「おいアンジェ! しっかりしろ!」

 声をかけてみるが、アンジェは自分を抱きしめるように両腕を組んだままうなだれていた。

「お前……もしかして、ずっと我慢してたのか?」

 おずおずとアンジェに尋ねると、彼はおかしそうに「フフッ」と小さく笑った。否定も肯定もしなかったが、そのリアクションで悟ってしまった。

「ごめんねムギちゃん……こんな弱いあたしで」

 口元は笑っているが、声は今にも消え入りそうだ。どうやら、立ち上がる力も残されていないのだろう。こんなに弱ったアンジェを見るのは初めてだ。

「そうだ。クーラの水!」

 回復薬を飲んだら治るかもしれない。そう思ったのだが、アンジェがすぐに否定した。

「無駄よ……それは外傷にしか効かない。『陰の気』には効果がないわ……」

「『陰の気』?」

 そういえば、この森の説明の時にミドリーさんがそんな単語を言っていた。確か、セリナたちを苦しめている魔界の瘴気によく似た空気のようなもの。もしかして、この霧みたいなのが『陰の気』だったのだろうか。

 言われてみると、アンジェの症状は瘴気を吸った【創造者クリエーター】たちと似ていた。毒性は「陰の気」のほうが少ないとはいえ、苦しさは変わりないはずだ。

「あれ? じゃあ、俺は?」

 胸板を擦ってみるが、これといって変化は感じない。思い返せば集会所を爆破したクソ野郎も俺が動けていたことに驚いていた気がする。あそこだって多少なりとも瘴気が充満していたはずだ。その証拠に、近くにいたアンジェは噎せて動けていなかった。

 なんで俺には効いていないんだ?

 だが、考えようとしている横でアンジェが強く咳をし始めた。陰の気が彼の体を蝕んでいるのだ。

「とにかく……早くここを抜けるぞ」

 座り込んでいるアンジェの肩に手を回し、力づくで起こし上げる。しかし、当のアンジェは拒むように首を横に振った。

「いいの……あたしを置いて行って……ムギちゃんの足手纏いになる」

「全然足手纏いなんかじゃねえよ。いいから、今は大人しく引っ張られてろって」

「違うの……ここじゃあたし、魔法が使えないの」

「え?」

 想像していなかった返答に思わず足を止める。

 ふと顔を向けると、アンジェの目は途方に暮れたように虚ろになっていた。そしてつらつらと、力なく今の自分の状況を俺に話始めた。

「こんな森の中であたしの魔法なんて使ったら……木に燃え移って自分たち諸共火事に巻き込まれてしまうわ……『陰の気』は関係ない……この森の中というフィールドが、あたしには向いてない」

 アンジェに言われて改めて辺りを見回すと、この森はどこもかしこも木で密集していた。

 彼の言う通り、こんなところで炎を出したらすぐに引火して森丸ごと燃えてしまうだろう。「魔法が使えない」という意味は、何も魔力がないということだけではないのだ。
  
「でも……ムギちゃんはまだ動けるでしょう? 動けるうちに、あなただけでもここを抜けだしたほうがいいわ」

 ただでさえ戦闘力が下がっているのに、この状態だ。今の彼にはひょっとすると剣を握るのも難しいかもしれない。

「あたしだって……あなたの邪魔をしたくないの」

 だから、自分を置いていきなさい。そう彼は強く俺に訴えてきた。

 そんな彼に、俺は語気を強めて即答した。

「断る」

 けれどもその答えにアンジェが驚いたように目を大きく見開いたので、俺は呆れたように息をはいた。

「まったく、『陰の気』で心までやられてるんじゃねえの?」

 顔をしかめながら頭を掻くと、アンジェはぽかんとして言葉を失っていた。俺があっさり彼をここに置いて行くような薄情な奴だと思っていたのだろうか。そんなこと、するはずないのに。

「言っただろ……『友達一人も救えないで勇者になんかなれるかよ』って……」

 ただ、それ以上のことは気恥ずかしくなって口にすることはできなかった。それでもアンジェには十分通じたようで、頬を染める俺を見て「クスッ」と笑った。

「……頼むわよ、勇者様」

「おう」

 ニッと歯を見せてみるが、体は緊張で震えていた。

 考えていることは、「この状態で魔物に襲われたら」という懸念だった。アンジェが戦えない今、俺が主体となって打破しなければならない。いや、ここまで来たら無駄な戦闘は避けたほうがいいはずだ。

 魔物に見つからないよう静かに、かつ、いち早くこの森を抜ける。それがこの森の一番の突破口だろう。今はただ、魔物に出くわさないことを祈って突き進むだけだ。

 そう思っていたのに、俺たちを待ち受けていたのは深い絶望であった。
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