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第5章 『死の森』へ
第80話 おばけなんてないさ
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◆ ◆ ◆
俺に肩を預けるようになってから、アンジェは口を利かなくなった。
いや、利けなくなったというほうが正しいだろう。ただ浅い呼吸を何度もするだけで、彼にはもう話す余力さえもなさそうだ。
暫時の沈黙の中、ひたすら森の中を歩く。
太陽の光ですら遮断する『陰の気』のせいで、俺の体もだんだんと冷えていた。それでも『陰の気』は濃くなる一方で、濃霧のように視界を拒んでいく。
「もう……結構……歩いたんじゃねえの……?」
しどろもどろに言葉を並べて呟くが、案の定どこからも返事はない。それどこか、今自分がどこにいるのかも、ゴールがどこなのかもわからない。
人が立ち寄らない森だ。情報なんてあるはずがない。
それでも足を止めないでいるのは、この森になんとなくができているからだ。この道に何も根拠はないが、どうせ地図もないので自分の直感を信じて突き進んだ。
……突き進むのはいいけど、これ、遭難しない?
そんな危惧も頭によぎるが「まあ、山じゃないし」と訳のわからない根拠で自分を納得させる。なんせ、今の俺たちにはこの森の先にしか希望がないのだから。
そうして一人不安と戦っていると、やがて森が途切れ、開けた広場に出た。
開けた場所といっても、『陰の気』がこの中で渦巻くように充満しているだけで、草すら生えておらず、地面だけが広がっていた。
木はこの場所を守るようにぐるっと囲んでいることもあり、ここだけ別空間のようになっている。
異様な空間に恐怖を感じるものの、立ち止まることはできないので勇気を出して一歩踏み入れた。
その途端、木枯らしみたいな冷たい風が俺の横を通り抜けた。
ここに来るまでも寒さは感じていたが、この場所は段違いの寒さだった。白い息は出ていないが、肌を出していた両腕は一気に冷たくなり、思わず身震いした。
こんな近距離でここまで気温が変わるか? いや、そんなはずはないだろう。
こんなところ、さっさと抜け出すに限る。
そう思って早足で歩いているのに、歩いても歩いてもこの場から抜け出せなかった。
ただまっすぐ歩いているだけなのだから、いい加減向かい側の森にぶつかってもいいはずだ。それなのに、似たような景色がどこまでも続いており、さっきから進んでいる気がしない。
いったい、なんなんだここは……。
感じる胸騒ぎにもう一度ぐるりと辺りを見渡す。
その時、俺は見てしまった。この一面に充満する白い『陰の気』の中で、人魂のように浮かび上がる青色の火の玉を。
目の錯覚を疑いたくて即座に二度見する。だが、目の錯覚どころか青い火の玉は一つ、また一つと増え、ついには俺たちを取り囲んだ。
混乱と恐怖で立ち止まっていると、いきなり火の玉が俺の目の前に現れた。
しかも、その火の玉には人の顔がついており、目と鼻の先の俺を見てにやりとほくそ笑んだ。
「おわぁぁ!」
これにはたまらず声をあげると、うなだれていたアンジェの顔がパッと上がった。
この一瞬で事態を察した彼は、咄嗟に俺から離れて腰に差した剣を抜いた。
だが、青い火の玉は「ケケケッ!」と笑いながら逃げるように俺たちから距離を取り、仲間たちの元へ戻っていった。
「悪い……起こしちまった」
アンジェに謝罪しながら、俺もバトルフォークを伸ばす。
「いいのよ……むしろ、起こしてくれてありがと」
アンジェもそう言って改めて剣を構えて臨戦態勢を整えた。不本意ながらも、戦闘開始だ。
「これは……ブルースピリット?」
アンジェがこの物体の名称らしき単語を呟くと、火の玉は返事をするように一斉に笑い出した。
人の顔がついた無機物がケラケラと声に出して笑っているのだ。この気色悪さと恐怖に俺は震えが止まらなかった。
「もしかしてこれが……エレメント系の魔物って奴?」
恐る恐るアンジェに尋ねると、彼は苦笑いを浮かべながら頷いた。
「見た目のまんま、青色のさ迷う魂……まあ、ギルドのほうで勝手にそう呼んでるだけで、本当の名前はわからないんだけど」
説明してくれるのはいいが、アンジェの足はふらついている。
ほんの少しまで立てないほど弱っていたのだ。こうして剣を構えているのも無理しているに違いない。その証拠に戦う前からアンジェはもう肩で息をしていた。
けれども、彼の鋭い目がブルースピリットを捉えているものだから、俺は「下がってろ」なんて言えなかった。
「大丈夫……自分の身は、自分で守るから」
そう言ってアンジェはニッと口角を上げる。
俺に肩を預けるようになってから、アンジェは口を利かなくなった。
いや、利けなくなったというほうが正しいだろう。ただ浅い呼吸を何度もするだけで、彼にはもう話す余力さえもなさそうだ。
暫時の沈黙の中、ひたすら森の中を歩く。
太陽の光ですら遮断する『陰の気』のせいで、俺の体もだんだんと冷えていた。それでも『陰の気』は濃くなる一方で、濃霧のように視界を拒んでいく。
「もう……結構……歩いたんじゃねえの……?」
しどろもどろに言葉を並べて呟くが、案の定どこからも返事はない。それどこか、今自分がどこにいるのかも、ゴールがどこなのかもわからない。
人が立ち寄らない森だ。情報なんてあるはずがない。
それでも足を止めないでいるのは、この森になんとなくができているからだ。この道に何も根拠はないが、どうせ地図もないので自分の直感を信じて突き進んだ。
……突き進むのはいいけど、これ、遭難しない?
そんな危惧も頭によぎるが「まあ、山じゃないし」と訳のわからない根拠で自分を納得させる。なんせ、今の俺たちにはこの森の先にしか希望がないのだから。
そうして一人不安と戦っていると、やがて森が途切れ、開けた広場に出た。
開けた場所といっても、『陰の気』がこの中で渦巻くように充満しているだけで、草すら生えておらず、地面だけが広がっていた。
木はこの場所を守るようにぐるっと囲んでいることもあり、ここだけ別空間のようになっている。
異様な空間に恐怖を感じるものの、立ち止まることはできないので勇気を出して一歩踏み入れた。
その途端、木枯らしみたいな冷たい風が俺の横を通り抜けた。
ここに来るまでも寒さは感じていたが、この場所は段違いの寒さだった。白い息は出ていないが、肌を出していた両腕は一気に冷たくなり、思わず身震いした。
こんな近距離でここまで気温が変わるか? いや、そんなはずはないだろう。
こんなところ、さっさと抜け出すに限る。
そう思って早足で歩いているのに、歩いても歩いてもこの場から抜け出せなかった。
ただまっすぐ歩いているだけなのだから、いい加減向かい側の森にぶつかってもいいはずだ。それなのに、似たような景色がどこまでも続いており、さっきから進んでいる気がしない。
いったい、なんなんだここは……。
感じる胸騒ぎにもう一度ぐるりと辺りを見渡す。
その時、俺は見てしまった。この一面に充満する白い『陰の気』の中で、人魂のように浮かび上がる青色の火の玉を。
目の錯覚を疑いたくて即座に二度見する。だが、目の錯覚どころか青い火の玉は一つ、また一つと増え、ついには俺たちを取り囲んだ。
混乱と恐怖で立ち止まっていると、いきなり火の玉が俺の目の前に現れた。
しかも、その火の玉には人の顔がついており、目と鼻の先の俺を見てにやりとほくそ笑んだ。
「おわぁぁ!」
これにはたまらず声をあげると、うなだれていたアンジェの顔がパッと上がった。
この一瞬で事態を察した彼は、咄嗟に俺から離れて腰に差した剣を抜いた。
だが、青い火の玉は「ケケケッ!」と笑いながら逃げるように俺たちから距離を取り、仲間たちの元へ戻っていった。
「悪い……起こしちまった」
アンジェに謝罪しながら、俺もバトルフォークを伸ばす。
「いいのよ……むしろ、起こしてくれてありがと」
アンジェもそう言って改めて剣を構えて臨戦態勢を整えた。不本意ながらも、戦闘開始だ。
「これは……ブルースピリット?」
アンジェがこの物体の名称らしき単語を呟くと、火の玉は返事をするように一斉に笑い出した。
人の顔がついた無機物がケラケラと声に出して笑っているのだ。この気色悪さと恐怖に俺は震えが止まらなかった。
「もしかしてこれが……エレメント系の魔物って奴?」
恐る恐るアンジェに尋ねると、彼は苦笑いを浮かべながら頷いた。
「見た目のまんま、青色のさ迷う魂……まあ、ギルドのほうで勝手にそう呼んでるだけで、本当の名前はわからないんだけど」
説明してくれるのはいいが、アンジェの足はふらついている。
ほんの少しまで立てないほど弱っていたのだ。こうして剣を構えているのも無理しているに違いない。その証拠に戦う前からアンジェはもう肩で息をしていた。
けれども、彼の鋭い目がブルースピリットを捉えているものだから、俺は「下がってろ」なんて言えなかった。
「大丈夫……自分の身は、自分で守るから」
そう言ってアンジェはニッと口角を上げる。
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