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第7章 流浪人とエルフの子
第108話 戦いのあと
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その日の夜のこと。
ライザとリオンの家には、これでもかというくらいたくさんの野菜と果物が届いていた。
言うまでもなく、エルフの民からの献上だ。と言っても、名目は長《おさ》のライザ宛てである。
「さあって……張り切って作るわよ」
並ばれた食材を見て、アンジェが腕まくりをして気合いを入れる。
「アンジェ君、何を作るの?」
「ウフフ、何がいい? リオちゃんの好きなものを作ってあげるわ」
「本当? えーっとね……」
リオンとアンジェの微笑ましいやり取りを食卓から遠目で見守りながら、俺は小さくため息をつく。
「……お前、恩人様を持て成すんじゃなかったのかよ」
「持て成しているじゃねえか。それに、あれはカマ野郎が勝手にやってるだけだ」
「まあ……そうだけどさ」
腕を頭の後ろで組みながら、俺はだらんとダイニングチェアの背もたれに背中を預ける。その隣ではライザが煙草に火を点け、煙を吹かした。
「んで、これら本当に置いていくのか?」
煙草を咥えながらライザが食卓の上にある麻の袋を指さす。俺たちがダルマンさんからもらった魔法道具だ。
「貰い物だけど、使いなさい。あなたたち、コアの魔法道具が全然持ってないのでしょう?」
「使えるかどうかは別としてな」
「あたしたちはいつでも買えるからいいのよ」
「ふーん。礼は言わねえぞ」
とか言いながらライザは麻の袋を逆さまにし、道具を一個一個確認する。つんけんしているが、なんだかんだ道具が気になるようだ。素直じゃないライザに俺もアンジェも思わずにやついた。
台風の後の静けさと似たようなものなのか、随分とまったりとした空気が広がっていた。
俺とライザはご覧のようにお互い何もせずぐだぐだしているし、台所で一緒に調理をするアンジェとリオンはまるで親子だし、ほんの少し前までのあの殺伐とした緊張感が嘘のようだ。
しかし、ここに来た理由は忘れてはいない。
それは、ライザも同様だった。
「お前ら……いつ行くんだ?」
ライザのその短い問いに、全てが詰まっていた。
「……できれば、明日の早朝にでも」
真顔なアンジェが端的に答える。
クエストの期限まであと一日。けれども、そうしている間にもセリナは苦しんでいるに違いないのだ。
できることなら、一日でも早く――そうは思うが、こればかりは俺たちだけではどうしようもできない。
それもライザは重々承知のようで、「そうか……」と目を伏せて考え込んだ。
突然変わった空気感に、リオンはうろたえるように何度もライザとアンジェの顔を見た。だが、賢い彼のことだから、深く言わなくてもある程度察しはついているようだった。
「ムギト君、アンジェ君……行っちゃうの?」
不安そうに眉尻を垂らすリオンに向け、アンジェはクスリと笑う。
「うん……でも、お別れではないからね」
リオンを安心させるようにアンジェは彼の頭を優しく撫でるが、リオンは難しい顔をしていた。
そんな彼を眺めながら、ライザは深く煙草の白い煙を吐いた。
「みんな今日は頑張ったんだし、美味しいご飯を食べたらゆっくり休みましょ」
「ね」と同意を求めるようにアンジェは俺たちに笑顔を振る舞う。
ふと視線を落とすと、リオンがじっと俺のことを見つめていた。
「どした?」
尋ねてみると、リオンは俯きながら近づいてきて、俺の服の裾を掴んだ。
「僕……今日、ムギト君と一緒に寝る」
「え?」
咄嗟に許可を取るようにライザのほうを見てみると、彼はもう諦めたようにため息をついていた。
「……勝手にしろ」
それだけ言ったライザは決まりが悪そうにガシガシと頭を掻く。
初めのうちは俺に構うなと言っていた彼も、リオンの懐き具合を見て匙を投げたらしい。
すると、すっかりリオンを俺に取られたライザを居たたまれなく感じたアンジェが悪戯っぽく「ウフッ」と笑った。
「なら、あなたはあたしと寝る?」
「ぶち殺すぞ」
「あらやだ、こわーい」
大袈裟に自分を抱きしめるアンジェだったが、腰元は色っぽくくねっと曲げていた。無論、怯えていないのは誰が見てもわかっている。
アンジェにからかわれたライザは眉間にしわを寄せながら、八つ当たりするように吸っていた煙草をごしごしと強く灰皿に押しつけた。
ただ、その後すぐに真顔になったライザは、口を噤んだまま俺たちのことをずっと観察していた。
ライザとリオンの家には、これでもかというくらいたくさんの野菜と果物が届いていた。
言うまでもなく、エルフの民からの献上だ。と言っても、名目は長《おさ》のライザ宛てである。
「さあって……張り切って作るわよ」
並ばれた食材を見て、アンジェが腕まくりをして気合いを入れる。
「アンジェ君、何を作るの?」
「ウフフ、何がいい? リオちゃんの好きなものを作ってあげるわ」
「本当? えーっとね……」
リオンとアンジェの微笑ましいやり取りを食卓から遠目で見守りながら、俺は小さくため息をつく。
「……お前、恩人様を持て成すんじゃなかったのかよ」
「持て成しているじゃねえか。それに、あれはカマ野郎が勝手にやってるだけだ」
「まあ……そうだけどさ」
腕を頭の後ろで組みながら、俺はだらんとダイニングチェアの背もたれに背中を預ける。その隣ではライザが煙草に火を点け、煙を吹かした。
「んで、これら本当に置いていくのか?」
煙草を咥えながらライザが食卓の上にある麻の袋を指さす。俺たちがダルマンさんからもらった魔法道具だ。
「貰い物だけど、使いなさい。あなたたち、コアの魔法道具が全然持ってないのでしょう?」
「使えるかどうかは別としてな」
「あたしたちはいつでも買えるからいいのよ」
「ふーん。礼は言わねえぞ」
とか言いながらライザは麻の袋を逆さまにし、道具を一個一個確認する。つんけんしているが、なんだかんだ道具が気になるようだ。素直じゃないライザに俺もアンジェも思わずにやついた。
台風の後の静けさと似たようなものなのか、随分とまったりとした空気が広がっていた。
俺とライザはご覧のようにお互い何もせずぐだぐだしているし、台所で一緒に調理をするアンジェとリオンはまるで親子だし、ほんの少し前までのあの殺伐とした緊張感が嘘のようだ。
しかし、ここに来た理由は忘れてはいない。
それは、ライザも同様だった。
「お前ら……いつ行くんだ?」
ライザのその短い問いに、全てが詰まっていた。
「……できれば、明日の早朝にでも」
真顔なアンジェが端的に答える。
クエストの期限まであと一日。けれども、そうしている間にもセリナは苦しんでいるに違いないのだ。
できることなら、一日でも早く――そうは思うが、こればかりは俺たちだけではどうしようもできない。
それもライザは重々承知のようで、「そうか……」と目を伏せて考え込んだ。
突然変わった空気感に、リオンはうろたえるように何度もライザとアンジェの顔を見た。だが、賢い彼のことだから、深く言わなくてもある程度察しはついているようだった。
「ムギト君、アンジェ君……行っちゃうの?」
不安そうに眉尻を垂らすリオンに向け、アンジェはクスリと笑う。
「うん……でも、お別れではないからね」
リオンを安心させるようにアンジェは彼の頭を優しく撫でるが、リオンは難しい顔をしていた。
そんな彼を眺めながら、ライザは深く煙草の白い煙を吐いた。
「みんな今日は頑張ったんだし、美味しいご飯を食べたらゆっくり休みましょ」
「ね」と同意を求めるようにアンジェは俺たちに笑顔を振る舞う。
ふと視線を落とすと、リオンがじっと俺のことを見つめていた。
「どした?」
尋ねてみると、リオンは俯きながら近づいてきて、俺の服の裾を掴んだ。
「僕……今日、ムギト君と一緒に寝る」
「え?」
咄嗟に許可を取るようにライザのほうを見てみると、彼はもう諦めたようにため息をついていた。
「……勝手にしろ」
それだけ言ったライザは決まりが悪そうにガシガシと頭を掻く。
初めのうちは俺に構うなと言っていた彼も、リオンの懐き具合を見て匙を投げたらしい。
すると、すっかりリオンを俺に取られたライザを居たたまれなく感じたアンジェが悪戯っぽく「ウフッ」と笑った。
「なら、あなたはあたしと寝る?」
「ぶち殺すぞ」
「あらやだ、こわーい」
大袈裟に自分を抱きしめるアンジェだったが、腰元は色っぽくくねっと曲げていた。無論、怯えていないのは誰が見てもわかっている。
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