転生するのにベビー・サタンの能力をもらったが、案の定魔力がたりない~最弱勇者の俺が最強魔王を倒すまで~

葛来奈都

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第6章 森の奥の隠れ里

第107話 バトル終了

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 アルジャーがいたところにはコロンと石が転がっていた。

 ライザが徐に石を拾い上げたのでちらりと横目で見てみると、石の中に紫色のコアが入っていた。ただし、これまでのコアとは違い、紫色の炎のようなものがゆらゆらと揺らめいている。
 
 コアが出たということは、アルジャーはやはり魔物だった。あれだけ人間離れした動きだったのに、俺の中ではまだ彼が「人間かもしれない」と思っていたのだ。

 彼は人間ではない。このコアが証明してくれているのに、手の中に残る彼を突き刺した感触が戦いの後味を悪くさせる。

「ムギちゃん……ムギちゃん!」

 呼ばれた声でハッと顔を上げると、アンジェが心配そうな顔で俺のことを覗き込んでいた。

「大丈夫? 凄い汗……それに、体も震えてるわ」

「え? マジ?」

 そう言われて自分の手を見てみると、確かに小刻みに震えていた。

 怯えている。それは自分が一番よくわかっていた。どうして怯えているのかも。何に対して怯えているのかも。

 抱いている恐怖を押さえ込むように震えた手を拳に変え、ふと顔を上げると、気の毒そうに俺を見つめるアンジェを目が合った。

 そんな彼の後ろでは、ライザが持っていた紫色のコアをポイッとリオンのほうに投げていた。

 反射的にリオンが核コアをキャッチする。動作は荒いが、リオンに核コアを渡したつもりなのだろう。

「……お前が持ってろよ」

 リオンが「いいの?」と尋ねる。

 しかし、今回の戦いはリオンの貢献度が途轍もなく高いから、俺もアンジェもコクリと頷いた。

 リオンは曇り空に向かって黒いコアをそっと掲げる。ただ、コアを眺める中でも何度も目をしぼめ、ごしごしと目元を擦っていた。

「眠いんだろ? 無理するな」

「ほら」とライザがリオンの前にしゃがんで背中を向けると、リオンはとろんと目を垂らしながら、ライザの背中に腕を回した。

 リオンを背負ったライザは「よっと」と立ち上がる。その頃にはもうリオンは眠りについており、兄の背中で「スース―」と寝息をたてて眠っていた。

 その寝顔は、つい先ほどまで果敢に魔物と戦っていたとは思えないほど、いとけなく、安らかなものだった。

「もしかして……無理させちゃった?」

 アンジェが気遣わし気にリオンを覗くと、隣でライザが首を振った。

「いつもこんな感じだ。別にお前のせいじゃない」

「……そう言ってくれると助かるわ」

 安堵した様子でアンジェはリオンの頭を優しく撫でる。その表情は穏やかで、とても慈しみを感じた。

「……ありがとう。この戦い、あたしたちだけじゃきっと勝てなかったわ」

 破顔しながら礼を言うアンジェにライザはばつが悪そうに頬を掻く。

「そうだろうな……と言いたいところだが、お互い様だ」

 ライザとリオンが強かろうが、一対一で戦うとなるとおそらく勝てなかった。

 即席のコンビであっても、俺たちは互いの足りないところを各々の能力で補えた。それが今回の勝因だった。

「お前らのおかげで里は救われた。礼を言う」

 そう言ってライザは俺たちに深々と頭を下げた。その凛とした佇まいはまさしく里のおさで、アンジェも俺も彼にお辞儀をし返した。

 そんな中、静まりかえったのを見計らうように、崩れた家の塀のほうから「ガサッ」と物音が聞こえた。

 現れたのは、里のエルフたちだった。避難していたエルフたちが恐る恐るこちらの様子を伺っている。中には先程のエルフの青年もいた。

「ライザ様……」

 おさの名を呼びながら、エルフの民は俺たちのほうを見つめる。だが、彼らの瞳からは最初に会った時のような怒りや怯えは感じない。

 よそ者に集まった視線は、やがてライザの背中で眠る小さな英雄に向けられた。

 憎むべき人間。そしてその血が混ざった混血児。

 そんな仇にするべき奴らに彼らは救われたのだ。戸惑うのも無理はない。

 ただ、何も言われなくてもその穏やかな眼差しからは感謝の念は十分伝わった。

「……これより、恩人を持て成す。お前らも今日はゆっくり休んで、明日から復興に勤しむといい」

 ライザはそれだけ民に告げると、「行くぞ」と俺たちを先導する。

 ふと、後ろを見ると、エルフは俺たちに向けてずっと頭を下げていた。

 その姿にアンジェも何か感じたのか、ポツリと呟く。

「……変わればいいわね。少しでも」

「……うん。そうだな」

 同意するように頷き、そっとリオンのあどけない寝顔に視線を向ける。

 願わくば、彼にエルフの祝福を。

 そんなことを思いながら、俺たちはライザの背中を追った。

 突如現れた【魔物使いテイマー】と俺たちと。

 そして、人間とエルフと。

 その長い戦いが、ようやく幕を閉じた――ような気がした。
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