転生するのにベビー・サタンの能力をもらったが、案の定魔力がたりない~最弱勇者の俺が最強魔王を倒すまで~

葛来奈都

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第6章 森の奥の隠れ里

第106話 あの人の恩恵

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「それじゃ、頼んだわよ」

 アンジェがリオンにアイコンタクトを送るとリオンは両腕を広げ、静かに呪文を唱えた。

「『竜巻魔法トルネイディット』」

 リオンがリッチーヌを取り囲むように竜巻を出す。そしてアンジェが出した火炎放射はその竜巻と混ざり合い、炎の渦となってリッチーヌを襲った。

「リッチーヌ!!」

 逃げることもできずに燃えて行くリッチーヌの姿に、アルジャーの顔が青ざめる。

 一方、愕然としているアルジャーの前ではライザが「おー」と感嘆の声をあげていた

「あのカマ野郎、リオンの使い方わかってるじゃねえか」

 そんな呑気なことを言っている間に、リッチーヌの断末魔のほうから紫色の靄が煙立っていた。リッチーヌが絶命したのだ。

 燃え上がる炎の渦と立ち昇る紫色の靄を見ながらアルジャーが絶句している。

 あちらのほうは勝負あった。今度は、こちらが王手をかける番だ。

 絶望しているアルジャーにライザは慎みを崩さずにチャキッと銃口を向ける。

「んじゃ、チェックメイトだ」

 そう言ってライザはトリガー引いた。

 目を見開いたアルジャーが水の弾を避けるように大きく後ろにジャンプする。だが、こいつがすんなりと恰好の的を見逃すはずがない。無数の水の弾はライザの引いたトリガーと共に一斉にアルジャーに飛び交って彼を打ち抜いた。

 耳を塞ぎたくなるようなけたたましい叫び声に見ていただけなのに片が竦み上がった。

 アンジェはリオンの両耳を塞ぎ、抱きしめるようにしてアルジャーの姿を隠していた。

 アンジェがリオンに見せまいとしているのもわかる。無数の水の弾で打ち抜かれたアルジャーの体はまるでハチの巣のようで、体の至るところから血を出しているのだから。こんな姿、リオンになんて見せられない。

 ただ、ライザだけが平然とした様子で、膝から崩れ落ちて倒れるアルジャーを見下ろしていた。

「お前らは強かったよ。ただ、相手が悪かった。それだけだ」

 緩急のない声でライザは静かにアルジャーに告げる。そんな淡々としている彼の言葉に、アルジャーは力なく笑った。

「……痛いなあ……もう……」

 額から流れる血を拭うことなく、アルジャーは立ち上がろうとする。

 ただ、足の腱まで撃たれているようで、なかなか立ち上がれないでいた。俺からしてみれば、ここまで水の弾を喰らっておいて、まだ生きていることが信じられない。

「なんでお前……死なないんだよ……」

 唖然としながらアルジャーを見つめていると、俺の独り言にアルジャーが答えた。

「それはね……の恩恵を受けているからっすよ」

「あの人?」

「わかっているくせに」 

 意味深な言葉に突っかかっても、アルジャーはあっけらかんと言っただけで、静かに頬を綻ばした。こんな笑える状況ではないことは、彼自身だってわかっているだろうに。

 アルジャーを憐れむ一方で、ライザは蔑む瞳で彼を見降ろしていた。

「……死ななくても、これ以上のことはできねえだろ。そこで惨めにくたばってな」

 たとえ相手が死んでいなくても、勝負はあった。だからライザはこれ以上アルジャーに手を下すつもりはないのだろう。その証拠に、ライザはアルジャーから背を向けながら、煙草に火を点けた。

 それが、彼がアルジャーに見せた最初で最後の隙であった。

「ちょっと甘いんじゃないんすか、エルフさん」

 単調なアルジャーの声にライザが振り向くと、アルジャーはすでに立ち上がっていた。そして、震えた足で地面を蹴り、血が流れ出る両腕を掲げ、余力を振り絞ってライザに向かって飛びかかった。

「ライザ!」

 庇うように突っ込んでいく俺を見て、ライザは咥えていた煙草がポロリと地面に落ちた。

 俺自身、何が起こったかわからなかった。ただ、気がついたら俺はバトルフォークをアルジャーの胸元に突き刺していて、アルジャーが突いた長い爪はライザの喉元直前でピタリと止まっていた。

「……なんだ。ちゃんと槍の使い方、わかってるじゃないっすか」

 アルジャーの体から紫色の靄が出る。今まで何度も見てきた魔物が絶命するひと時だ。それなのに、どうしてこんなに怖いと思うのだろう。

 瞠った目でアルジャーを見つめていると、アルジャーは俺のフォークに触れながらフッと小さく笑った。

「じゃーね、お兄さん。あの人によろしくっす」

 それだけ告げると、アルジャーはフッと小さく笑う。

 そして紫色の靄に包まれた彼は、やがて跡形もなく消えていった。
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