転生するのにベビー・サタンの能力をもらったが、案の定魔力がたりない~最弱勇者の俺が最強魔王を倒すまで~

葛来奈都

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第7章 流浪人とエルフの子

第125話 ライザとリオン

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 ぽろぽろと大粒の涙を流すリオンに、ライザは静かに口角を上げて彼の頭を優しく撫でる。

「よく言った……それでこそ、オリビアの子だ」

 それだけ言うとライザはすっくと立ち上がり、俺たちを置いていくように踵を返した。

「帰るぞ。明日は早いんだろ?」

「お、おう……」

 だが、俺の相槌を待たずしてライザはさっさと歩き出す。一方リオンはまだ泣き止んでおらず、俯いたままずっとしゃくりあげている。

「リオちゃん……」

 泣いているリオンにアンジェは痛ましそうにしている、けれどもなんて声をかけていいのかわからないのだろう。

 俺だってそうだ。こういう場合は、「ありがとう」なのか。それとも「ごめん」なのか。いや、そもそも泣いている原因を作っている俺たちが、彼を慰める筋合いはない。

 複雑な思いでリオンを見つめていたが、この沈黙をやぶったのは他でもなく、リオンだった。

「ムギト君……」

「……なんだ?」

 嗚咽をもたらしながら問うリオンに、なるべく優しい声で返事をする。

 するとリオンは服の袖でこぼれた涙を拭き、目を赤くさせながら俺に請うてきた。

「今日……兄ちゃんと寝ていい?」

 その請いに俺は目をぱちくりさせてしまったが、すぐに破顔して返した。

「勿論だ」

 それがリオンの出した決意なのだ。それを俺なんかが無下にできない。

「行くぞ。ライザが待ってる」

 そう言ってリオンに手を差し出すと、リオンはコクリと頷いて俺の手を取った。

 俺に手を引かれたリオンは帰る時もずっと俯いて黙りこくっていた。

 そして家に戻ると、すでにライザはソファーの上で横たわって寝ていた。

 そんなライザの上にリオンはしがみつくように乗っかる。すると、まるでライザもその重みの正体がわかったかのように、目をつぶったままそっとリオンの頭に手を置いた。

 安心できたのだろうか。リオンも腫らした目を閉じるとすぐに寝息をたてて眠りについた。そんな彼らにアンジェはそっと布団をかけと、微笑ましそうにしながら小さく息を吐く。

「……あたしたちも寝ましょう」

「ああ……」

 それだけ告げたアンジェは体を休めるのに一足早く部屋に戻る。

 俺もいい加減寝よう。そう思い俺も一度振り返ったあと、借りたリオンの部屋に戻った。振り返った時に見えた二人は、とても穏やかで、幸せそうな顔で眠っていた。


 ◆ ◆ ◆


 翌日、早朝。

 陽が昇ったばかりの空はどこまでも青く澄み渡っていて、陽光も眩しく感じた。

 家を出てから近くの開けた草原にたどりつくまでも、里はとても静かだった。この時間だと他のエルフの民はまだ眠っているのだろう。

 穏やかな風は草原に咲く草花を優しく揺らす。心地よい風に雲一つない快晴。こんな日は門出にちょうどいい。俺たちと、そしてリオンの。

「それじゃ、行くわよ」

 アンジェがウィンド・コア・ピンを地面に刺すと、地面から小さな風の渦が現れた。

 この風の渦に飛び込めば、セリナの待つ『オルヴィルカ』まで戻ることができる。

 あれだけ長い道のりだったから、この移動魔法の便利さに呆気なさと寂しさを感じた。

 それでも、俺たちの帰りを今か今かと待っている人がいるのだからこれを使うに他はない。エルフの里ともこれでお別れだ。

 旅立つというのに、リオンの荷物は鞄一つしかなかった。というのも、彼は自分の物を持っていないのだ。今着ているサイズの合わないぶかぶかの古びた服だって、おそらくライザのお下がりだ。彼がこの里で残すものといえば思い出と、唯一の家族であるライザくらいだ。

 そんなライザも口を噤んで弟の旅立ちを見守っている。

「本当にリオちゃん借りていくわよ?」

 念押すようにアンジェが訊くと、ライザは乾いた笑みを浮かべながらこう返した。

「リオンが決めたことだし、俺もこっちのほうがリオンのためになるも思っているからいいんだよ」

「そう……ありがとう。あたしたちのことを信頼してくれて」

「信頼している訳じゃねえよ。ただ、ほんのわずかな出会いが人の運命を変えることもあるってのを知っているだけだ」

 どこか遠くを見つめるライザの目は、そんなことを言っているような気がした。それが、親父さんにとってのオリビアさんで、リオンにとっての俺たち。どこか遠くを見つめるライザの目は、そんなことを言っているような気がした。
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