転生するのにベビー・サタンの能力をもらったが、案の定魔力がたりない~最弱勇者の俺が最強魔王を倒すまで~

葛来奈都

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第7章 流浪人とエルフの子

第124話 選択の時

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 しかめ面でライザを睨んでいると、ライザは「わかったわかった」とわざとらしく俺をなだめさせた。

「だからこんなところまでエルフを探すような馬鹿をやってたって訳な」

「全然わかってねえし、馬鹿じゃねえよ」

 と、反論してみるが、ライザは俺を見ておかしそうに笑うだけだった。

 やがてライザは空を仰ぎ長く息を吐くと、静かに口角を上げた。

「……いるよな、惚れた女のために馬鹿みたいなことをする奴……少なくとも、俺の親父がそうだった」

 そのどこか遠くを見つめる眼差しが、今まで見たライザの表情の中で一番穏やかで、俺も思わず表情が緩んだ。

 そんなやり取りの最中、暗闇の奥で何か物音が聞こえた。

 黒い小さな影と大きな影は二つ揺らめいている。しかし、俺もライザもその影に警戒はしなかった。その影の正体は、他でもなく、寝巻姿のままのリオンと、そんな彼を見守るアンジェだったからだ。

「二人とも……いったいいつからいたんだよ」

「リオちゃんのご両親の馴れ初め辺りからかしら。悪いけど、立ち聞きさせてもらったわ」

 腕を組んだアンジェが「ふぅ」とため息をつく。

 その横では、リオンがアンジェの足にしがみつきながら不安そうに俺たちを見上げていた。

「リオちゃんに謝りなさい。この子、二人がいなくなってとても心配していたんだから」

「そうなのか。それは……悪かった」

 頬を掻きながらリオンに頭を下げる。しかし、兄であるライザは無言でリオンの前に座り込んだ。

「お前……どうしてここがわかった?」

 小柄なリオンと視線を合わせながらなるべく穏やか声でライザは彼に問いかける。すると、リオンは顔を俯いたまま、自信のなさそうな小さな声でライザに答えた。

「兄ちゃん……悩んだらここに来てるから……」

 図星だったのだろうか、リオンの答えにライザは驚いたように目を大きく見開いた。だが、その表情もすぐになくなり、真顔になってリオンをじっと見つめる。

「そこまでわかってるなら、俺が何に悩んでいるか気づいているだろ?」

 さらに問いただすライザに、リオンは無言で頷く。その表情は曇っており、どこか戸惑いも感じる。

 そんな困惑する弟に、ライザは小さく息をつき、意を決したようにリオンに諭した。

「リオン……これから大事な話をする。よく考えて聞いてくれるか?」

 リオンが頷いたのを確認すると、ライザはそっとリオンの小さな両手を取った。

「この二人は、お前の力を必要としている。お前にしかできないことがあるから、目的が終わるまでお前に手伝ってほしいと言っている。この里から出て行くことになるが、里の連中と関わらなくなるから、これ以上お前は傷つかなくて済む」

「……兄ちゃんは? 一緒に行かないの?」

「俺はこれでも里のおさだ。どんなにムカつく奴らでも、こいつらを見捨てる訳にはいかない。ここで投げだしたら、それはそれで親父とオリビアに怒られちまう」

 最初は緊迫した顔つきだったライザだったが、話すに連れてどんどん表情も口調も穏やかになっていった。それは、「大丈夫」とリオンをなだめるように見えた。

 しかし、リオンは目を落としたままずっと口を噤んでいた。賢いリオンだから、兄が何を言わんとしているかがわかるのだろう。当然、そのことをライザも理解している。

「こいつらは明日の朝に出て行く。どうするかは、お前が決めるんだ」

 酷なことを言わせているのはこちらなのに、二人の姿を見ていると心が痛んだ。現にリオンは下唇を噛んで震えており、今にも泣き出しそうだった。

 暫時の沈黙が流れ、夜風が彼らの短い髪を靡かせる。

 それでもライザはリオンが自分の中で答えを出すのをずっと待っていた。急かすことなく、ゆっくり、ゆっくりと。

 やがてリオンは徐に顔を上げ、涙声でライザに訴える。

「僕……兄ちゃんと離れ離れになりたくない……」

 その答えに、ライザは口を閉ざして無言になる。

 だが、そのあとすぐリオンは持ち前の大きな瞳に涙を溜めながら言葉を紡いだ。

「でも……お母さんが言っていた世界を……見てみたい」

 それが、彼が必死に考え抜いて出した答えだった。けれどもそれは、同時に兄との別れも意味していた。
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