転生するのにベビー・サタンの能力をもらったが、案の定魔力がたりない~最弱勇者の俺が最強魔王を倒すまで~

葛来奈都

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第11章 ダンジョン名『旧灯台』

第159話 風の魔法は三半規管を食らう

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「無理すんなよー」

「よろしくねー、リオちゃーん」

 あっという間に小さくなるリオンに向けて俺とアンジェは口元に手を当てながら彼を見送る。

 彼を見送り終えると、二人して深く息を吐き、その場にしゃがみ込んだ。

「流石にちょっと疲れたわね……」

「本当だな……パルスの性格の悪さがよくわかる」

 やれやれと思いながら、天を仰ぐ。

 相変わらず階段はどこまで続いており、これを上がり切るだけで日が暮れそうである。上がり切ったら上がり切ったでおそらくパルスと戦かう頃には体力がなくなっていそうだ。頭がいいというか、嫌らしさが爆発している。

「いったいパルスの目的ってなんなのかしらね」

「なんなのって……俺たちが苦しんでいるのを見て楽しんでいるんだろ」

「そうかもしれないけど……最初から妙にまどろっこしくない?」

「最初から?」

 アンジェに言われてつい首を傾げると、アンジェは「そう」と深く頷いた。

「今更だけどどうしてミドリー神官に化けてあたしたちの前に現れたのか不思議に思ってきたの。神官様を監禁するだけなら、このままこっそりと過ごしておけばよかったでしょ? それなのにわざわざあたしたちの前に現れて、しかも彼らを救出させるゲームを自ら持ちかける。いったいなんのメリットがあるのかしら」

 思い返せば、奴のやっていることは矛盾だらけだ。神官を監禁させたいのか、俺たちの相手をしたいのか……俺たちに負けたらこれまでの計画も水の泡になるだろうに。

「しかもこんなところにまで連れ込んで……まるで、時間稼ぎをしているみたいよね」

「時間稼ぎって、何からだよ」

「それはまだわからないけど……」

 腕を組んで悩むアンジェに俺も一緒になって頭を悩ませる。

 そういえば、あいつに関しては他にもわからないことがあったことを忘れていた。

 ――あいつ、どうして俺の……

 そんなことを考えた瞬間、いきなりふわっと前髪が浮いた。どこからか風が吹いているのだ。

 窓もないのにこんな風が吹くはずない。だが、慌てて立ち上がって辺りを見回しても、風の在り処はわからなかった。

 うろたえる前に今度は体が急に宙に浮いた。

 無重力状態に驚く間もなく体は一気に高度を上げ、一気に天井に向かって飛び上がった。

「のわぁぁぁ!」

 この急向上に悲鳴をあげてしまうが、階段をワープ的に駆け上がるうちに螺旋階段のところに踊り場を見つけた。そこには杖を構えたリオンがおり、俺たちを見つけた途端ハッと顔を上げた。

「リオン!」

「リオちゃん!」

 現れた彼に声をかけると、その声かけに反応するように体が降下した。

 しかし降下と言ってもフリーフォールの状態で、床に着地するまでスピードは落ちなかった。

「ぐはっ!」

 着地する直前でいきなり落下速度が減速し、足が着くところまでいくと途端に重力が戻った。

 ノアとアンジェは上手く着地したが、俺はそのまま膝から崩れた。上がったり下がったりして三半規管がやられていたのだ。

「ごめんねムギト君……だいじょぶ?」

「だ、だいじょぶだ……楽させてくれてありがとよ……」

 そう言いながらも俺の声に覇気はなく、顔を上げる余力もなかった。

「風の魔法による重力を無視した移動魔法……まあ、コントロールが難しいからな。落ちなかっただけマシであろう」

「解説はいいんだけどよ……さらっと怖いことを言うんじゃねえよ……」

 説明するノアの横で恐る恐る踊り場の縁を見下ろすと、螺旋階段がどこまでも下に続いていた。体感では一瞬だったが、リオンの魔法のおかげで十数メートルはショートカットできたらしい。ただし、ここから落ちたらひとたまりもない。そう思ったら無意識に生唾を呑んでいた。

「残りはせいぜいあと三分の二ってとこかしら」

 アンジェが見上げた先も螺旋階段はまだまだ続いている。

 上がり切るにはもうしばらくかかりそうだ。

「でもね、なんか見つけた」

 そう言ってリオンが指した背後を見てみるとそこには怪しい鉄格子の扉があった。

 見た目だけでも重量感がある扉だ。まるで何かを閉じ込めているようだ。

 だが、アンジェがドアノブを回してみると鍵がかかっていなかった。最初から鍵なんてないのか。それとも、俺たちを誘い込んでいるのか。

「明らかに何かありそうだけど……行ってみる?」

 顔を強張らせるアンジェだが、俺は「勿論」と頷いた。

 果たして鬼が出るか蛇が出るか……今となってはどちらでもいい。

「敵ならばぶっ飛ばす……だろ?」

 頭を振るい、ゆっくりと立ち上がる。そんな俺の強気な言い草にアンジェは静かに頬を綻ばした。

「頼もしくて何より……さあ、行きましょう」

 そう言ったアンジェは音をたてないように慎重に扉を開けた。
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