転生するのにベビー・サタンの能力をもらったが、案の定魔力がたりない~最弱勇者の俺が最強魔王を倒すまで~

葛来奈都

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第12章 VS暗殺者・パルス

第168話 空気を読みなさい

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「おいリオン! あの竜巻起こせ!」

 突然声を荒げた俺にリオンは「え!?」と驚いた声をあげた。

「いいから早く!」

「う、うん! 『竜巻魔法トルネイディット

 リオンの詠唱と共に竜巻が再び巻き起こる。吸い込まれていく水にハッとしたアンジェは弾《はじ》けたようにバックステップでパルスと距離を取った。

 この場での効力は先ほどやったばかりなのでわかっている。一旦全部リセットできるのだ。勿論、俺とリオンの邪魔していた水分身もあの竜巻の中で無様に渦巻いているだろう。

 これでフリーになった。この隙に俺は一気にアンジェたちに詰め寄る――!

「うおらぁぁ!」

 雄叫びと共に突っ込んでくる俺にパルスは驚いて肩を竦み上げた。だが、俺が今殴りたいのはパルスではない。

「アンジェ! 歯を食いしばれ!」

 その発言に鳩が豆鉄砲を食ったような顔になったアンジェと目が合った。けれども俺は迷わず踏み込んで、アンジェの顔面をぶん殴った。

 吹っ飛ばされたアンジェが濡れた地面に転がる。水飛沫が舞い、天井からは雨のように雫が降り注ぐ。

 雫に濡れながら、俺は横たわるアンジェの胸倉を掴んだ。

「目ぇ、覚めたか?」

 アンジェに向けて低音で唸る。

 誰も止めようとはしなかった。リオンは目を丸くし、ミドリーさんは神妙な顔をし、パルスは無表情で行く末を見つめていた。ただ、アンジェは抵抗することなく、泣きそうな顔で俺から視線を逸らしていた。

 それでも俺は、彼に告げる。悲しくも、わかりきった現実を。

「イルマは死んだ。こいつはイルマじゃねえ。お前の敵討ちは、あの夜に終わっている」

 彼自身が一番わかっているはずなのだ。アンジェにはパルスを斬れない。たとえ斬れたとしても、そこからアンジェは一生心が死ぬ。どちらにしろアンジェは負けるのだ。

 そしてもう一つ、俺はパルスの真の狙いに気づいている。

「――選手交代だ」

 アンジェの胸倉を離し、パルスを見据える。

「……俺が相手してやんよ」

「ちょっと、ムギちゃ――」

 すかさずアンジェが物申そうとするが、腕を伸ばして発言を止める。息を呑むアンジェに視線だけを送り、低い声のまま彼を諭す。

「……やれることをやろうぜ。お互いによ」

 その言葉にアンジェはハッと目を瞠る。

 普段は落ち着いている彼でも、今だけは俺のほうが冷静だった。そして、ようやくアンジェも気づいたようだ。パルスはアンジェとやり合いたいのではない――俺と戦いたくないのだ。

 ぐるぐると腕を回して準備運動をしていると、パルスがにやりと笑った。了承の笑み、と捉えていいだろう。

 アンジェはグッと堪えるように拳を握り、ゆっくりと立ち上がる。

 そうしているうちに先ほど竜巻に巻き込まれていた水分身たちが再び現れていた。あちらもあちらで戦闘再開だ。

「負けたら許さないわよ」

 それだけ言うとアンジェは俺に背を向けてリオンの元へ向かった。

「……真打ち登場、ってことですね」

 そう言いながらパルスは自分の体を溶かし、姿を元の形に戻した。俺の前でイルマのままでいても意味はないと思ったのだろう。正解だ。俺はイルマに何も未練はないし、中身がこいつだとわかっているから余裕で殴れる。

「んじゃ……始めるか」

 鼻で笑いながらバトルフォークを構えると、パルスも持っていた短剣を構えた。

 お互い一歩踏み込み、武器を振りかぶる。戦闘再開。俺とパルスの一対一《サシ》勝負が始まった。

 突き刺すバトルフォークをパルスはひらりと避け、短剣で押さえ込む。こんなリーチの短い小さな武器で受け流せるとは流石手練れ。一筋縄ではいかなさそうだ。

 ――ならば一気に攻め込んでやる。

 そう息込んだ正にその時、想定外の邪魔が入った。

 ――いざ、戦闘再開。

「おい、貴様」

「うわっ!」

 今までミドリーさんの隣にいたはずのノアが突然俺の肩に乗る。不意の重みで俺はバランスを崩し、思わず転びそうになった。

「なんだよてめえ! 今めっちゃいいところだったろ!」

 よろけながらもノアに声を荒げるが、相変わらずノアは涼しい顔だった。そしていつものように淡々とした口調で俺に二言告げる。

「喜べ。新しい魔法覚えたぞ」

「このタイミングでぇぇぇえ!?」
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