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第12章 VS暗殺者・パルス
第167話 復讐心、再び
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怒りの矛先を向けられているにも関わらず、パルスは呑気にアンジェを観察していた。
「あ、ひょっとしてこの人と兄妹だったりします? 言われてみれば、目元が似ていますね」
パルスが言葉を発するたびにアンジェの顔が苦痛で歪む。たとえ半年前に亡くなった妹の姿が目の前にいても、これは感動の再会などではない。彼の中にあったイルマが、パルスによって穢されているのだろう。
「もっとはっきりと言ったほうがよかったかしら……喋るなって言ってるのよ」
だが、強い口調とは裏腹にアンジェの手はずっと震えていた。
見ているだけで痛々しかった。中身はパルス。だが、切っ先を向けているのはイルマ。彼自身が一番わかっているはずなのに、受け入れられていないのだろう。
そんな彼を見て、パルスは嬉しそうに頬を綻ばす。
「期待以上の効果で嬉しいですね。コピーしておいて正解でした」
アンジェの言葉を無視してパルスはペラペラと話す。彼もアンジェが切っ先を向けているだけで、妹を攻撃するような度胸はないと考えているのだ。
こいつを黙らせるのは無理。アンジェもそう思ったのか、気持ちを落ち着かせるように一度深呼吸をし、彼に問いただした。
「一つだけ教えて……どうしてあなた、イルマの姿になれるの?」
「それは単純。彼女に握手を求めたことがあるから。ファンサービスって奴ですかね。彼女も快く握手をしてくれましたよ。それが変化魔法の発動条件だとは知らずにね」
パルスいわく、変化魔法は相手の体に数秒間触れるだけでいいらしい。
その数秒間、なんの疑いもなく相手に触れられるのが彼にとっての握手だった。だからイルマ以外にもパルスは各地や有名人に握手を求めたらしい。無論――リチャード市長もその一人だ。
「彼女のような綺麗な若い子は便利なんですよ。甘っちょろい男なら手を出してこないし、何よりも色仕掛けができる」
と、パルスはにんまりと笑い、わざとらしくくねっと腰を振る。ただ、アンジェとしてはいい気分ではないようで艶やかなパルスに反して厳めしい顔つきになる。
しかし挑発をしているうちにパルスは何か思い出したのか、「ああ」と言葉を漏らして動きを止めた。
「思えば配下の中でこの姿をえらく気に入った者たちがいましたね。居場所を教えたらすぐに飛んで行ってしまいましたが……そういえば、あれから姿を見てませんね」
「……え?」
アンジェが意表を突かれたような力の抜けた声をこぼすが、パルスは気にしていないようで「まあ、いいか」とあっけらかんとしていた。
「『オルヴィルカ』の道中で冒険者に狩られたか、それともまだ遊んでいるのか……まあ、どちらにしろ二匹くらいいなくたってどうってことないのですが」
しかし、その一方でとある可能性が頭に過った。
「あんた……まさか」
アンジェの瞳に焦りが見える。きっと彼の頭の中ではあの夜の出来事が甦っているに違いない。
家の前で倒れていた血まみれの父親。
そして家の中で無残な姿にされて絶命していた妹のイルマ。そして――そこで彼女を襲っていた魔王の配下である魔物たち。
全てが繋がった。どうして魔物が他の住民たちに目も暮れずにあんな街外れにある家の住民だけを襲ったのか。魔物たちの狙いはシンプルにイルマのみ。彼女を守ろうとした彼らの父親も巻き込まれてしまっただけ。
すべては運命の悪戯……いや、違う。パルスがイルマの姿をコピーなんてしなければ魔物は彼女に目をつけなかった。間接的とはいえ、アンジェの家族を殺したのは奴だ。
「……許さない」
アンジェが獲物を狩る鷹のような鋭い目つきになる。だが、その目には涙が溜まっており、彼の手は震えていた。動揺が隠しきれていないのが俺でもわかる。
それでもアンジェは怒りに身を任せて持っていた剣を大きく掲げた。
しかし、パルスはにやりと笑ったあと、迷うことなくアンジェの懐に飛び込んだ。
自ら飛び込んでくるパルスにアンジェが驚いて一瞬動きを止める。そのタイミングでパルスは彼の腕をそっと取って、彼に請うた。
「お願い……やめて、兄さん」
その涙ぐんだパルスの声にアンジェは完全にフリーズした。
声だけでない。その儚げな表情も、体温も、肌の感触も、きっと生前のイルマそのものだった。頭では中身はパルスだとわかっている。けれども、そんなことをされたらアンジェが奴を切れる訳がないではないか。
――もう、見てられない。
「あ、ひょっとしてこの人と兄妹だったりします? 言われてみれば、目元が似ていますね」
パルスが言葉を発するたびにアンジェの顔が苦痛で歪む。たとえ半年前に亡くなった妹の姿が目の前にいても、これは感動の再会などではない。彼の中にあったイルマが、パルスによって穢されているのだろう。
「もっとはっきりと言ったほうがよかったかしら……喋るなって言ってるのよ」
だが、強い口調とは裏腹にアンジェの手はずっと震えていた。
見ているだけで痛々しかった。中身はパルス。だが、切っ先を向けているのはイルマ。彼自身が一番わかっているはずなのに、受け入れられていないのだろう。
そんな彼を見て、パルスは嬉しそうに頬を綻ばす。
「期待以上の効果で嬉しいですね。コピーしておいて正解でした」
アンジェの言葉を無視してパルスはペラペラと話す。彼もアンジェが切っ先を向けているだけで、妹を攻撃するような度胸はないと考えているのだ。
こいつを黙らせるのは無理。アンジェもそう思ったのか、気持ちを落ち着かせるように一度深呼吸をし、彼に問いただした。
「一つだけ教えて……どうしてあなた、イルマの姿になれるの?」
「それは単純。彼女に握手を求めたことがあるから。ファンサービスって奴ですかね。彼女も快く握手をしてくれましたよ。それが変化魔法の発動条件だとは知らずにね」
パルスいわく、変化魔法は相手の体に数秒間触れるだけでいいらしい。
その数秒間、なんの疑いもなく相手に触れられるのが彼にとっての握手だった。だからイルマ以外にもパルスは各地や有名人に握手を求めたらしい。無論――リチャード市長もその一人だ。
「彼女のような綺麗な若い子は便利なんですよ。甘っちょろい男なら手を出してこないし、何よりも色仕掛けができる」
と、パルスはにんまりと笑い、わざとらしくくねっと腰を振る。ただ、アンジェとしてはいい気分ではないようで艶やかなパルスに反して厳めしい顔つきになる。
しかし挑発をしているうちにパルスは何か思い出したのか、「ああ」と言葉を漏らして動きを止めた。
「思えば配下の中でこの姿をえらく気に入った者たちがいましたね。居場所を教えたらすぐに飛んで行ってしまいましたが……そういえば、あれから姿を見てませんね」
「……え?」
アンジェが意表を突かれたような力の抜けた声をこぼすが、パルスは気にしていないようで「まあ、いいか」とあっけらかんとしていた。
「『オルヴィルカ』の道中で冒険者に狩られたか、それともまだ遊んでいるのか……まあ、どちらにしろ二匹くらいいなくたってどうってことないのですが」
しかし、その一方でとある可能性が頭に過った。
「あんた……まさか」
アンジェの瞳に焦りが見える。きっと彼の頭の中ではあの夜の出来事が甦っているに違いない。
家の前で倒れていた血まみれの父親。
そして家の中で無残な姿にされて絶命していた妹のイルマ。そして――そこで彼女を襲っていた魔王の配下である魔物たち。
全てが繋がった。どうして魔物が他の住民たちに目も暮れずにあんな街外れにある家の住民だけを襲ったのか。魔物たちの狙いはシンプルにイルマのみ。彼女を守ろうとした彼らの父親も巻き込まれてしまっただけ。
すべては運命の悪戯……いや、違う。パルスがイルマの姿をコピーなんてしなければ魔物は彼女に目をつけなかった。間接的とはいえ、アンジェの家族を殺したのは奴だ。
「……許さない」
アンジェが獲物を狩る鷹のような鋭い目つきになる。だが、その目には涙が溜まっており、彼の手は震えていた。動揺が隠しきれていないのが俺でもわかる。
それでもアンジェは怒りに身を任せて持っていた剣を大きく掲げた。
しかし、パルスはにやりと笑ったあと、迷うことなくアンジェの懐に飛び込んだ。
自ら飛び込んでくるパルスにアンジェが驚いて一瞬動きを止める。そのタイミングでパルスは彼の腕をそっと取って、彼に請うた。
「お願い……やめて、兄さん」
その涙ぐんだパルスの声にアンジェは完全にフリーズした。
声だけでない。その儚げな表情も、体温も、肌の感触も、きっと生前のイルマそのものだった。頭では中身はパルスだとわかっている。けれども、そんなことをされたらアンジェが奴を切れる訳がないではないか。
――もう、見てられない。
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