転生するのにベビー・サタンの能力をもらったが、案の定魔力がたりない~最弱勇者の俺が最強魔王を倒すまで~

葛来奈都

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第12章 VS暗殺者・パルス

第170話 氷の大地

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 ハッとした。

 奴の言う通りだ。『集団即死魔法ディジリッド』を初めて使った時、あの場にノアはいなかった。それなのに俺はあの魔法を使えた。偶然的な因子があったからではない。あの魔法の名前が即座に出てきたのが異常だった。つまり、俺は自分の使える魔法のことがわかっているということか?

 目を丸くしていると、ノアが察したようにほくそ笑んだ。

「神経すり減らしてでも感じろ。力というのは、貴様の中にしかないのだ」

「俺の……力……」

 バックステップを数回してパルスと距離を取る。

 パルスは相変わらず顔をしかめていた。一人でブツブツと何を言っているのだと思っているのだろう。

「さっきから防戦一方ですけど、いいんですか?」 

 せせら笑うパルス。しかし、今の彼は眼中にもないし、挑発にも乗る気はなかった。

 ――俺は、俺の中の魔力を探っていた。

 見つけ出せ。見つけ出せ。俺の中にある僅かな魔力。それでも確かにある力。

 体の内側から冷えを感じる。魔力を探るとはこのことなのだろうか。手が、足が、そして空気が凍る。

 ──力というのは、貴様の中にしかないのだ。

 ノアの言葉が頭に過る。その通りだ。俺の力はステータスボードなんかで数値化できない。感じるのだ。俺が見てきた世界を。冬の、凍える世界を。

「来ないのなら、こちらから行きますよ」

 パルスの声がする。うっすら目を開けると、パルスがまた水中に潜ろうとしていた。

 このタイミングだ。

「行け……『氷の大地アイス・グラウンド』」

 魔法の詠唱と同時にバトルフォークを床に突き刺す。すると、フォークの切っ先から一直線上に水が凍り始めた。

「なっ!」

 パルスが驚いた声をあげたが、逃げる間もなく水に突っ込んだ彼の足は凍りついた。これで逃げも隠れもできない。

「よくもまあ、こんな面倒くせえことを……」

 額から流れる汗を拭うこともなく、俺は動けなくなっているパルスに切っ先を向けた。

「でも──これで終わりだ」

   だが、構えた途端パルスの足を凍らせていた氷がパリンと音をたてて砕けた。パルスが力任せてで抜いたのだ。魔力が弱くて奴の動きを完全に止めるまではいかなかったのだ。

「残念でした」

 にんまりとパルスは笑う。足を抜いた勢いでその場でジャンプし、再び水に飛び込もうとする。だが、それも無駄な抵抗だ。このひと時だけでも、こいつは完全に油断したのだから。

「逃すか!」

   俺はフォークを引いて投擲の構えを取った。そして槍投げのようにフォークを思い切り投げ飛ばす。

   まっすぐ飛んだバトルフォークは勢いを落とすことなく、そのままパルスの胸を貫いた。

「……なんだ……倒し方わかっているんじゃないですか」

 胸部を貫通したバトルフォークの柄に触れながら、パルスは笑う。

 だが、バトルフォークは奴から逃げるように一瞬で消え、俺の手元に戻ってきた。

 穴が開いたパルスの胸部からドロドロと市が流れる。

 彼の体から紫色の靄が出ているから、彼はもうすぐ絶命するのだろう。それを示すかのように俺の背後でバシャバシャと水が落ちる音がした。おそらく、彼の水分身が解かれたのだ。いよいよこいつの魔力も尽きる。

「消える前に教えろ……どうしてこんなまどろっこしいことをしたんだ」

 真顔で尋ねると、パルスは「そうですね」と力なく返した。

「勝者の君には教えてあげましょうか……なあに、実にシンプルなことですよ……ただの……時間稼ぎですから」

 それだけ言うと、パルスは膝から崩れ落ちてその場に横たわった。口がパクパクと動いているが、言葉は聞き取れない。しかし、彼は満足そうに微笑み、静かに目を閉じた。

「おい! まだ消えるんじゃねえぞ! いったいなんのために時間稼ぎしたんだ!」

 死にそうなパルスにさらに尋ねると、パルスは最後の力を振り絞るように弱々しい声で答えた。

「決まっているじゃないですか……あの方のためです……でも、役目は十分果たせました」

 パルスの紫色の靄が強くなる。

 そして彼の体を丸ごと包み込んだ紫色の靄は、まるで水に溶けるように静かに消えた。そこにはもうパルスの体はない。代わりに、紫色のコアが転がっているだけだ。
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