転生するのにベビー・サタンの能力をもらったが、案の定魔力がたりない~最弱勇者の俺が最強魔王を倒すまで~

葛来奈都

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第13章 神と魔王が動き出す

第173話 「お兄さん」

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「……久しぶりだね。お兄さん」

「お兄さん」なんてこれまで言ったことなかったくせに、わざとらしく言うあいつが癪に障る。だが、怒っている場合ではない。冷静になれ、俺。

「お前……なんでこんなところにいるんだよ」

「あんたと一緒さ。選ばれたから」

「選ばれたって……魔王にかよ」

「そりゃ、もちろん」

 にっこりと満面の笑みを浮かべるライトを見ているとふつふつと怒りの感情が沸いてきた。

 脳裏にあの赤い花が蘇る。

 魔王の配下の印。それをつけた奴らはアンジェの妹を殺し、ギルドを爆破し、リオンの村を襲い、そして神官たちを誘拐した。あいつらのせいでたくさんの人々が悲しみ、心に傷を負った。その黒幕が、すべて実弟。

「てめぇぇ! 自分が何をしてるのか、わかってるのかよ!」

 ライトに怒りをぶつけると、ライトは顔をしかめて両耳を塞いだ。

「本当……昔から声だけはでかいよね」

 ライトが白けた顔で俺を見下ろす。ああ、この視線だ。これまで幾度なく向けられてきた人をあざける冷たい視線。間違いなくライトのものだ。

「ちょっと……そろそろ説明してくれない?」

 振り返ると、その場に居合わせた人たちがみんな俺のことを見ていた。ふとノアを見るとノアは諦めたように首を横に振る。これ以上誤魔化すことはできないということだ。

 俺は深く息をついた後、静かに真実を告げた。

「こいつは……この魔王は……俺の双子の弟だ」

 その言葉に誰もが息を飲んだ。たとえ今のやり取りで俺たちが兄弟だとわかっても、俺の弟が魔王だということにみんな理解が追いついていないのだ。勿論、俺だって。

 しかし、ライトは「おかしいなー」とあざとく首を傾げながら俺に言う。

「ムギトなら魔王が僕だってすぐに気づけたでしょ? それなのに、どうしてムギトもムギトの友達も驚いているのさ」

「それは……どういう意味だ?」

「どういう意味も何も。ムギトが戦ってきた僕の部下は、みんなあんたのことをはっきりと呼んでいただろ? 『お兄さん』ってさ」

 ほくそ笑むライトの証言に、俺は衝撃のあまり言葉を失った。その一方で、これまで出会ってきた魔王の配下の顔が脳裏に過っていた。


 ──じゃーなお兄さん。また遊ぼうぜ。

 ──じゃーね、お兄さん。あの人によろしくっす。

 ──初めましてお兄さん。そしてそのお仲間のみなさん。


 あの爆破クソ野郎も、アルジャーも、そしてパルスも、みんな俺のことだけこう呼んでいたのだ。

 あの呼び方は「He」の意味ではなかったのだ。決定的なのはパルスが俺の苗字を知っていたことだ。本来ならあそこで確信を持つべきだった。魔王が俺の苗字を知っているということは、絶対に俺も知っている奴だったというのに。

 悔しさで握っていた拳が震える。それを見てセトがケラケラと笑いだした。

「おいライト。やっぱりお前の買い被りだったんじゃねえの? たとえお前の兄貴とはいえ、こんなことにも気づかないなんてよお!」

「うるせえ! というか、お前はなんなんだよ!」

 ビシッと指差して文句を言うと、セトは「俺か?」とニヤリと笑った。

「俺はセト。魔王を選定する堕天使で……ノアの元同僚だ」

「ノアの……元同僚?」

 たまらずセトの言葉をくり返す。誰もが絶句する中、ノアは無言でも元の天使の姿に戻った。中にはいきなり消えた猫のノアに驚きの声をあげた人もいたが、ノアはなんのリアクションもせずセトを見つめていた。

「ムギトって言ったっけ? 大方こいつの口車に乗せられたんだろ? こいつは目的のためなら手段を選ばない奴だからなあ」

 セトがニマニマと笑いながら俺を見てくる。同情なんてしている様子はない。だが、セトの言う通りだ。俺はノアに強引に契約をさせられた。だが、そんな口ぶりをするということは、ライトは違うというのか。

「ライト……お前は、自分の意思でこの世界に来たって言うのか?」

「当然」

 あっけらかんと答えるライトの答えに自然と眉間にしわが寄った。

 理解できない。悔しいが、こいつは昔から賢かった。学力テストは常に上位にいたし、大学生の今だってずっと主席だと聞いていた。それなのに、どうして「異世界の魔王」だなんて馬鹿みたいな契約をしたのだ。
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