転生するのにベビー・サタンの能力をもらったが、案の定魔力がたりない~最弱勇者の俺が最強魔王を倒すまで~

葛来奈都

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第13章 神と魔王が動き出す

第181話 追放の日

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「ずるいだろ……お前……」

「あら。あなただってあたしを泣かしたことあるじゃない。これで『おあいこ』よ」

 アンジェはクスッと笑ったが、その手は離れなかった。

 だが、そっと手を置かれているだけなのに、俺も振りほどけなかった。俺の気持ちとは裏腹に、両目から大粒の涙がこぼれてくるのだ。どんなに歯を食いしばっても、アンジェの服の袖を掴んでも、息を殺しても、涙も嗚咽も止まってくれない。

「ごめん……アンジェ」

 こんなに情けない俺で、本当にごめん。

 そういうつもりで言ったのに、むしろアンジェに怒られた。

「こういう時は『ごめん』じゃないでしょう?」

「…………ありがとう」

「そう。よくできました」

 アンジェが俺の短い髪をくしゃっと撫でる。こいつはどこまで俺のことをガキ扱いするのだろう。いや、ガキのほうが大人か。今の俺は、クラスに相応しいただの赤子。

 ──でも、それも今日までだ。

「──なってやるよ、勇者様って奴に」

 その誓いを聞いたアンジェは、「フフッ」と小さく笑った。

「さ、もう寝ましょう。朝陽が昇れば旅立ちよ」

 アンジェに両肩を叩かれたところで、ようやく彼の腕は解かれた。解放された顔はずぶ濡れでとても格好はつかなかったが、それでも心は不思議と晴れていた。

「……なんか、前にもこんなことがあったわよね」

 煌々と光る月を見上げながらアンジェは言う。忘れもしない、アンジェの核心に触れたあの夜のことだ。違うのは、月が青いというだけ。

 アンジェが微笑んだまま手を差し伸べる。この合図は、あの時と同じだ。

「……やってやりましょう。あたしも、どこまでもついていくから」

 不敵に笑うアンジェにこちらも思わず笑みがこぼれる。そして、あの日と同じように俺はアンジェの手を取り、しっかりと握手を交わした。

 これは追放ではない。魔王討伐への、旅立ちだ。そう決意した時、長い長い一日は、終わりを告げるのだった。


 ◆ ◆ ◆


 早朝。アンジェの家で最後の朝食を取った俺たちは、言いつけ通りに『オルヴィルカ』を出ることにした。

「……次に帰るのは、いつになるかしらね」

 綺麗に片付いた自宅を見つめながら、アンジェがポツリと呟く。しかし、言葉が詰まる暇もなく、アンジェは「なんてね」と俺たちに向けてウィンクした。

「どちらにしろ、ずっとこの家にはいられなかったしね。ちょうどいい機会よ。ただ──」

 と、言いよどんだ彼は一瞬寂しそうな顔を浮かべた。

 彼が言いたいことは、なんとなくわかっていた。

「ただ……街を出る前に、挨拶だけさせて」

「……勿論。行こうぜ、親父さんとイルマのところに」

 そう言うと、アンジェは静かに口角をあげた。彼が旅立ちに躊躇する理由なんて、これくらいしかない。

 家を出ると、心地よい風が俺たちの髪を靡かせた。いつの間にか収穫の時期になっていたようで、金色の穀物も朝露に濡れてキラキラと光って見えた。ただ、一日経っても空は不気味に赤く染まっている。

「お空、赤いままだね」

「ああ……あいつを止めない限りずっとこうなんだろうよ」

「どうやら、青空を取り戻す旅でもありそうね」

 そんなたわいない会話をしながら、俺たちはアンジェの家族の墓へと向かった。

 だが、いざたどり着いてみると先客がいた。フーリとセリナだ。

「やっぱり、ここに来ると思ったぜ」

 フーリが眠たそうにあくびをする。どうやら俺たちが来るのをずっと待っていたみたいだ。アンジェの親父さんとイルマの墓の前に花束が置いてあるのも、おそらくセリナがお供えしてくれたものだろう。

「あら、お見送り?」

「いや……残念ながら仕事だ。ギルドカードの回収。悪いが、お前はギルドから除名させてもらうぜ」

 と、フーリは真顔になって俺を見つめてくる。しかし、その意図はアンジェには見え見えのようで、クスッと笑われていた。

「あれだけ時間があったのに、どうしてそんな大事なことをこんな旅立ち直前にやるのかしら」

 わざとらしく聞いてくるアンジェにフーリは「うっせ」と舌打ちする。

「オズモンドさんのご厚意だよ。本来なら、こんな時間だって取らせてはくれないんだ」

「そう……あのお方には全てお見通しってことね」

 この様子だと、アンジェが俺についていくことを二人もわかっていたのだろう。勿論、オズモンドさんも。だからこうして、オズモンドさんは「仕事」を名目にして俺たちにお別れの時間を与えてくれたのだ。
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