転生するのにベビー・サタンの能力をもらったが、案の定魔力がたりない~最弱勇者の俺が最強魔王を倒すまで~

葛来奈都

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第13章 神と魔王が動き出す

第183話 忘れ物はなんですか

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「お待たせ……行きましょうか」

 振り向いたアンジェの顔は満足そうで、少しだけ口角が上がっていた。

 それを見たフーリも肩慣らししながら「やれやれ」とため息をつく。

「俺も遅刻するからもう行くわ。じゃーなお前ら。達者でな」

 サラッと別れを告げたフーリは、それだけ言ってゆっくりと歩き出した。そんな彼の最後に見せた顔をきっと俺は忘れないだろう。今にも泣きだしそうなくらい寂しそうな彼の顔を。

 一度も振り向かないまま小さくなるフーリの背中を見つめていると、アンジェに「行くわよ」と言われた。もうとっくの前に朝陽が昇っている。そろそろこの街を出なければ。

 住民たちの朝が始まったのか、通り過ぎた家の屋根から煙が出ている。きっとどこの家庭も朝食を取っているのだろう。こののどかな風景を、俺たちみんな目に焼き付けながらこの『オルヴィルカ』を出た。

 街の門を出ると、平野の中にいくつか道が伸びていた。

『クーラの洞窟』に繋がる道。『ザラクの森』に繋がる道。『カトミア』に繋がる道。そして、アンジェと初めて会った丘への道。全ての冒険はここから始まったのかと思うと、胸が熱くなった。そしてここから、新たな冒険の一歩が始まるのだ。

 ──そう思った矢先だ。

「あーっ!」

 突然声をあげたアンジェに俺たち三人は肩を竦みあげながら一斉に彼を見た。

「いっけなーい! すっかり忘れてたわ!」

「忘れ物か?」

「違うわよ! ノアちゃんよ、ノアちゃん!」

「……あ」

 ドタバタしていたから俺も存在を忘れていたが、そういえばノアの姿が見えない。思い返せば生き返った時から奴を見ていない気がする。

「あんにゃろ……どこに行きやがったんだ?」

 頭を掻きながら去ったばかりの『オルヴィルカ』の街を振り返る。

 とはいえ、あいつのことは一切心配していなかった。あいつがどこにいようが、俺がどこにいようが、契約している俺たちはお互いから逃げられない。そのうち出てくるだろう。

「あいつのことならいいよ。さっさと先に行こうぜ」

 と、先を行こうとしたら、向こうから小さな黒い影が俺たちのほうへ近づいてきた。ノアだ。

「なんだ、いるんじゃねえか」

 腰に手を当てながら「やれやれ」とため息をつく。けれども、ノアは無言のままで、真顔で俺たちを見上げた。

「……ノア?」

 一言も喋らないノアに不思議に思っていると、ノアの体がピカッと光った。

 眩しさのあまりに思わず目をつぶる。

 その光のまばゆさはすぐに収まったので、うっすらと目を開けた。そこにいたのは、背中に翼を生やした神の使いと化したノアだった。

「なんだよ……いきなり本体になりやがって。というか、なんか言えよ」

 ガンつけるようにノアを見るが、まだノアは何も言わなかった。代わりにニンマリと口角をあげている。ただし、その視線も笑みも俺に向けられていない。向けているのは俺の後方──仲間たちのほうだ。

 振り返ると彼らは各々違ったリアクションをしていた。

 大きな目をぱちくりしながらキョトンとしているリオン。鳩が豆鉄砲を食ったような顔で口を開けたまま動かないアンジェ。両手で口を覆いながら何度も瞬きをしているセリナ。どいつもこいつも、ノアの姿が見えているみたいだ。

 ノアは神の使い。契約者である俺でないと、本当の姿は見えないはずだ。それなのに、どうして当のノアですら満足そうな顔をしているのだ。

 唖然としている俺たちを差し置いて、ノアは告げる。

「私の名はノア。女神エスメラルダに仕える神の使いだ」

「……え?」

 その言葉にアンジェとセリナが同時に言葉を漏らした。間違いない。この声も彼らには聞こえている。けれどもノアは、うろたえる彼らを置き去りにしたまま、話を続けた。

「女神は貴様らを勇者の仲間と認めた。これから勇者含めた貴様らを──天界へと招いてやる」

 その発言は、俺ですら混乱を起こすものだった。

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