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第17章 戦いの終わりに
第232話 忘れられた約束
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「ひょっとして俺……元の世界に戻れる?」
緊張しながらおそるおそる尋ねると、エスメラルダさんは優しく微笑んで頷いた。その答えに、その場にいた誰もが息を呑んだ。
しかし、いざ元の世界に戻れると言われても、素直に喜べなかった。
「でも……俺が戻ったところで、ライトはもう……」
死んでいる。頭の中ではわかっているのに、口には出せなかった。ライトを殺したのは、俺本人だと言うのに。しかし、これが俺の本音だ。
「ライトがいない元の世界に戻ったとして、俺は……親にどういう顔をすればいいのかわからない」
出来の悪い長男が蘇って、優秀な次男が死んだまま。両親の悲しむ顔が容易に目に浮かぶ。しかも、殺したのは他でもなくこの俺だ。多分、両親の泣き顔を見るたびに罪悪感で押しつぶされることだろう。「英雄が生きる世界が違えばただの人殺しだ」とはよく聞くが、今ならその言葉の意味がよくわかる。
しかし、エスメラルダさんは微笑みを浮かべたままはっきりと俺に告げた。
「ライト・オオダテは、一足先にあなたの世界に戻っております」
「……え?」
一瞬、彼女の言っていることが理解できなかった。なぜなら、ライトは俺がこの手で、コアを壊して殺した。みんなの目の前で煙のように消えていった。それなのに、エスメラルダさんは「あなたの世界に戻っております」なんて言う。理屈が、わからない。
だが、これは彼女が神様であるからこそ、できる所業だった。
「セトが私の使いであったことが幸運でしたね。さまよう御霊をあなたの世界にある本来の体に戻しました」
曰く、ライトの御霊は自身の部下であるセトとの契約だったから、すぐに御霊を導くことができたらしい。セトと契約したことでライトも俺と同じように心肺停止状態だっただろうが、御霊が戻った今は息を吹き返していることだろう、とのことだ。
「彼もまた、この世界の被害者でした。これが私にできる精いっぱいの詫びです」
エスメラルダさんが申し訳なさそうに眉尻を垂らした。
ライトが生きている。その衝撃的な事実に開いた口が塞がらなかったが、呆然としていても目からは一滴の涙がこぼれ落ちていた。ライトが生きていることが心の底から嬉しい。だが、それと同時に複雑な感情も抱いていた。目的は終わった。ライトも生きている。ならば、現実世界に帰らない理由がない。
仲間たちに視線を送ると、先ほどまでの明るさとは打って変わって憂わしげな表情になっていた。
「ムギト君……どこかに行っちゃうの?」
伏し目がちのリオンが涙声で尋ねる。その悲しい顔をされるだけで、胸がキュッと苦しくなった。『エムメルク』に来た時ですら命をかける契約をしなければいけなかったのだ。そんなにひょいひょい行き来できるものではない。きっと、元の世界に帰ったらもうここには来られなくなる。そんな気がしてならなかった。
「みんな……俺……」
「どうすればいい?」そう言いたかったが、口が動かなかった。わかっている。これは、俺自身の問題。俺が決めなくてはいけない。
みんなと別れるのはつらい。しかし、俺の居場所は、世界は、多分ここではない。自分が一番理解しているからこそ、この現実を飲み込むのが苦しかった。
そんな中、これまで黙っていたアンジェが徐に口を開いた。
「戻りなさい、ムギちゃん。あなた、弟くんと仲直りしていないじゃない」
その発言に俺は息を呑んだ。
仲直り。言われてみると、俺はライトに謝っていない。知らず知らずのうちに彼を傷つけていたことも。不可抗力とはいえ、こちらの世界で傷つけてしまったことも。そしてこれまで、ずっとライトのことを避け続けていたことも。拳を交わえて、ようやくあいつ向き合えたのだ。俺が元の世界に帰れば、そこからもう一歩踏み出せる。踏み出せて、しまう。
痛む胸を抑えながら、ぐっと歯を食いしばる。そうやって痛みに耐える俺を見て、アンジェが優しく微笑んだ。
緊張しながらおそるおそる尋ねると、エスメラルダさんは優しく微笑んで頷いた。その答えに、その場にいた誰もが息を呑んだ。
しかし、いざ元の世界に戻れると言われても、素直に喜べなかった。
「でも……俺が戻ったところで、ライトはもう……」
死んでいる。頭の中ではわかっているのに、口には出せなかった。ライトを殺したのは、俺本人だと言うのに。しかし、これが俺の本音だ。
「ライトがいない元の世界に戻ったとして、俺は……親にどういう顔をすればいいのかわからない」
出来の悪い長男が蘇って、優秀な次男が死んだまま。両親の悲しむ顔が容易に目に浮かぶ。しかも、殺したのは他でもなくこの俺だ。多分、両親の泣き顔を見るたびに罪悪感で押しつぶされることだろう。「英雄が生きる世界が違えばただの人殺しだ」とはよく聞くが、今ならその言葉の意味がよくわかる。
しかし、エスメラルダさんは微笑みを浮かべたままはっきりと俺に告げた。
「ライト・オオダテは、一足先にあなたの世界に戻っております」
「……え?」
一瞬、彼女の言っていることが理解できなかった。なぜなら、ライトは俺がこの手で、コアを壊して殺した。みんなの目の前で煙のように消えていった。それなのに、エスメラルダさんは「あなたの世界に戻っております」なんて言う。理屈が、わからない。
だが、これは彼女が神様であるからこそ、できる所業だった。
「セトが私の使いであったことが幸運でしたね。さまよう御霊をあなたの世界にある本来の体に戻しました」
曰く、ライトの御霊は自身の部下であるセトとの契約だったから、すぐに御霊を導くことができたらしい。セトと契約したことでライトも俺と同じように心肺停止状態だっただろうが、御霊が戻った今は息を吹き返していることだろう、とのことだ。
「彼もまた、この世界の被害者でした。これが私にできる精いっぱいの詫びです」
エスメラルダさんが申し訳なさそうに眉尻を垂らした。
ライトが生きている。その衝撃的な事実に開いた口が塞がらなかったが、呆然としていても目からは一滴の涙がこぼれ落ちていた。ライトが生きていることが心の底から嬉しい。だが、それと同時に複雑な感情も抱いていた。目的は終わった。ライトも生きている。ならば、現実世界に帰らない理由がない。
仲間たちに視線を送ると、先ほどまでの明るさとは打って変わって憂わしげな表情になっていた。
「ムギト君……どこかに行っちゃうの?」
伏し目がちのリオンが涙声で尋ねる。その悲しい顔をされるだけで、胸がキュッと苦しくなった。『エムメルク』に来た時ですら命をかける契約をしなければいけなかったのだ。そんなにひょいひょい行き来できるものではない。きっと、元の世界に帰ったらもうここには来られなくなる。そんな気がしてならなかった。
「みんな……俺……」
「どうすればいい?」そう言いたかったが、口が動かなかった。わかっている。これは、俺自身の問題。俺が決めなくてはいけない。
みんなと別れるのはつらい。しかし、俺の居場所は、世界は、多分ここではない。自分が一番理解しているからこそ、この現実を飲み込むのが苦しかった。
そんな中、これまで黙っていたアンジェが徐に口を開いた。
「戻りなさい、ムギちゃん。あなた、弟くんと仲直りしていないじゃない」
その発言に俺は息を呑んだ。
仲直り。言われてみると、俺はライトに謝っていない。知らず知らずのうちに彼を傷つけていたことも。不可抗力とはいえ、こちらの世界で傷つけてしまったことも。そしてこれまで、ずっとライトのことを避け続けていたことも。拳を交わえて、ようやくあいつ向き合えたのだ。俺が元の世界に帰れば、そこからもう一歩踏み出せる。踏み出せて、しまう。
痛む胸を抑えながら、ぐっと歯を食いしばる。そうやって痛みに耐える俺を見て、アンジェが優しく微笑んだ。
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