転生するのにベビー・サタンの能力をもらったが、案の定魔力がたりない~最弱勇者の俺が最強魔王を倒すまで~

葛来奈都

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第17章 戦いの終わりに

第233話 二人の兄

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「言ったでしょ? 『弟君と仲直りするのよ』って──ちゃんと会えるうちに、ね」

 言われた途端、頭の中で記憶がぶわっと蘇った。アンジェの妹・イルマのことを知った夜に、同じことを言われたこと。確かにわかち合おうともしなかったあの時の俺たちは何を掛けても「ゼロ」だった。でも、今は違う。

「──本当、説得力ありすぎだろ」

 強がって笑ってみたが、すでに目頭は熱かった。だがこの瞬間、俺の中で答えが出てしまった。

「帰るよ、俺。こっちではやることやったし。元の世界でやり残したことをやってくる」

 そう告げると、アンジェが真っ赤になった切れ長の目を細めた。彼も笑っているが、背中を押してくれた当の本人が一番泣きそうになっていた。

「うん……そうだよね。仲直り、しなくちゃね」

 リオンも自分を納得させるように呟きながら頷いてくれる。

 ただ、セリナだけは終始顔をうつむかせており、彼女の表情が見えなかった。その様子をエスメラルダさんが憐れんだ眼差しで見つめていたが、やがて意を決したように話を切り出した。

「出発は明日の日の出にしましょう。それでは、私たちはこれで」

「退席なさるのですか?」

「私がいるとゆっくりはなむけの言葉も送れないでしょう? 心行くまで、存分にくつろいでください。行きましょう、ノア」

「かしこまりました」

 そう言ってエスメラルダさんは頭を下げると、ノアと一緒に透明になってスーッと消えていった。だが、彼女たちが消えた後でも、物悲しくて重々しい空気はまだ残っていた。

 そんな空気を変えるように、アンジェが「パンッ」と手を叩いた。

「そうと決まれば、今日はムギちゃんのお別れパーティーよ。ムギちゃんの好物をこれでもかというくらい食べさせてあげるから、覚悟しなさい」

「お、おう。ありがとう」

 アンジェにパチンとウインクをされ、たまらず頬を引き攣らせる。しかし、これもアンジェの心遣いなのだと思うと、ほっこりとした気分になった。

「アンジェ君、僕も手伝う!」

「あら、ありがとうリオちゃん。それなら一緒に買い出ししましょうか。セリちゃんはどうする?」

 アンジェに話を振られ、うつむいていたセリナの肩がピクリと動く。しかし、彼女は顔を伏せたままその場に立ち上がり、玄関に向かって歩いていった。

「ごめんなさい……私、少しやりたいことがありますので」

 それだけ言って、セリナがどこかへ行ってしまう。だが、どこに行くのか聞ける空気でもなく、俺たちは黙って彼女の背中を見送った。

 
 ◆ ◆ ◆


 今日がこの世界で最後の日だというのに、時間は淡々と過ぎていく。

 アンジェとリオンは買い出しに行ってしまったし、セリナはどこかへ行ってしまった。とりあえず身辺整理と思って部屋の掃除をしたり、荷物を片付けたりしてみたが、それもすぐに終わってしまう。こういう時、感謝の手紙でも書けばいいのか? いや、手紙といっても、そんなもの書く柄ではないし、これからいなくなる者の手紙なんて遺書のようでなんか嫌だ。

「随分と暇そうだな、汚物のくせに」

「うるせえなあ。なんだよ汚物って……え?」

 突然割り込んできた聞き覚えのある声に慌てて振り返る。すると、掃除をするのに開けていた窓の縁にライザが座り込んでいた。

「な、なんでお前がここに!?」

 あいつは「エルフを護る」と里に戻ったはずだ。それなのに、どうしてまたこんな『イルニス』なんて遠いところにやってきたというのだ。

 愕然としている俺を差し置いて、ライザはあっけらかんとしていた。

「『ピン留め』っつったか? それをやっておいたから使ってみた」

 と、ライザはポケットから特製のウィンド・コア・ピンを取り出した。こいつ、ちゃっかりリオンの居場所をマーキングしてやがるし、ちゃっかり俺より魔法道具を使いこなせていやがる。ちょっと前までガラパゴス状態だったのに。

「それはいいとして、今、リオンはいないぞ」

「リオンはいい。どうせもうすぐ俺のところに帰ってくるだろ。今日はお前に用があってきた」

「俺に?」

 そんな珍しいこともあるものかと身構えるが、ライザはばつが悪そうに頬を掻くだけでなかなか話を切り出さなかった。
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