蒼穹の竜王

【第八章 沈黙を破る足音】

1．新たな犠牲者

朝の宿「グリーンライト」を飛び出したリュート、ケイン、ガロウ、リラの四人は、通りを急ぎ足で駆け抜け、南端地区へ向かっていた。聞けば、そこに“血まみれで倒れていた人”が見つかったというのだ。
道すがら、行き交う住民や商人の顔には、みな暗い影が落ちている。重苦しい沈黙と嫌な胸騒ぎが、街の空気を支配していた。

やがて、下町の裏通りに差しかかったところで、数名の兵士と、心配そうに群れている住人たちの姿が目に入る。
「こっちか……」
ケインが低くつぶやき、先頭で歩みを進める。リュートはその後を追うように走り、兵士の一人に声をかけた。
「すみません。倒れていた人というのは……大丈夫なんでしょうか？」

兵士は警戒心を露にするが、リュートが見習いの旅芸人だと知ると、ため息交じりに答えてくれる。
「……命こそ繋ぎ止めているが、かなり衰弱している状態だ。身体中に何か爪で引っかかれたような傷があってな……」
「やはり、魔物の仕業ですか？」
兵士は苦い顔で首を振る。
「断言はできんが、最近多いだろう、そういう被害が……。とにかく、今は医者を呼んで応急手当をしているところだ」

さらに奥へ目をやると、血の跡が点々と続いており、その先には小さな路地が伸びている。ケインはリラに目で合図し、声を潜めて言った。
「俺たちは被害者の邪魔にならない範囲で、この周辺を調べよう。魔物に関わる痕跡があるかもしれない」
「了解」
リラが頷き、さっと路地へ向かう。リュートとガロウも続いた。