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【第八章 沈黙を破る足音】
4.追いすがる気配
しおりを挟むひと通り路地裏を調査したリュートたちは、一旦広い通りへ戻ることにした。あまり長居していると自分たちが不審者扱いされかねないし、兵士の仕事を邪魔するのも本意ではない。
「とはいえ、事件の全容はまったく見えないな……」
リラがぼそりとつぶやく。周囲では、火事の被害に遭った人々や行方不明者の捜索、魔物に襲われた被害者の救護など、実に多方面で混乱が進行している。
ケインは腕を組み、険しい表情で考え込む。
「そろそろ衛兵の詰所へ行って情報を仕入れよう。俺たちもこれだけ街で騒ぎを見聞きしてる以上、何かわかることがあるかもしれない」
「そうね。私も兵士の隊長さんに少し話を聞いてみたいわ」
リュートとガロウもうなずくが、そのとき、路地裏から続く通りの曲がり角で、ほんの一瞬だけ黒いローブがひらめいたのを視界の隅に捉える。
「……あれは……!」
リュートが思わず駆け出すと、ケインとリラ、ガロウも急いで追いかける。だが、曲がり角を曲がった先にはもう人影はなく、閑散とした横道が伸びるばかりだ。
「間違いない……黒いローブを着ていた」
リュートが焦りを込めた口調でつぶやく。過去にも何度か見かけたあの不審な人物。放火や魔物への関与を疑われている“黒い影”が再び近くに現れたのかもしれない。
ガロウはわずかに目を細め、辺りを警戒しながらつぶやく。
「追いかけるか? でも、どこへ行ったのか……」
「うーん、細い路地が何本もあるし、逃げ道はたくさんある。下手に分かれて追っても危険だわ」
リラも苦い顔で返す。すでにローブの人物の姿はどこにも見あたらない。
ケインは小さく息を吐き、「焦るな」と言い聞かせるように声をかけた。
「もしあれが放火犯や魔物の呼び手だとしても、今はまだ尻尾をつかむ段階じゃない。急いで飛び込んでいっても逆に危ないだけだ」
リュートは唇を噛みながらも、その通りだと思って気持ちを落ち着ける。
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