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ストーリー
湖と蛇
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ジニアとリュカスは、アガーべにペディアを任せて住処を離れた。周辺を走り回って辿り着いた場所は、大きな湖だった。一見、海にも見えるが、湖にいる生き物がものを言わせた。
「リュカスさん、ここは?」
『喰隸湖だ。
かつて大きな街があったが、洪水で流された。話せば長くなるが……、簡潔にいえば、美しい街だったのだが、ある日を境に治安の悪い街になり、餓死する者が増えた。空腹凌ぎに共喰いをする人間もいたものだ。だから、喰隸湖と呼ばれるようになった。
我も気に入る良き街だったのだがな……。
いや、今は感傷に浸っている場合ではなかったな。主はこの湖のどこかに居るだろう』
ジニアはあまりの過去に放心してしまっていた。
『ジニア?』
リュカスの呼びかけにジニアは我に返る。
「……ごめん。ちょっとびっくりしただけ。どうしてここにフェインが居るってわかるの?」
『住処から近いが、隠れる場所が豊富にあるからだ。所々に仕掛けも施してある。普通の人はこの湖に近づくことさえ容易ではないだろう』
「そうなんだ……ん?」
ジニアは湖を見ながら、リュカスの話を聞いていると、足元に違和感を感じた。足に絡みつく茶色の物体を見て反射的に動く。
「キャアアアアア!! 《アイル·クーペ》!」
アイル·クーペ:風属性初級攻撃魔法。風の鋭さを利用した自然の刃物である。カマのような刃で滅多斬りにできる。
ジニアの魔法により茶色の何かが離れたが、自分の足を傷つけてしまった。細かい傷ができ、血が出る。それには構わず、絡みついてきた何かを見る。蛇だった。
『危ないですねぇ……』
『お主が何も言わずに出てくるからだろう』
どこか飄々とした蛇に、リュカスが指摘する。ジニアはリュカスに知ってるの? とでも言いたげな目線を送る。しかし、答えたのは蛇の方だった。
『この御方、私奴も存じております。お久しゅうございますな』
「……私のこと、知ってるの?」
『おや? 私奴のことをご存知でないとは。1度、この場でご挨拶を申しましょう』
蛇は言いながら周囲に霞をかける。晴れたころには蛇の姿はなかった。
「こんにちは、我が主の友よ。私奴は、我が主ラナ様の従者にございます。お見知り置き下さい」
蛇だった者は、人型になり軽くお辞儀をした。蛇の鱗と同じ茶色く長い髪に、蛇特有の縦長の瞳孔、牙があった。
ジニアの思考はショート寸前だった。人型になる魔物の数は少ない上、人語を話せる者は少ないからだ。蛇特有の眼力に気圧されながら、回らない頭でどうにか理解する。
「ラナ……って、フェインのお母さん?」
「左様でございます。主の娘フェイン様は、主の元に居られます。私奴は、貴女様をお迎えにあがりました」
「お迎え……」
ジニアが生返事をすると、リュカスが地に伏せる。
『では、我の背に乗るがいい。居場所が分かったなら、喰隸湖にいる必要はない』
リュカスさんはラナさんの家を知っているらしい。何が何だかよく分からないけど、元々フェインを探すために来たんだから、行かないわけにはいかない。
人型になった蛇と一緒にリュカスの背に乗って、ラナの家を目指した。
「リュカスさん、ここは?」
『喰隸湖だ。
かつて大きな街があったが、洪水で流された。話せば長くなるが……、簡潔にいえば、美しい街だったのだが、ある日を境に治安の悪い街になり、餓死する者が増えた。空腹凌ぎに共喰いをする人間もいたものだ。だから、喰隸湖と呼ばれるようになった。
我も気に入る良き街だったのだがな……。
いや、今は感傷に浸っている場合ではなかったな。主はこの湖のどこかに居るだろう』
ジニアはあまりの過去に放心してしまっていた。
『ジニア?』
リュカスの呼びかけにジニアは我に返る。
「……ごめん。ちょっとびっくりしただけ。どうしてここにフェインが居るってわかるの?」
『住処から近いが、隠れる場所が豊富にあるからだ。所々に仕掛けも施してある。普通の人はこの湖に近づくことさえ容易ではないだろう』
「そうなんだ……ん?」
ジニアは湖を見ながら、リュカスの話を聞いていると、足元に違和感を感じた。足に絡みつく茶色の物体を見て反射的に動く。
「キャアアアアア!! 《アイル·クーペ》!」
アイル·クーペ:風属性初級攻撃魔法。風の鋭さを利用した自然の刃物である。カマのような刃で滅多斬りにできる。
ジニアの魔法により茶色の何かが離れたが、自分の足を傷つけてしまった。細かい傷ができ、血が出る。それには構わず、絡みついてきた何かを見る。蛇だった。
『危ないですねぇ……』
『お主が何も言わずに出てくるからだろう』
どこか飄々とした蛇に、リュカスが指摘する。ジニアはリュカスに知ってるの? とでも言いたげな目線を送る。しかし、答えたのは蛇の方だった。
『この御方、私奴も存じております。お久しゅうございますな』
「……私のこと、知ってるの?」
『おや? 私奴のことをご存知でないとは。1度、この場でご挨拶を申しましょう』
蛇は言いながら周囲に霞をかける。晴れたころには蛇の姿はなかった。
「こんにちは、我が主の友よ。私奴は、我が主ラナ様の従者にございます。お見知り置き下さい」
蛇だった者は、人型になり軽くお辞儀をした。蛇の鱗と同じ茶色く長い髪に、蛇特有の縦長の瞳孔、牙があった。
ジニアの思考はショート寸前だった。人型になる魔物の数は少ない上、人語を話せる者は少ないからだ。蛇特有の眼力に気圧されながら、回らない頭でどうにか理解する。
「ラナ……って、フェインのお母さん?」
「左様でございます。主の娘フェイン様は、主の元に居られます。私奴は、貴女様をお迎えにあがりました」
「お迎え……」
ジニアが生返事をすると、リュカスが地に伏せる。
『では、我の背に乗るがいい。居場所が分かったなら、喰隸湖にいる必要はない』
リュカスさんはラナさんの家を知っているらしい。何が何だかよく分からないけど、元々フェインを探すために来たんだから、行かないわけにはいかない。
人型になった蛇と一緒にリュカスの背に乗って、ラナの家を目指した。
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