学校閉鎖

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番外編―あかり

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「あかり」


母が部屋のドアを開けた。

「……何?」

「何、じゃないわよ」

この前のテストの答案用紙を、母が右手に握っている。

「……」

「ねえ、97点ってどういうこと」

「……ちょっと計算間違えたの」

「……………………まち、がえた?」

「…あ」

…まずい。………また、くる



「まち、まままままままちががっ、がががえたたたぁあァア?????どうして?どうして??どうして???私の…私の育て方が悪かったの?私、無理して塾通わせてあげてるわよね?お金かかるのに、高いのに!毎日入れてあげてるわよね?そ、それが、それがどうして「マチガエル」なんてことに繋がるの??分からない、分からない、分からない、分からない、分からない、分からないわよ、お母さん分からない!!!!!」

「…!まっ」
「どォしてなのよぉおおおおおおおおお!!!!」

父が飲み干した酒瓶で、おもいきり殴られる。

「…痛ッ―――」

「いたい?いたいってとこに、処理能力、使うくらいなら、勉強に使えよ!!!!」


「ッ、…!…ッ!」


…大丈夫。

いたい、痛がってるをしておけば、いつものように収まる。

たぶん、もう少し。

……もう少し。


「ああッッ!!!」

「……おい、うっせーぞこの野郎」


「…!」


…しまった。ここで父が帰ってくるのは計算外。


「仕方ないでしょ!!この子……また満点とれなかったのよ!!?塾、五個も通わせて、何十、何百とお金かけてるのに!!!」
「……は?おい、この前は二つっつってたろ」
「増やしたのよ。この子のためになるんなら、そのくらい安いものだったのに―――」

ガン!

「ふざけんなよッ!またかよ…!どんだけお前のヒステリーで迷惑かけてると…思ってんだッ!!」

ガンッガン、ドスッ!

父が母の腹を、蹴る。蹴る。蹴る。


「はぁっ、はぁっ。」

「……………おか、えりなさい」

「………はあ?」


ドスドスと父がこちらへ歩いてくる。

ああ……またるのか。


「おかえり、じゃねーわボケッ!ただただ金を捨ててるだけの、脳ミソの癖によぉ!!」

「ぐっ、ッ、ゲホッ!」

「ふーーーっ……!……あーっ、イラつくなァ、どいつもこいつも……!」


……行ったか。

うつ伏せになってぐったりと動かない母に詰め寄る。

「………大丈夫?

「………よ」

「何………」


「あん…が……かあさん……て…………よぶんじゃ……な…わよ…………!」


「……………ごめんなさい」







…私のせいなの?

二人が毎日喧嘩するのも。

塾に通わされてお金がなくなるのも。

父が酔っぱらってアルコール中毒になって、警察の厄介になったことも。



仲の良かった二人が、こんなになってしまったことも。





―――翌日



「……あ、ご飯…作らないとだわ」


毎週月、水、金は私が晩御飯を作らなくちゃならない。


(確か……お魚があったはず。時間間に合うかな)


小走りで家に帰り、鍵を開けドアを開ける。


「……?!」


開けるなり母が真っ赤になって立っていた。

「来なさいッ!!!」
「わっ!」

腕をすごい力で引かれ、家の中へ入る。

その勢いで放られ、廊下に転げ落ちた。

「アンタ……今日、教室で男と二人きりだったでしょ」

今日は今回落とした点数を、クラスでも頭のいい人に少し教えてもらっていた。

―――ものの、四、五分程度。

「二人きり……って言っても、勉強教えてもらってただけだよ」

バチン!!

「い」

右頬に強い衝撃が走る。

あまりに急だったから何が起きたのか、一瞬理解できなかった。


「口答えするんじゃないわよ!!!男なんかとうつつを抜かしてるからいつまでたっても頭が悪いままなんでしょ?!!あんな二人で、あなちかい距離で!!なにか遅いと思ったら…そういうことだったの!!!」







ぷつ。



私の頭で、何かが切れた音がした。


「…………んで……」

「…は??」


私は涙目で、母をきっと見つめた。


「なんではこっちのセリフよ!!私は…私は今まであなたの言う通りに頑張ってきた!行きたくもない塾にも毎日通って、ご飯を作って、勉強して、布団をたたんで、掃除をして、洗濯して!私は今まで精一杯やってたじゃない!!なんで…なんで全て否定するの?!」

「なに口答えするのよ!!私はあなたを思って―――」

「嘘ばっかり!!何が私を思って…?何が私のため……ッ!!もう、聞き飽きたよ!!父さんとの言い訳にばっかり使って、私の成績とかばっかり見て……!あなたは、あなたは私を…道具とかとしてじゃなくて、ちゃんと見てくれたことがあるの!?」


…………言った。

言った。


…言っちゃった。


「はあっ、はぁっ、はぁっ……!」

「………あ、もうダメだわ。」

「……?」


母はそう言うとふらふらと台所に行った。

刃物のすれる音がした。


「大丈夫。私が軌道修正してあげるからね。あなたは…私の言う通りにしていればいいのよ。ぜーんぶ大丈夫だから。」




そういうと、母は左手にぶら下げていた包丁を振り上げ、私めがけて走ってきた。


「ねっ、あかりぃいいいいいいいいいいいいい!!!!!」
「!!」


とっさに振り向いて、家を飛び出して逃げようとした……その時。


ドンッ!
「あっ!」
「ッて」


「……ってェな」


「…あ、に、逃げて……!」

「…あ?」


「待ちなさぁいいいッ!!」

父が中へ、怒鳴りながら入っていった。

「うっせーんだよ!!いい加減黙んねぇとぶっ殺―――」



ぶすっ





「………………え」

「……あ」





父の姿が、ぐらりと揺らぐ。


「がッ…………!!」

「……………」


私は思わず腰をついた。


母の手に握られた包丁には、新鮮な赤黒い液体が滴っている。



「おまっ……!何してんのか…わかってんのか………!脳ミソ、空っぽ女が……ッ!」

「…うるさいわねぇ!!」

ドスッ!

「ぐぁっ!」

「あなた、あかりのために何をしてあげたの!私は…ずっとずっと、あの子のために尽くしてきたって言うのに!」

ドスッ!

「ッ!」

「それを、支えずに!」

「お、い」

グシャッ!

「いつもいつも!!」

「…ま…」

グチャッ!

「っ」



「はぁーっ、はぁっ、はぁーっ………」


…………こんなときも?



「……あら、あかり。そこにいたのね………」



こんなときもまだ、私を道具として使うの。






「うぁああああああああああああああッ!!」





水筒で、思いっきりあの人顔をぶん殴った。


ガインっ


「痛ッ!」


血だまりの水溜まりに母が飛び込む。

パシャッと音を立てて、飛び散った。


―――その衝動で、母が包丁を手放した。


「…痛いじゃない!何する――――」


もはや「持とう」とかじゃなくて、反射的にやっていた。


ドスッ!!


「うわぁっ、わぁああっ、うわぁああああッ!!」


ドスッドチュッグジャッ


「いっ、ぁっ、ヴぇっ」


「うっ、…うぁ…ッ……!!」



「…ぁ、が……り…」


グヂャッ!!!



……ガンっ。



「ハッ、ハッ…ハァッ、……!」


今私の前には、「母だったモノ」と「父だったモノ」が転がっている。




「はぁっ、はぁっ」



『おっ、この家なんていいんじゃないか?』



「はぁっ、はあっーー」



『あら、いいじゃない!家賃も丁度良いわね。ここにしましょうか!』




「……はぁっ」




『ここ?ここにすむの?』




「……ふっ」





『おお。そうだ!ここが俺達の、新しい家になるんだぞ』

『楽しみね!』

『うん!……ねえ、むこうついたら…ゆうえんちいきたい』

『…遊園地?……うーん…。それはちょっと―――』

『うん、いいな!行こうか』

『わーい!やったあ!』

『ちょっと、あなた!?……引っ越しもするし、お金なんて無いわよ…!』

『その分は、俺が働いて頑張るよ。家族の笑顔は、お金じゃ買えないだろ』

『…あら。良いこと言うじゃない!……確かに、そうね。ずっとあかりには、構ってあげられなかったし……。久しぶりに、行きましょうか!』

『ゆうえんち、たのしみー!』








「………たの、しみ……だった、ひっ……のにな。」



『おかえり!』




「………うっ、うぁっ……」






大きなことは望んでない。

ただ、家族で笑って過ごせることを願っただけ。



…それってそんな強欲なの?







「うわぁああぁああああッ、ひっ、ぐっ、ぅうッ、ぅ……!ふっ…!ぅぁっ、うぁあああああああああああッ…!!」











ねえ、





もう一度、私の名前呼んでよ。


おかえりって言ってよ。
ただいまって言ってよ。



ねえ、ねえ。























…………………………さようなら。大好きだよ。









学校閉鎖ー完ー
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