21 / 25
第21話 術後3か月 ~鼻をつまんでみる~
しおりを挟む
手術を終えてから、気づけば3か月。
退院後は「鼻は神殿、触るべからず」と自分に言い聞かせ、洗浄と保湿に徹する日々でした。
しかし、人間とは弱い生き物。
「押すな」と書いてあるボタンを押したくなるし、「食べるな」と言われたプリンは余計に輝いて見える。
同じ理屈で、「触るな」と言われた鼻は……どうしても触りたくなる。
ある夜、洗面台の前で顔を洗っていたとき、不意にその衝動が襲ってきました。
「もう3か月経ったし、大丈夫じゃない?」
「医者だって、“3か月で大体落ち着く”って言ってたような気もするし」
(※実際には“個人差あり”の注釈がついていた気がするが、都合の悪い部分は人間の脳が消去してくれるものです)
そして私は、運命のスイッチを押してしまいました。
鼻を、むぎゅっ!
さらに、グリグリっと。
――あれ?
全然痛くない。
むしろ「もう完治じゃん!」と小躍りしたくなるほどの無反応。
「俺の鼻、完全復活!」
心の中でサッカー選手ばりにユニフォームを脱ぎかけました(※実際には脱いでません)。
……が、翌日。
目覚めた瞬間から違和感が襲来。
鼻のてっぺんから人中にかけて、何か重りをぶら下げられたような鈍い痛み。
まるで誰かが寝ている間に、私の顔を鉄板焼きにして遊んだんじゃないかと思うほど。
鏡を覗き込むと、微妙に腫れぼったい。
「え、昨日の俺、なにやったっけ?」と一瞬記憶を疑うが、すぐに“グリグリ事件”を思い出す。
ああ、バカだ。
バカすぎる。
主治医が「鼻の中は細かい神経が多く、とてもデリケートなんです」と言っていたのを完全にスルーしていた。
内部ではまだ回復工事の真っ最中だったのに、そこへいきなり素人が土足で入り込んだら、そりゃあ職人さんたち(=神経や血管)が怒るに決まってる。
頭の中に、鼻内部の“建設現場”が浮かんだ。
足場を組んだ作業員たちが、昨日の私の指グリグリを「地震か!?」と勘違いして、現場監督が「まだ塗装乾いてないぞコラー!」と叫んでいるイメージ。
そりゃあ違和感も出るわけです。
しかもこの違和感、1日や2日じゃ治らない。
1週間ほど続きました。
笑うとズキッ、食べてもズキッ、くしゃみなんてした日には“地獄のファンファーレ”。
鼻って普段は存在感ゼロなのに、調子を崩した瞬間に「俺ここにいるから!」と全力で主張してきます。
家族に話すと、呆れた顔で「だから触るなって言われたでしょ」と一蹴。
友人に話すと「3か月で調子に乗るのは早いよ」と笑われ、さらに「そのうち“鼻禁止マーク”のステッカーを貼ったほうがいいんじゃない?」とまで言われる始末。
結局、私は改めて誓いました。
「鼻には触れない。触らない。何があっても」
……とはいえ、人間の性(さが)。
触るなと言われれば触りたい。
鏡の前に立つたびに、再びグリグリしたくなる誘惑がよみがえるのです。
「俺って学習能力ゼロなのか?」
そう自分にツッコミを入れながら、今日も鼻にはそっと呼吸だけを任せるのでした。
(完治までの道は、まだまだ長い……)
退院後は「鼻は神殿、触るべからず」と自分に言い聞かせ、洗浄と保湿に徹する日々でした。
しかし、人間とは弱い生き物。
「押すな」と書いてあるボタンを押したくなるし、「食べるな」と言われたプリンは余計に輝いて見える。
同じ理屈で、「触るな」と言われた鼻は……どうしても触りたくなる。
ある夜、洗面台の前で顔を洗っていたとき、不意にその衝動が襲ってきました。
「もう3か月経ったし、大丈夫じゃない?」
「医者だって、“3か月で大体落ち着く”って言ってたような気もするし」
(※実際には“個人差あり”の注釈がついていた気がするが、都合の悪い部分は人間の脳が消去してくれるものです)
そして私は、運命のスイッチを押してしまいました。
鼻を、むぎゅっ!
さらに、グリグリっと。
――あれ?
全然痛くない。
むしろ「もう完治じゃん!」と小躍りしたくなるほどの無反応。
「俺の鼻、完全復活!」
心の中でサッカー選手ばりにユニフォームを脱ぎかけました(※実際には脱いでません)。
……が、翌日。
目覚めた瞬間から違和感が襲来。
鼻のてっぺんから人中にかけて、何か重りをぶら下げられたような鈍い痛み。
まるで誰かが寝ている間に、私の顔を鉄板焼きにして遊んだんじゃないかと思うほど。
鏡を覗き込むと、微妙に腫れぼったい。
「え、昨日の俺、なにやったっけ?」と一瞬記憶を疑うが、すぐに“グリグリ事件”を思い出す。
ああ、バカだ。
バカすぎる。
主治医が「鼻の中は細かい神経が多く、とてもデリケートなんです」と言っていたのを完全にスルーしていた。
内部ではまだ回復工事の真っ最中だったのに、そこへいきなり素人が土足で入り込んだら、そりゃあ職人さんたち(=神経や血管)が怒るに決まってる。
頭の中に、鼻内部の“建設現場”が浮かんだ。
足場を組んだ作業員たちが、昨日の私の指グリグリを「地震か!?」と勘違いして、現場監督が「まだ塗装乾いてないぞコラー!」と叫んでいるイメージ。
そりゃあ違和感も出るわけです。
しかもこの違和感、1日や2日じゃ治らない。
1週間ほど続きました。
笑うとズキッ、食べてもズキッ、くしゃみなんてした日には“地獄のファンファーレ”。
鼻って普段は存在感ゼロなのに、調子を崩した瞬間に「俺ここにいるから!」と全力で主張してきます。
家族に話すと、呆れた顔で「だから触るなって言われたでしょ」と一蹴。
友人に話すと「3か月で調子に乗るのは早いよ」と笑われ、さらに「そのうち“鼻禁止マーク”のステッカーを貼ったほうがいいんじゃない?」とまで言われる始末。
結局、私は改めて誓いました。
「鼻には触れない。触らない。何があっても」
……とはいえ、人間の性(さが)。
触るなと言われれば触りたい。
鏡の前に立つたびに、再びグリグリしたくなる誘惑がよみがえるのです。
「俺って学習能力ゼロなのか?」
そう自分にツッコミを入れながら、今日も鼻にはそっと呼吸だけを任せるのでした。
(完治までの道は、まだまだ長い……)
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?
九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。
で、パンツを持っていくのを忘れる。
というのはよくある笑い話。
どうしてそこにトリックアートを設置したんですか?
鞠目
ホラー
N県の某ショッピングモールには、エントランスホールやエレベーター付近など、色んなところにトリックアートが設置されている。
先日、そのトリックアートについて設置場所がおかしいものがあると聞いた私は、わかる範囲で調べてみることにした。
痩せたがりの姫言(ひめごと)
エフ=宝泉薫
青春
ヒロインは痩せ姫。
姫自身、あるいは周囲の人たちが密かな本音をつぶやきます。
だから「姫言」と書いてひめごと。
別サイト(カクヨム)で書いている「隠し部屋のシルフィーたち」もテイストが似ているので、混ぜることにしました。
語り手も、語られる対象も、作品ごとに異なります。
Web小説のあれやこれ
水無月礼人
エッセイ・ノンフィクション
沢山の小説投稿サイトが存在しますが、作品をバズらせるには自分と相性が良いサイトへ投稿する必要が有ります。
筆者目線ではありますが、いくつかのサイトで活動して感じた良い所・悪い所をまとめてみました。サイト選びの参考になることができたら幸いです。
※【エブリスタ】でも公開しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
24hポイントが0だった作品を削除し再投稿したらHOTランキング3位以内に入った話
アミ100
エッセイ・ノンフィクション
私の作品「乙女ゲームのヒロインに転生、科学を駆使して剣と魔法の世界を生きる」がHOTランキング入り(最高で2位)しました、ありがとうございますm(_ _)m
この作品は2年ほど前に投稿したものを1度削除し、色々投稿の仕方を見直して再投稿したものです。
そこで、前回と投稿の仕方をどう変えたらどの程度変わったのかを記録しておこうと思います。
「投稿時、作品内容以外でどこに気を配るべきなのか」の参考になればと思いますm(_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる