曲がった鼻と真っすぐな日々 ― 鼻中隔湾曲症手術記

Akkami

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第21話 術後3か月 ~鼻をつまんでみる~

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手術を終えてから、気づけば3か月。
退院後は「鼻は神殿、触るべからず」と自分に言い聞かせ、洗浄と保湿に徹する日々でした。

しかし、人間とは弱い生き物。
「押すな」と書いてあるボタンを押したくなるし、「食べるな」と言われたプリンは余計に輝いて見える。
同じ理屈で、「触るな」と言われた鼻は……どうしても触りたくなる。

ある夜、洗面台の前で顔を洗っていたとき、不意にその衝動が襲ってきました。
「もう3か月経ったし、大丈夫じゃない?」
「医者だって、“3か月で大体落ち着く”って言ってたような気もするし」
(※実際には“個人差あり”の注釈がついていた気がするが、都合の悪い部分は人間の脳が消去してくれるものです)

そして私は、運命のスイッチを押してしまいました。

鼻を、むぎゅっ!
さらに、グリグリっと。

――あれ?
全然痛くない。
むしろ「もう完治じゃん!」と小躍りしたくなるほどの無反応。

「俺の鼻、完全復活!」
心の中でサッカー選手ばりにユニフォームを脱ぎかけました(※実際には脱いでません)。

……が、翌日。

目覚めた瞬間から違和感が襲来。
鼻のてっぺんから人中にかけて、何か重りをぶら下げられたような鈍い痛み。
まるで誰かが寝ている間に、私の顔を鉄板焼きにして遊んだんじゃないかと思うほど。

鏡を覗き込むと、微妙に腫れぼったい。
「え、昨日の俺、なにやったっけ?」と一瞬記憶を疑うが、すぐに“グリグリ事件”を思い出す。

ああ、バカだ。
バカすぎる。

主治医が「鼻の中は細かい神経が多く、とてもデリケートなんです」と言っていたのを完全にスルーしていた。
内部ではまだ回復工事の真っ最中だったのに、そこへいきなり素人が土足で入り込んだら、そりゃあ職人さんたち(=神経や血管)が怒るに決まってる。

頭の中に、鼻内部の“建設現場”が浮かんだ。
足場を組んだ作業員たちが、昨日の私の指グリグリを「地震か!?」と勘違いして、現場監督が「まだ塗装乾いてないぞコラー!」と叫んでいるイメージ。
そりゃあ違和感も出るわけです。

しかもこの違和感、1日や2日じゃ治らない。
1週間ほど続きました。
笑うとズキッ、食べてもズキッ、くしゃみなんてした日には“地獄のファンファーレ”。
鼻って普段は存在感ゼロなのに、調子を崩した瞬間に「俺ここにいるから!」と全力で主張してきます。

家族に話すと、呆れた顔で「だから触るなって言われたでしょ」と一蹴。
友人に話すと「3か月で調子に乗るのは早いよ」と笑われ、さらに「そのうち“鼻禁止マーク”のステッカーを貼ったほうがいいんじゃない?」とまで言われる始末。

結局、私は改めて誓いました。
「鼻には触れない。触らない。何があっても」

……とはいえ、人間の性(さが)。
触るなと言われれば触りたい。
鏡の前に立つたびに、再びグリグリしたくなる誘惑がよみがえるのです。

「俺って学習能力ゼロなのか?」
そう自分にツッコミを入れながら、今日も鼻にはそっと呼吸だけを任せるのでした。

(完治までの道は、まだまだ長い……)
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