狂ッタ児戯

軍艦あびす

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第一話

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古き良き日本家屋が並ぶ中、都市開発が一方的に広がる街『幽美ヶ丘』に転校してきた僕は、前までの生活を忘れ楽しい楽しい陽キャライフを送れるように黒板の前で明るく、自分の出せる最大の声で名乗った。
「黒月 周です!よろしくお願いします!」
 クロツキ アマネ(14)転校前の学校で迷惑しか生み出さない帰宅部共から数多のいじめを受け、居場所を失ったところに奇跡的に現れた父の転勤と言う名の恵みを受け転校して来たのであった。
 担任教師が生徒達に、僕への質問的な話をしていた。
 後ろの方に座る男子生徒の挙手。
「彼女はいますかー?」
「いません‼︎」
 即答した。当たり前だろう。約四十人全員敵の空間だったんだぞ。その中で生きて来たんだぞ居るわけないだろうが…。
 教師に言われるがまま一番後ろの右端に座る事になった僕は、このクラスが楽しみで仕方無かった。
 でも、この時はあんな事に巻き込まれるなんて思ってもいなかった。
 
 転校してから一週間が経ったある日。
 教室にもだいぶ慣れてきて、僕の机に集まる人は少なくなっていった。でも、話しかけられる事もあるし嫌われている訳もないだろう。
 隣に座る『森山』という人物は、僕に一番最初に話しかけてくれた人物だ。
 街のことや名物など話は毎日変わるが、今日は特殊だった。
「知ってるか?黒月、この街にはな、沢山の化け物が色々な所に住み着いてるんだとよ。まぁ俺はそんな噂信じてないけど…」
 化け物と呼ばれたものには全く触れなかった彼は、ゲームでレアキャラを当てたという話へ切り替えてしまった。
 
 その日の下校時刻。
 まだ部活動に入っていない僕とハナから入る気のない森山は共に我が家へと歩調を早めていた。
「あのキャラは装備が無いと何も出来ないからなー、かといって装備ガチャは星二のちくわソードばっかり出るし…」
 ゲームの話で盛り上がりながら帰る二人は、夕焼けの空を眺めていた。
 森山は、何か思いついた様にこちらを見つめた。
 そして指を山に向かって差すと、呟いた。
「あそこが昨日言った観光名所の神社だ。寄っていこーぜ。」
 僕達二人は神社に入った。
 無論平日のこんな時間に人は居ない。それどころか神主や巫女の姿もない。
 おかしいな、いつも居るんだけど。と、呟いた森山は、賽銭箱に駆け寄った。
 賽銭箱に、お札の様なものが貼ってあった。
 なんの躊躇もなくお札を剥がそうとする森山に僕は苦笑いで零した。
「おい…やめろよ、流石にやべぇって…」
 森山は笑いながらでこちらを見て、返事を返した。
「何が不味いんだよ、まさかお前、あの噂信じてんのか?あんなもんある訳ねぇだろ。」
 彼は、賽銭箱を叩いて見せた。しかし、鳴った音には違和感があった。
 
 ぷにっ…ぷにっ…ぬちゃり…
 
 森山が賽銭箱の方を見ると、ドス黒い歪な顔の様なモノが浮いていた。
 謎の粘液を身に纏った化け物。
 化け物。そう言わずしてなんと呼ぶのか。
 化け物は大きな口を開いて言葉の様な音を発した。
「ニラ…メ…っこ…しま…ショ……」
 にらめっこ。お互いが見つめ合い、変な顔をして笑ってしまった方が負ける遊び。 
「うわぁぁぁぁぁぁッ‼︎」
 僕と森山は必死で逃げた。
 しかし、神社の鳥居には結界の様なものが張られ、外に出る事は出来なかった。
「にぃらめぇっこしぃましょぉ…わぁらうとぉ……」
 化け物は二人に向けて大きな口の中の粘液で輝く鋭い歯を見せ、口を動かし喉を震わせた。
 この化け物に喉は無いんだが。
「まぁけぇよぉ…あぁっぷぅぷぅぅぅ……!」
 すると、いきなり森山は笑い始めた。
「何⁉︎何が面白いの森山ァ‼︎笑うなって…言われてる最中でしょうが………」
 一向に止まることのない大爆笑。
 彼の口はどんどん大きくなっていき、唇の避ける音、千切れそうな痛々しい舌、口周りから血を吹き出す亀裂…
 最終的に森山は口を中心に顔の皮膚という皮膚が剥がれ落ち、剥き出しになった筋肉から左目だけがごろん…と、鈍い音を立てて地面に「森山だったもの」と共に転げ落ちた。
 そして、神社の階段に大量の皮膚のカケラと血溜まりを創り出した化け物は、人間の残骸を貪り食らっていた。
 骨の砕ける音が聞こえた瞬間に察した。
 僕もここで死ぬんだろう。
 …いや、駄目だ。逃げなければ。
 僕は神社の草むらを駆けようとした時、地面に落ちた一枚のお札を見つけた。
 まさかと思い、お札を賽銭箱に貼り付けてみると、血肉を貪る化け物は跡形もなく姿を消し、結界は解かれ普段の幽美ヶ丘に戻っていた。
 それでも、森山の死体だった肉片はそこに残っていた。
 僕は、この街の異常さに恐怖を感じたのだった。

 心臓を落ち着かせる為、十五分程神社の階段に座り込んでいた。
 すると、鳥居の下に影が見えた。
 現れたのは、同じクラスだったと思う名前思い出せない奴だった。なんか複雑な名前だった様な気がする。
「遅かったか…ん?君は…」
 僕は名前が分からない相手に歩み寄られるが、先ほどの件で少し恐怖を覚えてるようになつていた。
「無理もないか、あんな化け物に出会って目の前で人が死んだんだもんな。僕は言御霊 咲夜。同じクラスでしょ。覚えてる?」
 僕はコトミタマという名に記憶があるが、顔が一致しない人間だったので分からなかったのだ。
「あの化け物は『児戯』と呼ばれるもの。子供達に遊ばれなくなった遊びの呪いが具現化した姿だな。」
 化け物の説明をはじめた言御霊は、神社に歩みを寄せて賽銭箱の前に立った。
「ちょ、言御霊君何してるの?」
 僕は怯えながら彼に問う。
「何って、森山を殺した児戯を清めてやるんだよ。」
 彼はそう言ってお札に手を掛け、べりっと音を立てて剥がしてしまった。
 …と同時に、神社は結界に包まれ賽銭箱の上には、森山を貪っていた顔だけの化け物がいた。
「うわぁぁぁぁぁぁ予想はしてたけどまた出たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ‼︎ねぇなんで今剥がすの俺逃してからでも良かったんじゃないの⁉︎ねぇ‼︎」
 必死に叫ぶ僕にコトミタマ サクヤは笑顔で語りかけた。
「児戯に会ったんだから君はもう関係者なんだよ。そんな君に拒否権は無いんだよ。(ニコッ)」
「悪魔かお前はぁぁぁぁぁっ‼︎」
 僕の叫び声なんて外には聴こえていないだろう。それでもツッコミを入れてしまった。
 いや、単なる意見か。
「にぃらめぇっこしぃましょぉぉぉぉ…」
 また、あの禍々しい声が響いた。児戯の前に立つ言御霊は、一枚のお札を取り出し、なんか訳の分からない呪文みたいなのを唱え始めた。
 「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前…」
 あっ…これガチのやつだ。
 確か陰陽道で退魔に使うやつ…なんだったっけな…えーと、九字?あ、それだそれだ。
 言御霊を中心に巻き起こる強風に煽られて尚、にらめっこを連呼する児戯。
 しかし、急に手を止めた言御霊は、表情を変えて呟いた。
「……あ、やべこれ防御の九字だわ。」
 言御霊ぁぁぁぁぁっ‼︎何やってんだお前ぇぇぇ‼︎
 にらめっこの児戯が長い舌を伸ばし、唾液を垂らしながら言御霊に巻きつこうとする。
 が、言御霊は何故か持ち合わせた日本刀で舌を切り、アクロバッティングな動きで児戯と距離を置いた。
 へぇー、児戯って物理攻撃効くんだー…なら何故その刀で切り刻まねぇんだよお前。長々と術式唱えてんじゃねぇよ。
「朱雀・玄武・白虎・勾陣・帝久・文王・三台・玉女・青龍…」
 今度こそは攻撃の九字だろう。しかし、物理攻撃が効くならそうしろよと、とてつもなくツッコミたい衝動に駆られた。
 そんな事を考えている間に、言御霊は決め台詞みたいなのを口にした。
「我が潔を受け言霊となりて貴様の悪業を祟るが良い!悔やみ、泣き、己が児戯に生まれた事を呪え!急急如律令!」
 あっ…こいつヤベェ奴じゃん。
 本物の術式とかはかっこよかったよ。でも最後の一夜漬けで考えてそうな厨二臭い決め台詞はイタ過ぎるわ。
 いや、まじで。
 急急如律令だけでいいだろ絶対。
 結界は解け、いつも通りの日常になっていた。
 それでも、その場に転がる森山の死体は変わらなかった。
「触らない方が良いぞ。警察が指紋で特定して家まで来るからな。『児戯がやりましたー』なんて信用してくれる訳無いんだから。」
 僕は言御霊に言葉を投げかけた。
「コトミタマ君は…何者?」
「僕は超超超有名陰陽師の安倍晴明………とは全く血筋の繋がっていないただの陰陽師だよ。」
 繋がってないのかよ。なんで言ったんだよ。
「明日詳しく話を聞かせてもらうからな。取り敢えず今日は家まで送ってくよ。」
「家の場所把握したいだけだろ…」
 僕と言御霊は、神社を後にして黒月家へ向かった。

「じゃあな。また明日…なんかあったら連絡しろよ?」
「はいはい分かったよ。じゃあねコトミタマ君。」
 家に到着して僕らは連絡先の交換をした後、僕は言御霊を追い返すように返事をして家に入った。リビングルームに入ると、いつも『お帰り』と優しい言葉をかけてくれる両親は居なかった。
 いや、正確に言えば居たのだが。
 
 二人共息を引き取っていた。
 森山と同じように体を貪られ、大量の赤い液体が水溜りを作っていた。
 どちらも体が引き裂かれ、内臓が見えていた。
 肝臓、腎臓、心臓など五臓はあるのに、六腑に含まれるものが何一つ入っていなかった。
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