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第1話
しおりを挟むこの年、僕は恋をした。
同じ学年で名前は知れ渡っていたものの関わる事は無かったので、向こう側は僕の事を知らないであろう事は確かだった。
そんか彼女と同じクラスになれた今年、僕はどうにかして彼女との距離を近づけられないかと考えていた。
彼女の名は、桜 御影。僕と正反対の性格を持つ、クラスでの代表のような人だ。
そして正反対の僕、八雲 日向は今日もまた本を開き、横目に桜さんを見ながら影の方に座っていた。
ただ、この身体でさえなければそこまで悩む事は無かったのだろう。それは産まれた時より持ち合わせた呪いの様な…
『僕は男だ。』そう言いたい、叫びたい。
誰が聞き入れてくれるだろうか。こうして女性へと成ってゆく自分の身体に嫌気がどれだけ刺そうと、今こうしてセーラー服を身に纏っている事実に逆らえない。
まだ、身内にさえカミングアウトしていないのだが、僕が彼女に告白するならば必然的にその言葉が必要になるだろう。
しかし身内にさえ——だが、一人だけ、僕の秘密を知っている者もいる。
放課後、まだ春の風が吹いている季節に公園のブランコへ座り込む二人の影があった。
「ねぇ…僕の性別のこと…そろそろ言ったほうがいいのかな?」
昔からの友人である月見 斗真を、相談という形で呼び出したのだった。彼だけが本当の僕を知っている。
斗真は普段ふざけてはいるものの、こういう時だけは真面目になってくれる人だった。
「…別にさ、自分のタイミングで言えばいいじゃねーか。歳とか時間とか関係ねーよ。別に俺に教えたこと後悔してるわけでもないんだろ?」
先程購入したココアミルクの缶を少し強めに握りながら、僕は答えた。
「後悔なんて、してるわけないだろ…相談出来るのが斗真で本当に良かったって思ってるよ………」
少しの沈黙の後、斗真は頷いて脱力し始めた。
「…しっかし…なぁ…性同一性…」
「やめて。」
瞬時に脳が出した判断だった。その名前を聞くだけで嫌気が差すどころの話ではなかった。
「わ…悪い…」
「あ…いや、ごめん……」
再び訪れた沈黙の後、斗真は立ち上がり側に置いていたリュックサックを背負ってこちらを向いた。
「別に何も悩まなくたっていいんだよ。桜さんも受け入れてくれると思うぞ?」
一瞬思考が正常な判断をしてくれなかった。
「………え⁉︎」
「隠してるつもりだったのか?結構バレバレだったぞ?」
「や…違うそういうんじゃなくて……いや違わないけど…ぁぁぁ…」
斗真は手を振り、足早に去っていった。
三十分程固まっていたらしく、辺りは既に暗くなっていた。
もう少しで夏休みに入ってしまう。そうすれば少しは気が紛れるかも知れないと期待をしていた。
何度も拒んだこのセーラー服にも少しは慣れつつあった。そんな事もふとした瞬間気づくと、余計な嫌気が差す。
今日も立てた本の隙間から横を覗く日々。彼女は本当に完璧な容姿だと思う。
「そういう事してっからバレるんだよ…」
「ッわ‼︎」
音もなく現れたのは斗真だった。
「別に見んなとは言わねーけどさ…」
「なっ…なに……?」
「確かに分かるよ桜さん才色兼備の優等生で惚れない男は居ないと言われるのも分かるけど…なぁ?」
「これでも学校では女として生活してるんですけど…」
別に隠しておく意味も無いと思うが、あまり人と関わらない僕が誰に何を言うのだと自分で突っ込んでしまい完結した。
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