3 / 30
第3話
しおりを挟む
「あ…あの……桜さん?」
少し不安になりつつも、冷静を装い応答を求めた。
「…い、いや、今のは忘れて?それで………日向ちゃんが私の事……そういう…」
桜さんは言葉に詰まっていた。それはそうだろう。急に同性のクラスメイトに告白なんてされたのだから。
しかし返ってきた言葉は、これまた単純なものだった。
桜さんの俯いた表情に、先ほど目の中に増えていった光が元に戻る様子が感じて取れた。
「その…それじゃあ……よろしく…ね…?」
この言葉は誰の言葉よりも日向の記憶に残ることになる。
悩みに悩んだ末にこの答えを出して良かったと、今こうして思えている。
「そ…それじゃあ………!」
笑顔を取り戻せただろうか。今ならあらゆる過去の自分に勝るレベルの喜びが感じられる。特に喜ばしい様なことはここ数年起きていないが。
いつも通りベッドに寝そべり夢と現実の間を彷徨っていた。また気がつくと眠り、目が覚めると10分ほど時間が進んでいる。こんな事を繰り返していた23時ごろ、ご満悦でスマートフォンを見ると『ミカゲ』と書かれた連絡先が表示されていた。
今日、長きに渡り…と言っても数ヶ月だが、その苦難が全て打ち砕かれハッピーエンドにたどり着いてしまった。
いや、終わってなどいない。寧ろこれから始まる様なものだ。これからはしたい事が沢山ある。
まず依然として桜さんを下の名前で呼べる様になる事。
これはそのうち達成出来るだろう。これはこちらの意識の問題だという事は分かっていた。
ただ、一つ気になる事がある。
桜さんは僕の事を『彼女』と呼んだ。最初に男だという事は伝えたのだが、あのタイミングを聞き逃すなんてあり得ないと信じたい。少し不安になりつつも考えない様にして今日は眠りについた。
「……お姉ちゃ~ん。朝だよ~‼︎」
まだ睡眠時間を欲する身体に備え付けられた五感のうち聴覚が妹の声を感知した。
「うぅ…まってすぐ起きるから…多分……」
「多分って何⁉︎早く起きてよお味噌汁冷めちゃうでしょ⁉︎」
平日の朝から味噌汁なんて作ってくれていたのかと少し申し訳なく感じ、まだ眠たいながらにベッドを後にした。
いつも通りの朝ごはんを食べ終えた後、昨日の出来事を不意に思い出し急に顔が火照り出した。
「……いや、桜さん分かってくれてたし何も心配しないで大丈夫だよね…」
寝巻きを脱ぎ、畳の上に放り投げた後いつもと同じように変わっていく自分の身体に呆れながら気怠げにセーラー服を手に取った。
入学してから制服に強制されるスカートはかなり苦手だった。動きづらい上に何かと事故が起きやすい。それが何とは言わないが。
やはり心は男と言えど多少羞恥心というものはあるにはある。
それこそ体育の授業を受ける前に更衣が必要だ。そんな中一人心拍数を上げながら素早く着替え足早に去るいつもの姿は周りから見たら『少しおかしい』と言われても反論は出来なかった。
なんて考えていると、ランドセルを背負った妹が部屋の前を横切った。
「行ってきま…お姉ちゃんいつまで裸なの⁉︎早く服来てよ‼︎」
相談に乗ると言ってくれた頃の妹は少しらしくなかった。今こうして大声で指摘してくれてこそ、普段の彼女だと少し安心して無い胸を撫で下ろした。
「分かった分かった、今着るから……」
素早く袖を通して首を出し、いつも通りの姿に戻った。この部屋にもそろそろ鏡を置くべきだろうかなんて考えながら、洗面所へ向かった。
「いやお姉ちゃんスカート履いてないよ‼︎」
指摘を受け、少し眠気が残っているのかと疑った。
その後スカートを履き、身嗜みを整え、自宅の鍵を閉め学校へ向かった。
少し不安になりつつも、冷静を装い応答を求めた。
「…い、いや、今のは忘れて?それで………日向ちゃんが私の事……そういう…」
桜さんは言葉に詰まっていた。それはそうだろう。急に同性のクラスメイトに告白なんてされたのだから。
しかし返ってきた言葉は、これまた単純なものだった。
桜さんの俯いた表情に、先ほど目の中に増えていった光が元に戻る様子が感じて取れた。
「その…それじゃあ……よろしく…ね…?」
この言葉は誰の言葉よりも日向の記憶に残ることになる。
悩みに悩んだ末にこの答えを出して良かったと、今こうして思えている。
「そ…それじゃあ………!」
笑顔を取り戻せただろうか。今ならあらゆる過去の自分に勝るレベルの喜びが感じられる。特に喜ばしい様なことはここ数年起きていないが。
いつも通りベッドに寝そべり夢と現実の間を彷徨っていた。また気がつくと眠り、目が覚めると10分ほど時間が進んでいる。こんな事を繰り返していた23時ごろ、ご満悦でスマートフォンを見ると『ミカゲ』と書かれた連絡先が表示されていた。
今日、長きに渡り…と言っても数ヶ月だが、その苦難が全て打ち砕かれハッピーエンドにたどり着いてしまった。
いや、終わってなどいない。寧ろこれから始まる様なものだ。これからはしたい事が沢山ある。
まず依然として桜さんを下の名前で呼べる様になる事。
これはそのうち達成出来るだろう。これはこちらの意識の問題だという事は分かっていた。
ただ、一つ気になる事がある。
桜さんは僕の事を『彼女』と呼んだ。最初に男だという事は伝えたのだが、あのタイミングを聞き逃すなんてあり得ないと信じたい。少し不安になりつつも考えない様にして今日は眠りについた。
「……お姉ちゃ~ん。朝だよ~‼︎」
まだ睡眠時間を欲する身体に備え付けられた五感のうち聴覚が妹の声を感知した。
「うぅ…まってすぐ起きるから…多分……」
「多分って何⁉︎早く起きてよお味噌汁冷めちゃうでしょ⁉︎」
平日の朝から味噌汁なんて作ってくれていたのかと少し申し訳なく感じ、まだ眠たいながらにベッドを後にした。
いつも通りの朝ごはんを食べ終えた後、昨日の出来事を不意に思い出し急に顔が火照り出した。
「……いや、桜さん分かってくれてたし何も心配しないで大丈夫だよね…」
寝巻きを脱ぎ、畳の上に放り投げた後いつもと同じように変わっていく自分の身体に呆れながら気怠げにセーラー服を手に取った。
入学してから制服に強制されるスカートはかなり苦手だった。動きづらい上に何かと事故が起きやすい。それが何とは言わないが。
やはり心は男と言えど多少羞恥心というものはあるにはある。
それこそ体育の授業を受ける前に更衣が必要だ。そんな中一人心拍数を上げながら素早く着替え足早に去るいつもの姿は周りから見たら『少しおかしい』と言われても反論は出来なかった。
なんて考えていると、ランドセルを背負った妹が部屋の前を横切った。
「行ってきま…お姉ちゃんいつまで裸なの⁉︎早く服来てよ‼︎」
相談に乗ると言ってくれた頃の妹は少しらしくなかった。今こうして大声で指摘してくれてこそ、普段の彼女だと少し安心して無い胸を撫で下ろした。
「分かった分かった、今着るから……」
素早く袖を通して首を出し、いつも通りの姿に戻った。この部屋にもそろそろ鏡を置くべきだろうかなんて考えながら、洗面所へ向かった。
「いやお姉ちゃんスカート履いてないよ‼︎」
指摘を受け、少し眠気が残っているのかと疑った。
その後スカートを履き、身嗜みを整え、自宅の鍵を閉め学校へ向かった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
9
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる