君は僕を認めてくれない

軍艦あびす

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第6話

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 そんな僕を射殺さんばかりの眼差しは、依然として言葉を纏いながら飛来していた。自分のメンタルの弱さはずっと悩み続けていた一つであり、他に自分の真実を伝えられない要因でもある。この理不尽に言い返す言葉なら幾らでもあるだろう。しかしその言葉に対する相手の反応が怖くて、唇を動かすことが出来ないという現状である。
 逃げたい、逃げたいと考えるばかりで精一杯の脳は、ひと時の感情を優先する為に浮かんだ反論を全て消し去ってゆく。
 なにも出来ないまま負けて、終わってからああ言えば良かったこういえば良かったと妄想を続ける。そんな弱さを象った様な僕は桜さんに『男』だと認めて貰えないまま、周りから『普通』と認められないまま終わるのだろうか。
 そもそもなにがいけなかったのだろうか。僕みたいな影の存在が桜さんと親しげにしていたからだろうか。
 理解が追いついていないまま、次の辛辣が飛んできた。
「…なんか喋れよ。ほんと気持ち悪いな。」
 これは彼女の嫉妬からくるものだろうか。それとも単純な悪意だろうか。どちらにせよこの一連は、僕の心に残っている古傷を抉るには十分なものだった。
「…もう、やめてよ。」
 咄嗟で、無意識だった。
「なんでそんなに僕を責めるの?」
 反論というよりは、誰かに助けを求める為の演技と言った方がしっくりくるだろう。無論、この場には二人の生徒しかいない訳だが。
 そんな僕の言葉に驚いた様子もなく平然を保ったまま理不尽を飛ばす彼女は僕の言葉を聞いてくれていた。その一言で『そうだね』というわけにもいかない様で、何度も同じ様に単語を繰り返していた。
 誰か、ここに現れてくれたら終わるのだろうか。いや、誰かとは言ったものの、僕の味方なんて数える程しか居ない筈だ。斗真と、桜さんとたった…二人だけだ。
 それにもう斗真は部活だし、桜さんは帰っただろう。くだらないと笑い飛ばせられれば良かったのに。僕はなんでもすぐに思い詰めてしまう。
 
 最終的、暴言を吐き尽くしたのか目の前にあった拷問器具となんら変わりない女子生徒は姿を眩ませていた。
 後半彼女の言葉は覚えていない。詳しく追求する事もなく言葉を流す事のできない僕は痛みを延々と蓄積していた。
 辛い。辛い。自分の覚悟が呼んだ不幸なんだろうと全て自分で背負おうとする癖がここで発動していた。
 そんな暗い気持ちのまま廊下を小さな歩調のまま歩く途中に、グラウンドから一番近い男子トイレから現れた陸上ウェアを纏った斗真に出会った。
 こちらも、先程と同様に無意識。
 斗真のウェアに顔を押し付け、迷惑と思いながらも静かに眼球と目蓋の隙間から水を流していた。
「…もう、死にたい。」
 この言葉がどれだけ被害を生んだだろう。斗真のウェアを汚してしまった。今度の試合出場が決定している斗真の練習時間を奪ってしまった。単純に、斗真に迷惑をかけてしまった。そんな事も全て、自分の背負う罪だ。
 
 落ち着くまで、と、グラウンド近くの水道の側で体育座りに顔を埋めていた。斗真が全ての元凶を問い詰めてくれたのにも関わらず、僕は『自分が弱かったから』としか答えられなかった。
「…分かってるよ。お前がそうやって全部自分のせいにして色々抱え込む奴だって…」
 あの日の様に、また僕は斗真に見透かされている。本当に駄目な人間だ。僕は、結局なにも変わっていないんだと何度も念押しして自分自身を戒めた。
 
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