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第7話
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「…俺、部室に飲み物取りに行ってくるからちょっと待っててくれるか?」
斗真はそう言い残して、部室練とは真逆の方向へ足を急がせていた。顔を両膝に埋めていた日向がそれを見る事は無かった。
斗真は正門の前で一人の生徒を見つけていた。今朝、日向と桜さんの方を不満に見つめていた、ある女子生徒を。名前と顔が一致していない故、その顔に見覚えはあったものの彼女の名を呼ぶ事は無かった。
「…なぁ。お前…日向に何か言ったのか?」
女子生徒は足を止め、無機質な顔を向けた。それがどんな感情を持っていたのか、心理学の類を何一つ理解していない斗真には分からなかった。
「…別に?ていうか月見くん、幼馴染とか言ってたけど下の名前でアイツのこと呼ぶんだ。もしかしてそういう関係なの?」
下らない、と、笑い飛ばせればどれだけ楽だったろうか。日向とは、お互い男と男である。それを隠しているという事実がこの会話には邪魔でしかたなかった。
勿論、日向を責めているわけではない。
それを踏まえたうえで、分かる。日向の言うのはコイツの事だと。
「アイツとのそんな関係なんて、どれだけ間違った世界でも誕生しねーよ。第一…日向は馬鹿で、弱くて、他人ばっかり優先して…全部一人で…アイツは全部一人で抱えこむ。だからさ…」
友人を馬鹿にされた。その理由で生まれた怒りとは、はじめての感覚だった。
「日向の何が気に食わないのかは分かんねぇけど、つまんねぇ事するな。こっちの気分も悪くなるんだよ。」
ここに居るのは二人だけ。その他の生徒は見当たらなかったので好き放題言おうかと考えた。しかしそれは今まで通常を保ってきた人間が言っていい事なのか、どれだけ屑が相手であろうとその他に伝わってしまえば終わりだと考え、一言で終わらせようと言葉を選択して切り出した。その結果である。
「悪い日向。よく考えたら今日飲み物忘れてきたんだったわ。」
そんな嘘を語り、日向のいる方へと視線を落とした。
「もう大丈夫か?」
一言、問う。別にあの人の間違いを正した訳でもないし、もしかすると悪化するのかもしれない。その事を知って欲しかった訳でも、伝えたかった訳でもなくあの行為は自己満足に等しいと考えていた。
「…うん、もう大丈夫だから…」
まだ、日向の両眼には滴が残っていた。
しかしつくづく思うのだが、その仕草の一つ一つが『こいつ本当に男なのか』と疑いたくなる。疑いたくはないのだが、仕方ないと思う。
というか…目のやり場に困る光景が広がっていた。
「あのさ…もうちょっと座り方どうにかならねぇの?」
「はぇ………⁉︎」
瞬時に膝同士をくっつけて踵を滑らせるように座り直し、膝の間に両手を埋めた。
「……見た?」
こういうところである。それなら疑問の一つや二つ浮かんでもおかしくは無いだろう。こんな思考をしてしまうことも申し訳ないと思いつつ、彼なりに努力はしているんだと思う。
「見てないです。」
「嘘だ。」
「見てないです。」
この後日向を見送る途中、一人で帰宅させるのがなんとなく気がかりだったので適当に同期に体調不良を訴えて一緒に帰宅した。
用事と言って謝りながら足早に去っていった桜さんを思い出しながら、身長の可愛い日向に並んで帰路のコンクリートを踏みしめた。
時は、十二時を少し過ぎた辺りだったが空腹を紛らわせる事もせずに、暫しの雑談…と言っても先程の尋問であったが、話を逸らして笑い飛ばした。
嬉しくも無いような水色は何故か脳にこびりついてしまった訳だが。
あの行為でスッキリしたのは自分だけかもしれない。日向はまだ何か抱えているのかもしれないが、それを忘れる程の楽しい夏休みを桜さんと是非を送って欲しいと密かに願った。
斗真はそう言い残して、部室練とは真逆の方向へ足を急がせていた。顔を両膝に埋めていた日向がそれを見る事は無かった。
斗真は正門の前で一人の生徒を見つけていた。今朝、日向と桜さんの方を不満に見つめていた、ある女子生徒を。名前と顔が一致していない故、その顔に見覚えはあったものの彼女の名を呼ぶ事は無かった。
「…なぁ。お前…日向に何か言ったのか?」
女子生徒は足を止め、無機質な顔を向けた。それがどんな感情を持っていたのか、心理学の類を何一つ理解していない斗真には分からなかった。
「…別に?ていうか月見くん、幼馴染とか言ってたけど下の名前でアイツのこと呼ぶんだ。もしかしてそういう関係なの?」
下らない、と、笑い飛ばせればどれだけ楽だったろうか。日向とは、お互い男と男である。それを隠しているという事実がこの会話には邪魔でしかたなかった。
勿論、日向を責めているわけではない。
それを踏まえたうえで、分かる。日向の言うのはコイツの事だと。
「アイツとのそんな関係なんて、どれだけ間違った世界でも誕生しねーよ。第一…日向は馬鹿で、弱くて、他人ばっかり優先して…全部一人で…アイツは全部一人で抱えこむ。だからさ…」
友人を馬鹿にされた。その理由で生まれた怒りとは、はじめての感覚だった。
「日向の何が気に食わないのかは分かんねぇけど、つまんねぇ事するな。こっちの気分も悪くなるんだよ。」
ここに居るのは二人だけ。その他の生徒は見当たらなかったので好き放題言おうかと考えた。しかしそれは今まで通常を保ってきた人間が言っていい事なのか、どれだけ屑が相手であろうとその他に伝わってしまえば終わりだと考え、一言で終わらせようと言葉を選択して切り出した。その結果である。
「悪い日向。よく考えたら今日飲み物忘れてきたんだったわ。」
そんな嘘を語り、日向のいる方へと視線を落とした。
「もう大丈夫か?」
一言、問う。別にあの人の間違いを正した訳でもないし、もしかすると悪化するのかもしれない。その事を知って欲しかった訳でも、伝えたかった訳でもなくあの行為は自己満足に等しいと考えていた。
「…うん、もう大丈夫だから…」
まだ、日向の両眼には滴が残っていた。
しかしつくづく思うのだが、その仕草の一つ一つが『こいつ本当に男なのか』と疑いたくなる。疑いたくはないのだが、仕方ないと思う。
というか…目のやり場に困る光景が広がっていた。
「あのさ…もうちょっと座り方どうにかならねぇの?」
「はぇ………⁉︎」
瞬時に膝同士をくっつけて踵を滑らせるように座り直し、膝の間に両手を埋めた。
「……見た?」
こういうところである。それなら疑問の一つや二つ浮かんでもおかしくは無いだろう。こんな思考をしてしまうことも申し訳ないと思いつつ、彼なりに努力はしているんだと思う。
「見てないです。」
「嘘だ。」
「見てないです。」
この後日向を見送る途中、一人で帰宅させるのがなんとなく気がかりだったので適当に同期に体調不良を訴えて一緒に帰宅した。
用事と言って謝りながら足早に去っていった桜さんを思い出しながら、身長の可愛い日向に並んで帰路のコンクリートを踏みしめた。
時は、十二時を少し過ぎた辺りだったが空腹を紛らわせる事もせずに、暫しの雑談…と言っても先程の尋問であったが、話を逸らして笑い飛ばした。
嬉しくも無いような水色は何故か脳にこびりついてしまった訳だが。
あの行為でスッキリしたのは自分だけかもしれない。日向はまだ何か抱えているのかもしれないが、それを忘れる程の楽しい夏休みを桜さんと是非を送って欲しいと密かに願った。
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