君は僕を認めてくれない

軍艦あびす

文字の大きさ
7 / 30

第7話

しおりを挟む
「…俺、部室に飲み物取りに行ってくるからちょっと待っててくれるか?」
 斗真はそう言い残して、部室練とは真逆の方向へ足を急がせていた。顔を両膝に埋めていた日向がそれを見る事は無かった。
 斗真は正門の前で一人の生徒を見つけていた。今朝、日向と桜さんの方を不満に見つめていた、ある女子生徒を。名前と顔が一致していない故、その顔に見覚えはあったものの彼女の名を呼ぶ事は無かった。
「…なぁ。お前…日向に何か言ったのか?」
 女子生徒は足を止め、無機質な顔を向けた。それがどんな感情を持っていたのか、心理学の類を何一つ理解していない斗真には分からなかった。
「…別に?ていうか月見くん、幼馴染とか言ってたけど下の名前でアイツのこと呼ぶんだ。もしかしてそういう関係なの?」
 下らない、と、笑い飛ばせればどれだけ楽だったろうか。日向とは、お互い男と男である。それを隠しているという事実がこの会話には邪魔でしかたなかった。
 勿論、日向を責めているわけではない。
 それを踏まえたうえで、分かる。日向の言うのはコイツの事だと。
「アイツとのそんな関係なんて、どれだけ間違った世界でも誕生しねーよ。第一…日向は馬鹿で、弱くて、他人ばっかり優先して…全部一人で…アイツは全部一人で抱えこむ。だからさ…」
 友人を馬鹿にされた。その理由で生まれた怒りとは、はじめての感覚だった。
「日向の何が気に食わないのかは分かんねぇけど、つまんねぇ事するな。こっちの気分も悪くなるんだよ。」
 ここに居るのは二人だけ。その他の生徒は見当たらなかったので好き放題言おうかと考えた。しかしそれは今まで通常を保ってきた人間が言っていい事なのか、どれだけ屑が相手であろうとその他に伝わってしまえば終わりだと考え、一言で終わらせようと言葉を選択して切り出した。その結果である。
 
「悪い日向。よく考えたら今日飲み物忘れてきたんだったわ。」
 そんな嘘を語り、日向のいる方へと視線を落とした。
「もう大丈夫か?」
 一言、問う。別にあの人の間違いを正した訳でもないし、もしかすると悪化するのかもしれない。その事を知って欲しかった訳でも、伝えたかった訳でもなくあの行為は自己満足に等しいと考えていた。
「…うん、もう大丈夫だから…」
 まだ、日向の両眼には滴が残っていた。
 しかしつくづく思うのだが、その仕草の一つ一つが『こいつ本当に男なのか』と疑いたくなる。疑いたくはないのだが、仕方ないと思う。
 というか…目のやり場に困る光景が広がっていた。
「あのさ…もうちょっと座り方どうにかならねぇの?」
「はぇ………⁉︎」
 瞬時に膝同士をくっつけて踵を滑らせるように座り直し、膝の間に両手を埋めた。
「……見た?」
 こういうところである。それなら疑問の一つや二つ浮かんでもおかしくは無いだろう。こんな思考をしてしまうことも申し訳ないと思いつつ、彼なりに努力はしているんだと思う。
「見てないです。」
「嘘だ。」
「見てないです。」
 この後日向を見送る途中、一人で帰宅させるのがなんとなく気がかりだったので適当に同期に体調不良を訴えて一緒に帰宅した。
 用事と言って謝りながら足早に去っていった桜さんを思い出しながら、身長の可愛い日向に並んで帰路のコンクリートを踏みしめた。
 時は、十二時を少し過ぎた辺りだったが空腹を紛らわせる事もせずに、暫しの雑談…と言っても先程の尋問であったが、話を逸らして笑い飛ばした。
 嬉しくも無いような水色は何故か脳にこびりついてしまった訳だが。
 あの行為でスッキリしたのは自分だけかもしれない。日向はまだ何か抱えているのかもしれないが、それを忘れる程の楽しい夏休みを桜さんと是非を送って欲しいと密かに願った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

白雪様とふたりぐらし

南條 綾
恋愛
高校1年生の紫微綾は、生きることに疲れ、雪の山で自らの命を終えようとしたその瞬間―― 美しい御小女郎姿の少女・白雪が現れ、優しく彼女を救う。 白雪は実は古の仏神・ダキニ天の化身。暇つぶしに人間界に降りた彼女は、綾に「一緒に暮らそう」と提案し……? 銀髪の少女と神様の、甘く温かなふたりぐらしが始まる。 【注意事項】 本作はフィクションです。 実在の人物・団体・宗教・儀礼・場所・出来事とは一切関係ありません。 作中で登場する神仏や信仰に関する表現は、物語の雰囲気づくりを目的とした創作によるものであり、特定の宗教や思想を推進・否定する意図は一切ございません。 純粋なエンターテイメントとしてお楽しみいただければ幸いです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ヤクザのお嬢は25人の婚約者に迫られてるけど若頭が好き!

タタミ
恋愛
関東最大の極道組織・大蛇組組長の一人娘である大蛇姫子は、18歳の誕生日に父から「今年中に必ず結婚しろ」と命じられる。 姫子の抵抗虚しく、次から次へと夫候補の婚約者(仮)が現れては姫子と見合いをしていくことに。 しかし、姫子には子どもの頃からお目付け役として世話をしてくれている組員・望月大和に淡い恋心を抱き続けていて──? 全25人の婚約者から真実の愛を見つけることはできるのか!?今、抗争より熱い戦いの幕が上がる……!!

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

身体だけの関係です‐三崎早月について‐

みのりすい
恋愛
「ボディタッチくらいするよね。女の子同士だもん」 三崎早月、15歳。小佐田未沙、14歳。 クラスメイトの二人は、お互いにタイプが違ったこともあり、ほとんど交流がなかった。 中学三年生の春、そんな二人の関係が、少しだけ、動き出す。 ※百合作品として執筆しましたが、男性キャラクターも多数おり、BL要素、NL要素もございます。悪しからずご了承ください。また、軽度ですが性描写を含みます。 12/11 ”原田巴について”投稿開始。→12/13 別作品として投稿しました。ご迷惑をおかけします。 身体だけの関係です 原田巴について https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/734700789 作者ツイッター: twitter/minori_sui

【完結】【ママ友百合】ラテアートにハートをのせて

千鶴田ルト
恋愛
専業主婦の優菜は、夫・拓馬と娘の結と共に平穏な暮らしを送っていた。 そんな彼女の前に現れた、カフェ店員の千春。 夫婦仲は良好。別れる理由なんてどこにもない。 それでも――千春との時間は、日常の中でそっと息を潜め、やがて大きな存在へと変わっていく。 ちょっと変わったママ友不倫百合ほのぼのガールズラブ物語です。 ハッピーエンドになるのでご安心ください。

処理中です...