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第21話
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ここ数日で考えついた論を一つ語ろう。夏休みとは暇を持て余す期間である。何故こんな事を考えてしまったのか。それは現在に至るまでを語ればすぐに分かるであろう。今日の日付が8月2日。これだけ時間があったという事は、当然学校から渡された課題は全て終わってしまったのである。だからといって自主的に勉強していないわけでもない。そうでもしないと、中学3年一学期期末試験まで死守してきた400点台キープを途切れさせてしまう事になる。別に分からない事は無いので、授業という概念が存在しない夏休みに勉強の必要は無いと考える。
そして今に至る。という訳だ。
誰か助けてくれ。あまりに暇すぎて先日、幼稚園時代の玩具を全て分解してまた戻すという行為を始めてしまっていたのだ。何がしたかったのだろうか。別に電子回路とかそんな物に目を光らせる性格でも無いだろうに。
「あぁ…夏休み満喫したいよぉ…」
例えば海だろうか。いや、死ぬだろう。行ったとして何がしたいのだ泳げない僕は何がしたいのだろうか。
しかし本当に僕は夏のレジャーとは無縁である。だって全部向いてないし、父さんも母さんも仕事で忙しいのだ。結局この部屋で31日を待つだけの日常になってしまいそうだ。
そんな事を考えると、部屋の前から声が響いている事に気がついた。正真正銘というか、相変わらず家にいる人間は1人な訳で。
「お姉ちゃーん、スーパー行くからついてきて?お一人様ひとパックまでだから‼︎」
面倒くさい誘いが聞こえる。聞こえなかった事に出来ないだろうか。
「できる訳ないでしょ。ほら早く着替えて?」
扉を開く音と同時に追い討ちが飛んできた。なんで口に出したんだろうか今の発言。無意識で愚痴を零していた事で、もう逃げる事は不可能らしい。渋々クローゼットを開け放ち、少し間を置く。
「…あの、出ていってくれますか妹よ。」
「いえ、お構いなく。」
「構わないほうが無理なんですけど。」
視線を気にしながら、下着なら別にいいかと割り切り支度をした。なんか表情の切り替えが激しいこの子は何を考えてこちらを凝視しているのだろうか。
…無論、レズモンスターである八雲優香は必死に理性を保とうと自制心と闘っていた。
「卵がこんなに安いのは前代未聞だよお姉ちゃん。絶対争いが起きてると思うから気をつけてね!」
タイムセールに群がる主婦というのはどうしてこう安易に想像がつくのだろうか。ありがちな風景を何度も脳内再生していた。
いつの間にか辿り着いたスーパーは、かなり前に来た記憶しか無い。内装や配置が変わり果てているもので、かなり迷ったのだった。無事卵を二パック手に入れた八雲家はレジを後にして帰路についていた。
角を曲がっ途端に見える公園で目に入ったのは、あの日以来合わせる顔がないと自己解釈をした紫苑さんの姿だった。
「あ…あの人って確か…」
優香からしてみれば、亡くなってしまった友人の姉という認識なのだろう。少しは面識があったのか、印象深い赤黒の髪色に惹かれるよう歩調を進めていた。
「…あれ、日向ちゃん…と、確か…」
あの日以来、今後向こうがどう関わってくるのかが分からずに不安だったのだ。しかし初対面の頃と変わらないようで少し安心感に包まれた。
「八雲優香です。その…蘭花ちゃんにはよく一緒に遊んで貰ってました。私は——」
やはり小学生にこの手の話で急に畏る事は難しいのだろう。どこかぎこちない言葉を飛ばした優香はあたふたと手を眼前で四方八方に動かしていた。そんな仕草に笑顔で答え、頭を撫でていた紫苑さんは優しい言葉をかけてくれた。
「別にそんなに改まったりしなくていいんだよ…ありがとうね、蘭花と仲良くしてくれて…そうだ、日向ちゃん、これから予定ある?」
予定なんて何もないのだ。年中無休で暇である。
「別に大丈夫ですよ。それと…この前はすいません…何も知らないのに口走っちゃって…」
その後、案内された鳴上宅にお邪魔して、優香は仏壇の前に座り込んで合掌していた。
「ごめんね、急に…でも今じゃないと駄目な気がしてさ…私が自暴自棄になってたって知ったら、蘭花も辛いかなって…」
「大丈夫ですよ。優香もずっと会いたがっていたので…僕もこうして紫苑さんとお話出来たので良かったです。てっきり嫌われちゃったかなって思ってたので…」
自分自身で分かっている。紫苑さんがそんな事を思うはずがないと。
優しくて、真面目で、妹思いで…
「それで聞きたかったんだけど、あの時言ってた『僕が男なら~』ってなんだったの?」
どうして僕は墓穴を掘るのが上手いのだろうか。優香がいる以上ここで話す事は出来ないのである。
「それに関してはまた二人の時にお話します…ちょっと言い難い感じのやつなので…」
こうして、互いに理解を交わした上で僕らの『友人』としての関係が完成した。
そして今に至る。という訳だ。
誰か助けてくれ。あまりに暇すぎて先日、幼稚園時代の玩具を全て分解してまた戻すという行為を始めてしまっていたのだ。何がしたかったのだろうか。別に電子回路とかそんな物に目を光らせる性格でも無いだろうに。
「あぁ…夏休み満喫したいよぉ…」
例えば海だろうか。いや、死ぬだろう。行ったとして何がしたいのだ泳げない僕は何がしたいのだろうか。
しかし本当に僕は夏のレジャーとは無縁である。だって全部向いてないし、父さんも母さんも仕事で忙しいのだ。結局この部屋で31日を待つだけの日常になってしまいそうだ。
そんな事を考えると、部屋の前から声が響いている事に気がついた。正真正銘というか、相変わらず家にいる人間は1人な訳で。
「お姉ちゃーん、スーパー行くからついてきて?お一人様ひとパックまでだから‼︎」
面倒くさい誘いが聞こえる。聞こえなかった事に出来ないだろうか。
「できる訳ないでしょ。ほら早く着替えて?」
扉を開く音と同時に追い討ちが飛んできた。なんで口に出したんだろうか今の発言。無意識で愚痴を零していた事で、もう逃げる事は不可能らしい。渋々クローゼットを開け放ち、少し間を置く。
「…あの、出ていってくれますか妹よ。」
「いえ、お構いなく。」
「構わないほうが無理なんですけど。」
視線を気にしながら、下着なら別にいいかと割り切り支度をした。なんか表情の切り替えが激しいこの子は何を考えてこちらを凝視しているのだろうか。
…無論、レズモンスターである八雲優香は必死に理性を保とうと自制心と闘っていた。
「卵がこんなに安いのは前代未聞だよお姉ちゃん。絶対争いが起きてると思うから気をつけてね!」
タイムセールに群がる主婦というのはどうしてこう安易に想像がつくのだろうか。ありがちな風景を何度も脳内再生していた。
いつの間にか辿り着いたスーパーは、かなり前に来た記憶しか無い。内装や配置が変わり果てているもので、かなり迷ったのだった。無事卵を二パック手に入れた八雲家はレジを後にして帰路についていた。
角を曲がっ途端に見える公園で目に入ったのは、あの日以来合わせる顔がないと自己解釈をした紫苑さんの姿だった。
「あ…あの人って確か…」
優香からしてみれば、亡くなってしまった友人の姉という認識なのだろう。少しは面識があったのか、印象深い赤黒の髪色に惹かれるよう歩調を進めていた。
「…あれ、日向ちゃん…と、確か…」
あの日以来、今後向こうがどう関わってくるのかが分からずに不安だったのだ。しかし初対面の頃と変わらないようで少し安心感に包まれた。
「八雲優香です。その…蘭花ちゃんにはよく一緒に遊んで貰ってました。私は——」
やはり小学生にこの手の話で急に畏る事は難しいのだろう。どこかぎこちない言葉を飛ばした優香はあたふたと手を眼前で四方八方に動かしていた。そんな仕草に笑顔で答え、頭を撫でていた紫苑さんは優しい言葉をかけてくれた。
「別にそんなに改まったりしなくていいんだよ…ありがとうね、蘭花と仲良くしてくれて…そうだ、日向ちゃん、これから予定ある?」
予定なんて何もないのだ。年中無休で暇である。
「別に大丈夫ですよ。それと…この前はすいません…何も知らないのに口走っちゃって…」
その後、案内された鳴上宅にお邪魔して、優香は仏壇の前に座り込んで合掌していた。
「ごめんね、急に…でも今じゃないと駄目な気がしてさ…私が自暴自棄になってたって知ったら、蘭花も辛いかなって…」
「大丈夫ですよ。優香もずっと会いたがっていたので…僕もこうして紫苑さんとお話出来たので良かったです。てっきり嫌われちゃったかなって思ってたので…」
自分自身で分かっている。紫苑さんがそんな事を思うはずがないと。
優しくて、真面目で、妹思いで…
「それで聞きたかったんだけど、あの時言ってた『僕が男なら~』ってなんだったの?」
どうして僕は墓穴を掘るのが上手いのだろうか。優香がいる以上ここで話す事は出来ないのである。
「それに関してはまた二人の時にお話します…ちょっと言い難い感じのやつなので…」
こうして、互いに理解を交わした上で僕らの『友人』としての関係が完成した。
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作者ツイッター: twitter/minori_sui
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