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第2部
第11話 正義の執行人
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何故、こんなものが存在しているのか。そんな理由は、どれだけ探そうと分からなかった。
そこに佇んでいたのは、大理石の巨大な扉に埋め込まれた一人の男の姿。ギリシアの彫刻に似た様だが、その顔に特徴的な彫りの深さは無い。
しかし、その顔は見覚えのあるものだった。ましてや、数日間追い続けていた男だ。分からない訳がなかった。
サマエルの姿を象った石の像。これが、この街が壊滅してしまった理由なのだと瞬時に悟った。眼前で埋もれる無表情の男は、依然虚を見つめ続けている。
「サマエルを祀ってたのか……?」
五メートルはあるだろう像の顔に当然手は届かず、触れることは叶わなかった。触れたからなんだという話ではあるが、不気味に佇むそれに知的好奇心が抑えられなかったのだ。
これがいつ作られた物なのか。
これがどのように扱われていたのか。
これひとつで、今まで存在していた謎が解かれるような気がした。
「帰ってアガリアレプトに調べさせるかな……」
残念ながら、携帯電話やスマートフォンといったものは持ち合わせていない。写真として残すのが一番良いのだろうが、術がないので記憶だけを持ち帰ろうと考えていた。
帰路へ向けて、踵を返す。充分な収穫の末に獄へ帰ろうと脚を進めたとき、背後から一つの声が響いた。
「……シファー……ん……で……」
その言葉に驚き、視線を言葉の方へと向ける。サマエルの像の所々が人の持つ色へと変わり、カタカタと震えていた。
「サマエルッ⁉︎」
つぎはぎの言葉を聞き取るのは難しく、何を言っているのかは分からない。だが、瞬時にこれは像ではなくサマエルそのものであると理解できた。
「なんだ⁉︎何を言って——」
『逃 げろッ‼︎ルシ ファ ー‼︎』
断片的なその言葉。意味もなく語られるものではないと察して……というよりも、何処からか迫る強烈な殺気を感じて、身を転がした。
先程まで立っていた場所に、数えきれない量の蒼い長剣が突き刺さっている。何年も放置されていたコンクリートに直立するそれらの主は、見上げた方向にいる他考えられなかった。故に、空を見上げる。
「なぁに避けてんの、ルシファー。マジ意味不明の超ブチギレ案件っしょコレ」
見上げた先には、一つの影。そこにいた、訳の分からない単語を並べる女は、翼を携えて天より飛来した。
「誰だ……?」
女は地に脚を付け、首を傾けては音を鳴らす。明らかに戦闘を始める気満々の様子には、現状抱えている問題の量から考えて少々困るものがある。こんなことをしている場合ではないのだ。
「やっぱ覚えてねえよなぁ、堕落したとき記憶も滅んじまったから。お前マジ不憫じゃん」
「何……?」
「じゃ、マジ不本意ながらマジメに自己紹介してやろうか。アタシは能天使指揮官カマエルってんだよ。マジ偉い天使様だからそこんとこヨロシク」
天使。サマエルが追い続けていた、偽善者集団だ。創作物でしかなかった筈のものが、この場に存在していたというのだ。
「何故俺の邪魔をした?そして、何故サマエルは縛られている?」
「質問は一つずつにしろよな、マジめんどくせぇ」
足元に長剣を突き刺し、それに体重を預けて欠伸をするカマエル。腑抜けた態度をしているが、先程の攻撃から考えるにかなりの実力を持っているだろう。
「後ろのコイツは、わざわざアタシらがテメェら悪魔に隠してたこと知っちまったんだよ。だからマジで封印してやった。つってもアタシは隠すようなもんでもねぇと思うけどよ」
「……コイツは何を知ったんだ?」
「お前マジで人の話聞いてたか?隠してること教える訳ねーだろマジメに考えろ」
人差し指で己のこめかみをぐりぐりと弄り、煽る。先程からマジだのマジメだのふざけた言葉を発していた故、話してくれることを期待していたのだが。
「まぁ、そういうことだ。テメェが近くにいたまま時間経っちまうと封印解けるらしいんだわ。マジで離れてくんねえかなって理由よ」
「その割には、本気だったようだが?」
その言葉に、カマエルはムスッとした表情が姿を見せる。長剣から手を離して、短髪を掻きむしり嗚咽を漏らし始めた。
「あーあー、なにテメェがマジを語ってんだよマジふざけんなマジで殺すぞマジで」
「訳わかんないとこに沸点あるなお前」
「うっせぇマジ死ねや‼︎」
相変わらず訳の分からない展開のまま長剣を握り直すカマエル。こちらに目掛け、その刀身を振り翳す。
身を逸らし、刃を握ってそのままへし折る。柄の方向に残った刃を引っ張り、カマエルのバランスはこちらに倒れるしかない状況だ。
だが、その身体はその場で踏みとどまる。前のめりになった状態から体勢を立て直して、互いは綱引きのような図になった。
「マジで甘えんだよッ‼︎」
瞬間、言葉の後に眼前より攻撃が飛来する。それは、女だからと油断していたのだろうか、何故かあり得ないと考えていた攻撃。
頭突きだった。それも、尋常ではない威力。鼻の骨が無事では済まないレベルのものだ。
当然、柄と刃を握っている双方で不利なのは自身の方だ。なす術なく背後へと飛ばされてしまう。視界の先では、顔の上半分を真っ赤に染めたカマエルが八重歯を覗かせて笑っていた。
「フィナーレな訳ねえよなぁ⁉︎まだ出来んだろマジで来やがれクソ野郎‼︎」
「ったく訳わかんねえんだよッ‼︎何にキレてんだテメェは‼︎」
「あぁ⁉︎テメェがアタシのマジを語ってんじゃねえってんだよ‼︎」
いや、本当に訳が分からなかった。
もし自身が神に反逆して堕落したというのが事実なのだとしたら、理由がなんとなく想像できる。頭のおかしい集団の一部と思われたくなかったからだろう。全ての天使がこうなのかは分からないが、まああり得るのではないだろうか。
「マジメに戦いやがれクソ反逆者がぁ‼︎」
「マジマジうるっせぇんだよクソ偽善者ァ‼︎」
一方的に見れば、武器を有した上に技術に長けているカマエルが優勢だろう。
だが、この女は未だに気付いて居ないのだ。奴は、自身の持つ価値観に邪魔となる自信しか見えていないのだから。
先程の頭突きで、この身は背後へと飛ばされている。
そして、カマエルは語った。理由は分からないが、この身が近づいて時間が経てば『封印が解けてしまう』と。
怒り心頭に発するカマエルは、ようやくその様に気が付いたらしい。ルシファーの頭上にいた、一人の男の存在に。
「おい、何してくれてんだクソ野郎……マジ糞立腹案件だわ‼︎」
「って言ってるけど、お前はどうする?」
大理石の破片を飛ばし、一人の男が地に降り立つ。まさかこの男と共闘しようなんて日が来るとは、想像も出来なかった。
「当然、四百年分の『マジギレ』解消だろ」
そこに佇んでいたのは、大理石の巨大な扉に埋め込まれた一人の男の姿。ギリシアの彫刻に似た様だが、その顔に特徴的な彫りの深さは無い。
しかし、その顔は見覚えのあるものだった。ましてや、数日間追い続けていた男だ。分からない訳がなかった。
サマエルの姿を象った石の像。これが、この街が壊滅してしまった理由なのだと瞬時に悟った。眼前で埋もれる無表情の男は、依然虚を見つめ続けている。
「サマエルを祀ってたのか……?」
五メートルはあるだろう像の顔に当然手は届かず、触れることは叶わなかった。触れたからなんだという話ではあるが、不気味に佇むそれに知的好奇心が抑えられなかったのだ。
これがいつ作られた物なのか。
これがどのように扱われていたのか。
これひとつで、今まで存在していた謎が解かれるような気がした。
「帰ってアガリアレプトに調べさせるかな……」
残念ながら、携帯電話やスマートフォンといったものは持ち合わせていない。写真として残すのが一番良いのだろうが、術がないので記憶だけを持ち帰ろうと考えていた。
帰路へ向けて、踵を返す。充分な収穫の末に獄へ帰ろうと脚を進めたとき、背後から一つの声が響いた。
「……シファー……ん……で……」
その言葉に驚き、視線を言葉の方へと向ける。サマエルの像の所々が人の持つ色へと変わり、カタカタと震えていた。
「サマエルッ⁉︎」
つぎはぎの言葉を聞き取るのは難しく、何を言っているのかは分からない。だが、瞬時にこれは像ではなくサマエルそのものであると理解できた。
「なんだ⁉︎何を言って——」
『逃 げろッ‼︎ルシ ファ ー‼︎』
断片的なその言葉。意味もなく語られるものではないと察して……というよりも、何処からか迫る強烈な殺気を感じて、身を転がした。
先程まで立っていた場所に、数えきれない量の蒼い長剣が突き刺さっている。何年も放置されていたコンクリートに直立するそれらの主は、見上げた方向にいる他考えられなかった。故に、空を見上げる。
「なぁに避けてんの、ルシファー。マジ意味不明の超ブチギレ案件っしょコレ」
見上げた先には、一つの影。そこにいた、訳の分からない単語を並べる女は、翼を携えて天より飛来した。
「誰だ……?」
女は地に脚を付け、首を傾けては音を鳴らす。明らかに戦闘を始める気満々の様子には、現状抱えている問題の量から考えて少々困るものがある。こんなことをしている場合ではないのだ。
「やっぱ覚えてねえよなぁ、堕落したとき記憶も滅んじまったから。お前マジ不憫じゃん」
「何……?」
「じゃ、マジ不本意ながらマジメに自己紹介してやろうか。アタシは能天使指揮官カマエルってんだよ。マジ偉い天使様だからそこんとこヨロシク」
天使。サマエルが追い続けていた、偽善者集団だ。創作物でしかなかった筈のものが、この場に存在していたというのだ。
「何故俺の邪魔をした?そして、何故サマエルは縛られている?」
「質問は一つずつにしろよな、マジめんどくせぇ」
足元に長剣を突き刺し、それに体重を預けて欠伸をするカマエル。腑抜けた態度をしているが、先程の攻撃から考えるにかなりの実力を持っているだろう。
「後ろのコイツは、わざわざアタシらがテメェら悪魔に隠してたこと知っちまったんだよ。だからマジで封印してやった。つってもアタシは隠すようなもんでもねぇと思うけどよ」
「……コイツは何を知ったんだ?」
「お前マジで人の話聞いてたか?隠してること教える訳ねーだろマジメに考えろ」
人差し指で己のこめかみをぐりぐりと弄り、煽る。先程からマジだのマジメだのふざけた言葉を発していた故、話してくれることを期待していたのだが。
「まぁ、そういうことだ。テメェが近くにいたまま時間経っちまうと封印解けるらしいんだわ。マジで離れてくんねえかなって理由よ」
「その割には、本気だったようだが?」
その言葉に、カマエルはムスッとした表情が姿を見せる。長剣から手を離して、短髪を掻きむしり嗚咽を漏らし始めた。
「あーあー、なにテメェがマジを語ってんだよマジふざけんなマジで殺すぞマジで」
「訳わかんないとこに沸点あるなお前」
「うっせぇマジ死ねや‼︎」
相変わらず訳の分からない展開のまま長剣を握り直すカマエル。こちらに目掛け、その刀身を振り翳す。
身を逸らし、刃を握ってそのままへし折る。柄の方向に残った刃を引っ張り、カマエルのバランスはこちらに倒れるしかない状況だ。
だが、その身体はその場で踏みとどまる。前のめりになった状態から体勢を立て直して、互いは綱引きのような図になった。
「マジで甘えんだよッ‼︎」
瞬間、言葉の後に眼前より攻撃が飛来する。それは、女だからと油断していたのだろうか、何故かあり得ないと考えていた攻撃。
頭突きだった。それも、尋常ではない威力。鼻の骨が無事では済まないレベルのものだ。
当然、柄と刃を握っている双方で不利なのは自身の方だ。なす術なく背後へと飛ばされてしまう。視界の先では、顔の上半分を真っ赤に染めたカマエルが八重歯を覗かせて笑っていた。
「フィナーレな訳ねえよなぁ⁉︎まだ出来んだろマジで来やがれクソ野郎‼︎」
「ったく訳わかんねえんだよッ‼︎何にキレてんだテメェは‼︎」
「あぁ⁉︎テメェがアタシのマジを語ってんじゃねえってんだよ‼︎」
いや、本当に訳が分からなかった。
もし自身が神に反逆して堕落したというのが事実なのだとしたら、理由がなんとなく想像できる。頭のおかしい集団の一部と思われたくなかったからだろう。全ての天使がこうなのかは分からないが、まああり得るのではないだろうか。
「マジメに戦いやがれクソ反逆者がぁ‼︎」
「マジマジうるっせぇんだよクソ偽善者ァ‼︎」
一方的に見れば、武器を有した上に技術に長けているカマエルが優勢だろう。
だが、この女は未だに気付いて居ないのだ。奴は、自身の持つ価値観に邪魔となる自信しか見えていないのだから。
先程の頭突きで、この身は背後へと飛ばされている。
そして、カマエルは語った。理由は分からないが、この身が近づいて時間が経てば『封印が解けてしまう』と。
怒り心頭に発するカマエルは、ようやくその様に気が付いたらしい。ルシファーの頭上にいた、一人の男の存在に。
「おい、何してくれてんだクソ野郎……マジ糞立腹案件だわ‼︎」
「って言ってるけど、お前はどうする?」
大理石の破片を飛ばし、一人の男が地に降り立つ。まさかこの男と共闘しようなんて日が来るとは、想像も出来なかった。
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