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第2部
第13話 奈落
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「お、どうだった?」
「いや……駄目だな」
3課の扉を開けた先にいたのは、蓮磨と浦矢だった。いつも通り、マモンの運ばれた病院へ見舞いに足を運んでいたのだろう。その帰りをいつも通りの言葉で受け流し、静かな日々を再び貪る。
「ん……隊長と山藁さんは?」
「隊長は会議、山藁さんは有給で数日来ねえって」
「そうか……」
なにか、身内的な事情があるのだろう。山藁さんが3課に顔を出さなくなったのは昨日からだった。概ね訃報といった類いだろうか。
「それじゃ、いつも通り暇な感じですかね」
「いや浦矢、仕事はしてくれ」
サボり癖というのも、仕方はない。ベルゼブルがあまりにも政策を上手く進めすぎるあまり、我々の存在は空気同然である。誰が税金泥棒だ畜生。
「しかし、マモンも動けない状況はあんまり良くねえよな」
「別に、手負になんだと言うつもりはないが……アイツが居なければ少し寂しいな」
蓮磨が語る言葉には、哀愁があった。だが、ここ数日としてピリピリしていた空気とは打って変わる。なにか、覚悟を決めたような顔をしていたからだろうか。
「おい。マモン、もしかしたら起きるかもしんねえぞ」
ふと、足元のベリアルが言葉を溢す。その言葉は、沈んでいた重い空気を押し上げるような感じでサラッと放たれた。
「どういうことだ?というか何故今まで黙っていたんだ」
「うるせぇな。メシ食ってたら思いついたんだよ」
「お前また俺の昼メシ食いやがったな」
見慣れた光景で貪り散らかるプラスチックの残骸たち。知らず知らずのうちに中身は消え去り、ソースまで綺麗に舐められてそこらに放置されていた。
「それで、どうすればマモンを……?」
「簡単だ。トウヤがブエルコア吐き出してマモンに食わせろ」
それは、本当に簡単だった。いや、だからこそ盲点だったか。今までこの身を支えてきたブエルのコアは、男に対して癒しを与える効果を持っているのだ。
「ただしデメリットがある。今までブエルコアに頼ってきたトウヤの身体は蓮磨に比べて悪魔に対する耐性がねえから、ブエルコアがトウヤの体内に無い状態で変身したらトウヤが死ぬ」
「マジかよオレ死ぬの?」
「殺さねえよ。トウヤが死んだら誰がオレ様のメシを用意すんだよって話だ」
労ってくれてるのかと思いきや普通に残念な回答だった。いや確かにこのような回答が返ってくるのは安易に想像できたのだが……なんというか、虚しい。
「それに、人間殺したら誰だろうがベルゼブルが黙ってねえからな」
「あぁ、そう……」
ベリアルの語ったとおりにすれば、マモンを目覚めさせる算段が立つだろう。だが、サマエルがこの近辺にて活動しているというのなら、必然的にどこかで戦うタイミングがあるだろう。
神出鬼没に対応すると考えれば、この案は是非却下させていただきたい。
「なんにせよ、アイツが意識失うレベルの傷をブエルが治すのにどんだけかかるかも分かんねえ。この一連が終わるまでは自主的な回復を祈るしかねえだろうな」
「やっぱり人間の治療法って意味ないんですよね」
「あぁ、そうだな。人間の形してるだけで根本はオレ様たち悪魔なんだからな」
ルシファー、サマエルという二人。決して集うことは無かったであろうメンバーが顔を見つめ合う。議論は開始から二時間を経過させて、サマエルの知ってしまったタブーの開示が行われていた。
コレを知ってしまえば天界からの刺客が現れるだろうというのだが、何も分からない状況ではどうしたって始まらない。戦闘特化ではないアガリアレプトに席を外してもらい、二人のみでの情報共有が開始された。
「確かに、俺は天使の存在を認知した。お前のしていたことに意味があったと認めざるを得ないな」
「まあそうだな。俺のミスで完全に目ぇ付けられちまったんだが」
現状、カマエルが「次は封印する」と語っていた以上安心はできなかった。相手の弱点も分かっているが、あの行為は公にできるようなものでもないというのが痛手である。
「それで、お前の知ったタブーに関してだ。教えてくれるな?」
「あぁ……でもテメェ、もう知ってんだろ。あの本拾ったんだからよ」
その言葉に反応して、数時間前に教会に落ちていたあの聖書を取り出す。奥付に加筆されていた、あの本だ。
内ポケットにねじ込んだ聖書を机の上に置いて、奥付を開く。
「これを書いたのは、おそらくアガレスだ。俺が四百年前にカマエルから逃げているとき、アガレスに『元の時代に戻ってこの事実を伝えろ』と頼んだ」
サマエルが見たタブーというのは、知ってしまえば天使によって封印されてしまうようなものなのだ。そんなものを伝えようなんて、当然思う訳はないだろう。
「アガレスは自分が封印、または殺害されるのが恐ろしくて、辛うじて伝わってくれればそれで良いといった具合に内容をぼかしてその本に記した。俺が見て理解できる内容な上に、奥付の年代的にアガレス以外あり得ねえ」
アガレスが残した言葉。
『天が人を導くと共に、悪魔も場所を同じくして人を導く。求められる救済が偽善であれ邪道であれ、その扉は等しく開いている』
この言葉をサマエルの補足に添い、理解すればこういった具合だ。
『天使も悪魔も、現れるその場所は等しい。人の求めるものがなんであろうと、双方が存在している』
サマエルの言葉を借りたとしても、何が何だかよく分からない。ならば、いっそ答えを提示してもらおう。
「俺らが人間界と獄を繋ぐゲートって呼んでるアレ。そんな単純なもんじゃねえって事だ」
「だとしたら、アレはなんだっていうんだよ」
サマエルは、ゆっくりと答えを口にする。
「人を奈落に幽閉するシステム。天使の管理下に置かれた、俺たち悪魔を幽閉するただの檻だ」
「その名を、アバドン」
「いや……駄目だな」
3課の扉を開けた先にいたのは、蓮磨と浦矢だった。いつも通り、マモンの運ばれた病院へ見舞いに足を運んでいたのだろう。その帰りをいつも通りの言葉で受け流し、静かな日々を再び貪る。
「ん……隊長と山藁さんは?」
「隊長は会議、山藁さんは有給で数日来ねえって」
「そうか……」
なにか、身内的な事情があるのだろう。山藁さんが3課に顔を出さなくなったのは昨日からだった。概ね訃報といった類いだろうか。
「それじゃ、いつも通り暇な感じですかね」
「いや浦矢、仕事はしてくれ」
サボり癖というのも、仕方はない。ベルゼブルがあまりにも政策を上手く進めすぎるあまり、我々の存在は空気同然である。誰が税金泥棒だ畜生。
「しかし、マモンも動けない状況はあんまり良くねえよな」
「別に、手負になんだと言うつもりはないが……アイツが居なければ少し寂しいな」
蓮磨が語る言葉には、哀愁があった。だが、ここ数日としてピリピリしていた空気とは打って変わる。なにか、覚悟を決めたような顔をしていたからだろうか。
「おい。マモン、もしかしたら起きるかもしんねえぞ」
ふと、足元のベリアルが言葉を溢す。その言葉は、沈んでいた重い空気を押し上げるような感じでサラッと放たれた。
「どういうことだ?というか何故今まで黙っていたんだ」
「うるせぇな。メシ食ってたら思いついたんだよ」
「お前また俺の昼メシ食いやがったな」
見慣れた光景で貪り散らかるプラスチックの残骸たち。知らず知らずのうちに中身は消え去り、ソースまで綺麗に舐められてそこらに放置されていた。
「それで、どうすればマモンを……?」
「簡単だ。トウヤがブエルコア吐き出してマモンに食わせろ」
それは、本当に簡単だった。いや、だからこそ盲点だったか。今までこの身を支えてきたブエルのコアは、男に対して癒しを与える効果を持っているのだ。
「ただしデメリットがある。今までブエルコアに頼ってきたトウヤの身体は蓮磨に比べて悪魔に対する耐性がねえから、ブエルコアがトウヤの体内に無い状態で変身したらトウヤが死ぬ」
「マジかよオレ死ぬの?」
「殺さねえよ。トウヤが死んだら誰がオレ様のメシを用意すんだよって話だ」
労ってくれてるのかと思いきや普通に残念な回答だった。いや確かにこのような回答が返ってくるのは安易に想像できたのだが……なんというか、虚しい。
「それに、人間殺したら誰だろうがベルゼブルが黙ってねえからな」
「あぁ、そう……」
ベリアルの語ったとおりにすれば、マモンを目覚めさせる算段が立つだろう。だが、サマエルがこの近辺にて活動しているというのなら、必然的にどこかで戦うタイミングがあるだろう。
神出鬼没に対応すると考えれば、この案は是非却下させていただきたい。
「なんにせよ、アイツが意識失うレベルの傷をブエルが治すのにどんだけかかるかも分かんねえ。この一連が終わるまでは自主的な回復を祈るしかねえだろうな」
「やっぱり人間の治療法って意味ないんですよね」
「あぁ、そうだな。人間の形してるだけで根本はオレ様たち悪魔なんだからな」
ルシファー、サマエルという二人。決して集うことは無かったであろうメンバーが顔を見つめ合う。議論は開始から二時間を経過させて、サマエルの知ってしまったタブーの開示が行われていた。
コレを知ってしまえば天界からの刺客が現れるだろうというのだが、何も分からない状況ではどうしたって始まらない。戦闘特化ではないアガリアレプトに席を外してもらい、二人のみでの情報共有が開始された。
「確かに、俺は天使の存在を認知した。お前のしていたことに意味があったと認めざるを得ないな」
「まあそうだな。俺のミスで完全に目ぇ付けられちまったんだが」
現状、カマエルが「次は封印する」と語っていた以上安心はできなかった。相手の弱点も分かっているが、あの行為は公にできるようなものでもないというのが痛手である。
「それで、お前の知ったタブーに関してだ。教えてくれるな?」
「あぁ……でもテメェ、もう知ってんだろ。あの本拾ったんだからよ」
その言葉に反応して、数時間前に教会に落ちていたあの聖書を取り出す。奥付に加筆されていた、あの本だ。
内ポケットにねじ込んだ聖書を机の上に置いて、奥付を開く。
「これを書いたのは、おそらくアガレスだ。俺が四百年前にカマエルから逃げているとき、アガレスに『元の時代に戻ってこの事実を伝えろ』と頼んだ」
サマエルが見たタブーというのは、知ってしまえば天使によって封印されてしまうようなものなのだ。そんなものを伝えようなんて、当然思う訳はないだろう。
「アガレスは自分が封印、または殺害されるのが恐ろしくて、辛うじて伝わってくれればそれで良いといった具合に内容をぼかしてその本に記した。俺が見て理解できる内容な上に、奥付の年代的にアガレス以外あり得ねえ」
アガレスが残した言葉。
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この言葉をサマエルの補足に添い、理解すればこういった具合だ。
『天使も悪魔も、現れるその場所は等しい。人の求めるものがなんであろうと、双方が存在している』
サマエルの言葉を借りたとしても、何が何だかよく分からない。ならば、いっそ答えを提示してもらおう。
「俺らが人間界と獄を繋ぐゲートって呼んでるアレ。そんな単純なもんじゃねえって事だ」
「だとしたら、アレはなんだっていうんだよ」
サマエルは、ゆっくりと答えを口にする。
「人を奈落に幽閉するシステム。天使の管理下に置かれた、俺たち悪魔を幽閉するただの檻だ」
「その名を、アバドン」
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