追放公爵ベリアルさんの偉大なる悪魔料理〜同胞喰らいの逆襲無双劇〜

軍艦あびす

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第3部

第3話 私はダークヒーロー

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「契約というのは、少なからず持ちかけた側が得をするよう作られている。悪魔は縋られる側というのも慣れているのだがな」
 春風の中に寒さを織り交ぜた空気が全身を覆い、季節の境目にて言葉を返す。アスタロトの求めるものとは、一体何を指すものだろうか。
「だが、我は損をしたくない。決定事項を持ち寄った人間の意見を眼前にして利益を考え始める我々は当然不利だろうが、我はそうもいかんよ」
 鉄柵にもたれかかり、有象無象の流れる雲を見つめて一言。契約の引き合いは、どうやらこの先にあるらしい。
「正直に言ってしまうとだな。我はお前に命を差し出せなんて言うつもりは毛頭無い。ベルゼブルの政治にも悪影響を及ぼしてしまうからな」
「それなら、お前は何を求めている?」
 アスタロトの視線は直線へ。眼前の欲を叶えんとする一人の男へ向け、特価を示す。
「酒だ。人間界の酒は美味いが、この姿では入手も何かと難しい世の中でな。年齢を証明しろと言われても、免許だとかの気の利いたものは持ち合わせていない」
「つまり、出来るだけ高い酒を寄越せと」
「ちと違うな。我は高位に居座っているからといって高いものを好むわけではない。質より量だ」
 存外両者に不利益のない契約の末は、綴の判断に全てを委ねている。一人の少女がこの世で生きる為の治療だと思えば、寧ろ安いのではないだろうか。
 
 
「……兄ぃ、一つ聞いていい?」
「ん、どうした?」
「この病気、絶対治せる?」
「……絶対治る」
 
「分かった。信じるよ」
 
 
「アスタロト。契約成立だ」
 零時を回った頃。月が照らす窓の灯りも段々と見えなくなり、宵闇の漆黒だけがその部屋を染め上げる。
 揺らめいた空間から姿を表したアスタロトの手にはワイングラスが握られており、つい先程までも晩酌をしていたと見受けられる。この酒気を帯びた存在を未成年の身に落として良いものかと少し迷ったが、当人に安全を徹底させるのは不可能だろうと妥協をした。
 ふと、アスタロトの手により人工呼吸器が外れる。これは、肺に患っている別の病から来る症状を抑える為のものだ。
「恐らくそのまま飲み込むのは難しいだろうと思い、ワインに溶かしておいた。この一杯が我のコアだ」
「未成年に酒飲ませてる自覚はあんのか?」
「これで天寿を全う出来るなら、安いものだろう」
 ゆっくりと綴の口へ注がれる赤い酒を見守り、段々と透けて取り込まれるアスタロトの身から空のグラスが落ちる。
 あとはアスタロトが悪魔の免疫的な力で病を治してくれるのを待つだけだ。
 
 そんな期待を込め、見守る姿。無機質なベッドで身体を起こし、虚空を見つめるばかりの姿がそこに佇んでいる。
「……おい、大丈夫か——」
「兄ぃ、本当に元気になれたよ」
 聞こえてきた声に、ひとつ違和感。
 その身を乗っ取った筈のアスタロトが精神を扱っているものだと、そう思っていたのだ。
 蓮磨とマモンは、蓮磨が悪魔への耐性を持っていて尚マモンが身を預けている。だからこそ、力の使い方は蓮磨に委ねられる。本来、身に悪魔を宿した人間の精神が悪魔に勝ることは無いと彼らが語っていたのだ。
『なっ……精神が外に出られないだと⁉︎』
 次に響いていたのは、アスタロトの声。籠った声で語られたその言葉により、致命的な不具合が生じていると突然脳が動き始めた。
「アスタロト‼︎これは大丈夫なやつなのか⁉︎」
『身体的に害は無いが、免疫機能の適応が早すぎる。おそらく、我の力がコイツに吸われたのだろう』
 ゆらりと動く頭の真ん中に、ふたつ光る眼球が向く。紛れもない、綴本人が見せるそれだ。
「私が元気になったらやりたい事は、ずっと決めてた。それに、今ならなんでも出来る……」
「綴、お前……‼︎」
 動くことさえままならなかったその身は迷うことなく立ち上がる。その身長を目にするのも何年久しいのだろうか。
 開かれる窓の先に月夜は無く、ただ自然の揺れる音とネオンに飲まれた星の数々。景色に映る先から吹き込む風が、もはや切ることも忘れた綴の長髪を揺らしてみせた。
「私が兄ぃの仕事、手伝うよ。悪い悪魔、何百何千匹でも倒してみせる」
 唐突なその言葉に、毒々しい色が空間を包む。病人を絵に描いたような綴の姿はその後に見当たらず、いつしか見慣れた二つと重なるような雰囲気を帯びていた。
 そう。ベリアルとトウヤのような。
 そう。マモンと蓮磨のような。
 
 窓から身を乗り出し、夜風に乗って小さな翼を広げる。アスタロトによく似た姿の綴は、闇夜に姿を眩ませていた。
 
 
『……もう治ったのなら良いだろう。我を吐き出せ』
「嫌だ。アンタの力が有れば兄ぃを助けられるから絶対に手放さない」
 
 
 
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