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第3部
第6話 不在着信
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「美原さんの地元って沖縄なんすか」
「そうなんですよ。今年もゴーヤが豊作らしくて大量に送られてきました」
ぶちまけられた香水の匂いが漂う一室で、おもてなしを受ける事になった我々は目線をまわす。
仕方がない。今まで仕事一筋という固い人間であったかと言われればそうでもないが、仕事しかする事のなかった男がこの宮沖トウヤである。
当然女性の部屋などに招かれたことは初めてであり、こういう態度を出してしまうのは自然なことなのだ。物珍しさもあってか、ベリアルも同じ対応である。
今まで好んでゴーヤチャンプルーなどといったものを食べたことはあまりなかったが、ここまで美味く作れるのだろうかと思い知らされる。彼女の料理の腕というのもあるのだろうが、飽きない味やしつこくない油の量、一手間加えられたキムチの味が一日の疲れを吹き飛ばす。そんな感覚を覚えるような、まさに絶品というやつだ。
「ご馳走様でした。こんなに美味しく出来るのって、なんかコツとかあるんですか?」
「いやー、母から教えてもらったそのままなのであんまりコツとかは無いと思いますけど……」
談笑を交わし、苦味を旨味へ変化させた料理は皿の上から姿を消す。この間で一時間近くが経過していたが、それもどうでも良くなるように腹が満たされている。
ふと、ゴーヤチャンプルーを平らげて立ち上がるベリアルの姿を横目に確認する。そのままフラフラと玄関へ向かい、届かない玄関の取手へと短い腕を伸ばしていた。
「何してんだお前」
「オレ様はもう帰るからよ。明日も仕事あんだろ」
地を蹴り、掴んだ取手に体重をかけて扉を開く。少し寒さを交えた夜風が吹き込む玄関口は、器具の擦れる音を立てて次第に閉まった。
「どうしたんですかね。お口に合わなかったとか……」
「いや、アイツは普段からああいう奴なんです。めっちゃ美味そうに食ってたし、気にしないでいいよ」
「そうなんですか」
ベリアルの姿が消え、この一室に残る人物は二人のみになった。
そんなとき、己の思考は訳がわからないくらい緊張を要することになる。何を考えているのだと言われて仕舞えば残念な答えしか返せないような、そんな思考が不意に表れていた。
「そういえば宮沖さんって何の仕事してるんですか?」
「……ん、あぁ、ただの公務員ですよ。今日も座りっぱなしで腰が痛くて痛くて」
余計な事はどこかへ放り投げて、普通の談笑をするとしよう。多分そっちの方が色々と都合がいい。
その後三十分ほど会話したのち、ふと目にした時計の短針が九を差していることに気付いた我々は焦り慌て始める。明日は木曜日であり、普通に平日なのだ。呑気なことをしている余裕は、どちらにも無い。
「それじゃ、また。ご馳走様でした‼︎」
「はい、明日もお仕事頑張って下さいね‼︎」
玄関先にて靴を履き、眼前の取手に触れる。扉を開いて、先程部屋に侵入してきた夜風を直に受け止めた。
「あ、宮沖さん。少しいいですか」
「ん?」
「先日大家さんに会ったんですけど、その時『もう家賃払わなくていいよ』と仰ってたんです。伝えておこうと思って」
「……そうなんだ。わざわざありがとう」
「やっと帰ってきたか」
「え……あぁ、うん」
「あ?どした?」
前回の土曜日に、押し入れの奥から発掘されたレトロゲームを小さなテレビに繋いでプレイするベリアル。某シューティングシュミレーションのドットを動かしながら、ささみを貪る姿がそこには居座っていた。
「なんか大家さんが今後家賃払わなくていいみたいなことを言ってたらしくてな」
「マジかよ。浮いた金でささみ買いまくろうぜ」
思考に残ったその言葉は、ただただ違和感を漂わせる。そもそもあり得るはずのない事なのだ。たとえ大家さんが宝くじを当てたかとかで気前が良くなっていたとしても、そんな思考には至らないだろう。
「ちょっと大家さんに電話掛けてみるか。つかお前風呂入れや」
「このステージ終わったらな」
そういって、ベリアルの視線は一点もずれる事なく液晶に集中する。登場した巨大な戦艦の放つ弾幕を避けながら、着実にHPのゲージを削っていた。
うるさい電子音が邪魔にならないように、使う事なく倉庫と化した一室の方へ向かう。扉を閉めて、このアパートの経営者への電話番号を調べて即座に連絡を入れた。
『————』
無機質な繰り返しの音が響き、結果的にそれは途切れる。相手は通話中でもないらしく、気付いていないもしくは電話の側に居ないらしい。
時間を置いて後日かけ直すかとため息を落として、発狂するベリアルの元へと戻る事にした。多分負けたんだろうな。
「そうなんですよ。今年もゴーヤが豊作らしくて大量に送られてきました」
ぶちまけられた香水の匂いが漂う一室で、おもてなしを受ける事になった我々は目線をまわす。
仕方がない。今まで仕事一筋という固い人間であったかと言われればそうでもないが、仕事しかする事のなかった男がこの宮沖トウヤである。
当然女性の部屋などに招かれたことは初めてであり、こういう態度を出してしまうのは自然なことなのだ。物珍しさもあってか、ベリアルも同じ対応である。
今まで好んでゴーヤチャンプルーなどといったものを食べたことはあまりなかったが、ここまで美味く作れるのだろうかと思い知らされる。彼女の料理の腕というのもあるのだろうが、飽きない味やしつこくない油の量、一手間加えられたキムチの味が一日の疲れを吹き飛ばす。そんな感覚を覚えるような、まさに絶品というやつだ。
「ご馳走様でした。こんなに美味しく出来るのって、なんかコツとかあるんですか?」
「いやー、母から教えてもらったそのままなのであんまりコツとかは無いと思いますけど……」
談笑を交わし、苦味を旨味へ変化させた料理は皿の上から姿を消す。この間で一時間近くが経過していたが、それもどうでも良くなるように腹が満たされている。
ふと、ゴーヤチャンプルーを平らげて立ち上がるベリアルの姿を横目に確認する。そのままフラフラと玄関へ向かい、届かない玄関の取手へと短い腕を伸ばしていた。
「何してんだお前」
「オレ様はもう帰るからよ。明日も仕事あんだろ」
地を蹴り、掴んだ取手に体重をかけて扉を開く。少し寒さを交えた夜風が吹き込む玄関口は、器具の擦れる音を立てて次第に閉まった。
「どうしたんですかね。お口に合わなかったとか……」
「いや、アイツは普段からああいう奴なんです。めっちゃ美味そうに食ってたし、気にしないでいいよ」
「そうなんですか」
ベリアルの姿が消え、この一室に残る人物は二人のみになった。
そんなとき、己の思考は訳がわからないくらい緊張を要することになる。何を考えているのだと言われて仕舞えば残念な答えしか返せないような、そんな思考が不意に表れていた。
「そういえば宮沖さんって何の仕事してるんですか?」
「……ん、あぁ、ただの公務員ですよ。今日も座りっぱなしで腰が痛くて痛くて」
余計な事はどこかへ放り投げて、普通の談笑をするとしよう。多分そっちの方が色々と都合がいい。
その後三十分ほど会話したのち、ふと目にした時計の短針が九を差していることに気付いた我々は焦り慌て始める。明日は木曜日であり、普通に平日なのだ。呑気なことをしている余裕は、どちらにも無い。
「それじゃ、また。ご馳走様でした‼︎」
「はい、明日もお仕事頑張って下さいね‼︎」
玄関先にて靴を履き、眼前の取手に触れる。扉を開いて、先程部屋に侵入してきた夜風を直に受け止めた。
「あ、宮沖さん。少しいいですか」
「ん?」
「先日大家さんに会ったんですけど、その時『もう家賃払わなくていいよ』と仰ってたんです。伝えておこうと思って」
「……そうなんだ。わざわざありがとう」
「やっと帰ってきたか」
「え……あぁ、うん」
「あ?どした?」
前回の土曜日に、押し入れの奥から発掘されたレトロゲームを小さなテレビに繋いでプレイするベリアル。某シューティングシュミレーションのドットを動かしながら、ささみを貪る姿がそこには居座っていた。
「なんか大家さんが今後家賃払わなくていいみたいなことを言ってたらしくてな」
「マジかよ。浮いた金でささみ買いまくろうぜ」
思考に残ったその言葉は、ただただ違和感を漂わせる。そもそもあり得るはずのない事なのだ。たとえ大家さんが宝くじを当てたかとかで気前が良くなっていたとしても、そんな思考には至らないだろう。
「ちょっと大家さんに電話掛けてみるか。つかお前風呂入れや」
「このステージ終わったらな」
そういって、ベリアルの視線は一点もずれる事なく液晶に集中する。登場した巨大な戦艦の放つ弾幕を避けながら、着実にHPのゲージを削っていた。
うるさい電子音が邪魔にならないように、使う事なく倉庫と化した一室の方へ向かう。扉を閉めて、このアパートの経営者への電話番号を調べて即座に連絡を入れた。
『————』
無機質な繰り返しの音が響き、結果的にそれは途切れる。相手は通話中でもないらしく、気付いていないもしくは電話の側に居ないらしい。
時間を置いて後日かけ直すかとため息を落として、発狂するベリアルの元へと戻る事にした。多分負けたんだろうな。
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