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第3部
第14話 脱獄
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悪魔犯罪には、しっかりとした法律が作られている。人間の世界で生きるのなら、こちらのルールに従って貰わなければならないという意図から生み出されたものだ。
しかし、どうしてかこの件は難しいらしい。悪魔が人間に対して侵した罪というの内容があるのは当然のことだったが、その逆はあり得ないと一蹴され続けていたものだった。
羽島鉄平。年齢四十七歳、元DR創設者の一角にして、組織の代表なる人物。
発掘されたDR本部地下の収容所に関してのニュースが検閲を通った理由は、罪の意識を持たせるためだと思われる。
悪魔を殲滅したい。そんな意見は少なからず皆が持っていたのだろうが、当然そんなことは実現するわけないと人材は離れていくばかりだった。だからこそ、自分一人で築き上げてきたのだ。
しかしそれらも、やれ正義だなんだと綺麗事に塗れた若僧と悪魔に砕かれてしまった。十数年にわたる努力も泡となってしまったわけだ。
ベルゼブルの掲げている、人間と悪魔の共生。当然そんなものは叶わないだろうと嘲笑していたが、それは早計だったのだろうか。もしくは、検閲によって得られる情報が偏ってしまっているのだろうか。
何も分からないが、結果として自分が残したかったものはなんだったのか。人間の平和な生活か、或いは平穏が支配したあの頃の日常か。
帰ってこない自問自答は、誰に届くでもなく反響する。今現在に至るまで半年を過ごしたこの独房は、簡素で無機質な空気を漂わせるばかりだった。
ここであと何年を過ごすことになるのだろうか。前例のない罪に苛まれた身は、行く末すら知らない。
『力の使い方を間違えている』と。見覚えのない男が眼前で語った言葉を思い出すと、何故か苛立ちを覚える。
何を言われようと、自身は罪を犯したとは認めていない。ここで生活を強いられた環境に適応するため、上っ面だけで反省の意を向けているだけである。
この世は平和ボケしているのだ。仮に悪魔が友好的であろうと、悪の名を冠った存在である以上、何を起こすか知れたものではない。
そんな事を考えていた、時計の針が二十三時を通り過ぎた頃。消灯時間は過ぎ、闇に支配される扉の外を徘徊する音が響いていた。
ふと、唐突に暗さを増す。部屋唯一の明かりとなる鉄の格子に苛まれた窓の外に、一つの影が姿を見せている。
「何者だ……?」
「あんた、DRの人だろ。ニュースで観た」
「悪魔が、何の用だ」
「あんたと協力したい。悪魔を全部消したいのは一緒だからな」
「なんだと……」
訳の分からないまま、進む会話。深夜に近いとはいえ、未だ外の景色はギラギラと光る。その輝きを背景に、ひとりの悪魔が語っていた。
「羽島ァ‼︎消灯時刻は過ぎているぞ‼︎」
看守の言葉が反響するも、次の瞬間には掻き消される。そんな轟音が突き抜ける中に、瓦礫が散りと化していた。
※
「やっぱとんでもない事になってますね……」
「あの男はどれだけ俺たちを苦しめるつもりだ⁉︎」
三月に入ってすぐ、我々の職務ではない有象無象に追われる事になる。これは余りにも不可抗力というか、完全なる飛び火なのだ。
服役中の羽島が居る独房を一点で狙い、建造物の一部を破壊。のちに脱獄を図ったという事だが、この事態は明らかに人間の技ではないだろう。当然我々に仕事は当てられ、ありもしない事実を報道され続ける毎日が始まった。
『悪魔犯罪対策課が成立してから半年ほどが経ちましたが、やはり当人たちは羽島容疑者の下についていたわけです。今回の件に関与しているのではないでしょうか』
『大いに考えられますね。悪魔の力を得れば報道規制は愚か、完全犯罪も可能です。悪魔を嫌っていた羽島容疑者本人が悪魔の力を使役するというのも考えにくいですし』
無慈悲に突きつけられるメディアの言葉は、無関係な我々を追い詰める。理由は勿論、そういった内容が視聴率を稼ぐに適しているからだろう。
「SNSも凄い事になってますよ。嫌いな議員が当選した日みたいになってます」
浦矢が見せたスマートフォンの画面には、誤解と共に批判が並ぶ。#悪魔犯罪対策課を許すな。#元DR職員の逮捕求む。などと、本当に世の中はどうなっているんだと思い知らされるばかりだ。
「ただでさえ狭い肩身が完全に消え去ったんよね。俺らどうするよこれから」
そして、この緊急事態に集まった2課も同じように参っているらしく、ため息と共に細石の言葉が飛ぶ。どうすると言われても、どうしようもないだろう。
「そりゃ一番手っ取り早いのは羽島を捕まえる事だろうけど、警察筆頭に私らへ向ける視線はどんどん冷たくなってる。ただでさえ乃鳥支部は人数少ないんだし、総力戦でも無理がある」
篠原が口を開く。乃鳥支部に設置された我々がどうする事も出来ないのではという現実が、ジリジリと迫っていた。
しかし、どうしてかこの件は難しいらしい。悪魔が人間に対して侵した罪というの内容があるのは当然のことだったが、その逆はあり得ないと一蹴され続けていたものだった。
羽島鉄平。年齢四十七歳、元DR創設者の一角にして、組織の代表なる人物。
発掘されたDR本部地下の収容所に関してのニュースが検閲を通った理由は、罪の意識を持たせるためだと思われる。
悪魔を殲滅したい。そんな意見は少なからず皆が持っていたのだろうが、当然そんなことは実現するわけないと人材は離れていくばかりだった。だからこそ、自分一人で築き上げてきたのだ。
しかしそれらも、やれ正義だなんだと綺麗事に塗れた若僧と悪魔に砕かれてしまった。十数年にわたる努力も泡となってしまったわけだ。
ベルゼブルの掲げている、人間と悪魔の共生。当然そんなものは叶わないだろうと嘲笑していたが、それは早計だったのだろうか。もしくは、検閲によって得られる情報が偏ってしまっているのだろうか。
何も分からないが、結果として自分が残したかったものはなんだったのか。人間の平和な生活か、或いは平穏が支配したあの頃の日常か。
帰ってこない自問自答は、誰に届くでもなく反響する。今現在に至るまで半年を過ごしたこの独房は、簡素で無機質な空気を漂わせるばかりだった。
ここであと何年を過ごすことになるのだろうか。前例のない罪に苛まれた身は、行く末すら知らない。
『力の使い方を間違えている』と。見覚えのない男が眼前で語った言葉を思い出すと、何故か苛立ちを覚える。
何を言われようと、自身は罪を犯したとは認めていない。ここで生活を強いられた環境に適応するため、上っ面だけで反省の意を向けているだけである。
この世は平和ボケしているのだ。仮に悪魔が友好的であろうと、悪の名を冠った存在である以上、何を起こすか知れたものではない。
そんな事を考えていた、時計の針が二十三時を通り過ぎた頃。消灯時間は過ぎ、闇に支配される扉の外を徘徊する音が響いていた。
ふと、唐突に暗さを増す。部屋唯一の明かりとなる鉄の格子に苛まれた窓の外に、一つの影が姿を見せている。
「何者だ……?」
「あんた、DRの人だろ。ニュースで観た」
「悪魔が、何の用だ」
「あんたと協力したい。悪魔を全部消したいのは一緒だからな」
「なんだと……」
訳の分からないまま、進む会話。深夜に近いとはいえ、未だ外の景色はギラギラと光る。その輝きを背景に、ひとりの悪魔が語っていた。
「羽島ァ‼︎消灯時刻は過ぎているぞ‼︎」
看守の言葉が反響するも、次の瞬間には掻き消される。そんな轟音が突き抜ける中に、瓦礫が散りと化していた。
※
「やっぱとんでもない事になってますね……」
「あの男はどれだけ俺たちを苦しめるつもりだ⁉︎」
三月に入ってすぐ、我々の職務ではない有象無象に追われる事になる。これは余りにも不可抗力というか、完全なる飛び火なのだ。
服役中の羽島が居る独房を一点で狙い、建造物の一部を破壊。のちに脱獄を図ったという事だが、この事態は明らかに人間の技ではないだろう。当然我々に仕事は当てられ、ありもしない事実を報道され続ける毎日が始まった。
『悪魔犯罪対策課が成立してから半年ほどが経ちましたが、やはり当人たちは羽島容疑者の下についていたわけです。今回の件に関与しているのではないでしょうか』
『大いに考えられますね。悪魔の力を得れば報道規制は愚か、完全犯罪も可能です。悪魔を嫌っていた羽島容疑者本人が悪魔の力を使役するというのも考えにくいですし』
無慈悲に突きつけられるメディアの言葉は、無関係な我々を追い詰める。理由は勿論、そういった内容が視聴率を稼ぐに適しているからだろう。
「SNSも凄い事になってますよ。嫌いな議員が当選した日みたいになってます」
浦矢が見せたスマートフォンの画面には、誤解と共に批判が並ぶ。#悪魔犯罪対策課を許すな。#元DR職員の逮捕求む。などと、本当に世の中はどうなっているんだと思い知らされるばかりだ。
「ただでさえ狭い肩身が完全に消え去ったんよね。俺らどうするよこれから」
そして、この緊急事態に集まった2課も同じように参っているらしく、ため息と共に細石の言葉が飛ぶ。どうすると言われても、どうしようもないだろう。
「そりゃ一番手っ取り早いのは羽島を捕まえる事だろうけど、警察筆頭に私らへ向ける視線はどんどん冷たくなってる。ただでさえ乃鳥支部は人数少ないんだし、総力戦でも無理がある」
篠原が口を開く。乃鳥支部に設置された我々がどうする事も出来ないのではという現実が、ジリジリと迫っていた。
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