追放公爵ベリアルさんの偉大なる悪魔料理〜同胞喰らいの逆襲無双劇〜

軍艦あびす

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第3部

第13話 日記

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 二月十八日
 新しい香水を買った。試したことのない香りだけど、一目惚れしてしまった。少し懐が寂しくなってきた。
 
 二月十九日
 バイト先で、レジからお金が消えたらしい。犯人探しに警察まできた。私は無関係です。
 
 二月二十日
 バイトをクビになった。確かに財布の中身は寂しいが、私は何もしていない。多分先輩が犯人だと思う。
 
 二月二十一日
 お金が無くなりそう。学校があるので日雇いにも行けず、空腹と戦っている。
 
 二月二十二日
 お母さんから野菜が届いた。食べ物は何とかなるけど、家賃が払えない。
 
 二月二十三日
 学校の帰り道に、ハルファスという悪魔と出会った。彼を養う代わりに、私を助けてほしいと契約をした。
 
 二月二十四日
 ハルファスと一緒に色々考えたけど、お金を手に入れる方法は見つからない。最悪の手段を取らないといけないかも。
 
 二月二十五日
 隣の宮沖さん家にいる悪魔は今日も騒がしい。でも、覚悟は決めたので今は我慢しよう。
 
 二月二十六日
 見られるといけないので詳しくは書かないけど、遂にやっちゃった。
 
 
 そして、本日は二月二十七日。昨日までの記録がカケラとなって散りばめられ、その心情を語っていた。
 ベリアルがうるさいのは普通に申し訳ないが。
「大家さん殺しちゃえば家賃払わなくていいじゃんつーわけなんよな。心身共に追い詰められた人間は力を得たら暴走しちゃうもんだから」
 細石は、自身が読み終えた日記を回収して腕を組む。事の重大さを加味して、2課に暫しの沈黙が流れた。
「ハルファスが死んだ以上、悪魔側の意図を追跡するのは不可能だ。私たちの仕事はここまでになる」
 篠原が口を開き、この件についての話は終わりだと告げる。警察側の捜査が続くのなら、暫く自宅近辺がうるさくなりそうだ。
「でも、こういう悪魔と契約した人間が犯罪起こすのって結構少ないっすよね。そういう調査とかは出来るんじゃないですか」
「いやまあ出来ることはやってるけどね、特殊詐欺とかと同じように警告のポスター貼ったりして」
 細石は立ち上がり、真横に貼られた一枚のポスターに触れる。『契約、ダメゼッタイ。』と大きく書かれた一枚の紙に、どれほどの影響力があるのかは分からない。
「結局俺らはDRからの流れ者でしかない。悪魔犯罪対策課になっても嫌悪向けてくる人間も少なからずいる訳だし、今の世の中だとまだ肩身狭いんよな」
 
 
「うぉっんだこれめちゃくちゃ吹き出してきやがった‼︎」
「ちょっ……汚ねえなこっち向けんなよ」
「おい飛んできやがったぞマジで‼︎」
 先程地面に落下したペットボトルのうち、唯一の炭酸飲料。ベリアルが注文したコーラが開封と共に吹き出し、その場を甘い香りと泡で包み込んだ。
「すまん、さっき落としたんだ」
「蓮磨てめぇふざけんじゃねえ‼︎」
 天使と悪魔。名前だけ聞くと、世紀末のようだ。
 しかし、眼前に広がる世界はそんなものと比べて仕舞えばなんとマイルドなことか。吹き出した炭酸飲料一本でこの大騒ぎである。近所の子供が叫びながら遊んでいるのとそんなに変わらないではないか。
「ただいまー……なにこれ匂いすげえな……」
「お帰りトウヤくん。はいこれ無糖ブラック」
 山藁さんの手に握られた一本の缶はこちらを向き、荒いアルミが自身の顔を反射させる。
「ありがとうございます。えっと、ベリアルがコーラだから……もうめんどいんで四百円渡しときますね」
 ポケットの小銭入れから百円玉を四枚取り出して、枚数を確認してから手渡す。しかし、山藁さんはその手を広げようとはしてくれなかった。
「いいよ、奢るから」
「いや、悪いっすよ。頼んだ挙句にそんなの」
「いいからいいから」
 年上の言うことには、なんとなく逆らえない。今回は有り難く頂くとしよう。
「……それじゃ、いただきます」
 
 
『酒が飲みたい』
「私まだ未成年なんだけど」
 先程命を奪った一匹の鳥が撒き散らした羽根はしつこく身にまとわりつき、完全に取ることはできないらしい。ここらで一雨降れば、なんとかなるだろうか。
『前にも言ったが、我は見知らぬ悪魔を殺そうと知ったことではない。だが、我の身は是非とも解放してほしいものだな。暫く酒を飲んでいないせいで脳が狂いそうだ』
「……この市内にいる悪魔全部殺し終わったら飲ませてあげる」
『それは無理だな。今のお前じゃあ6柱どころか、弱体化してるベリアルにも勝てんぞ』
「何回も言わせんな。正義の味方は負けねえの」
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