F級スキル持ちのモブ陰キャ、諦めきれず毎日のようにダンジョンに潜ってたら【Lv.99999】まで急成長して敵がいなくなりました

藍坂いつき

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第1章「始まり」

第2話「守るべきもの」

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・探索者ギルド札幌市中央区支部にて

 がらーっと開いた自動ドアを潜って俺はギルド内に入った。

 ギルド、なんて言ったら1世紀以上前に流行った異世界もの? とかなんとかのラノベや漫画に出てくるメイド服を着たウエイトレスさんがいて酒を飲めて騒がしくて……なんて想像しがちではあるが、実際のギルドはそれとは全く違っていた。

 ギルドの支部の建物は一見普通のビルと変わらないし、何か違うかと言われればかなり大きいくらいだ。地上18階建ての建物で、ドアを抜けるとあるのはさまざまな受付窓口。それから奥には会議室だったり、ギルドで働く人たちの休憩室や商談室、食堂に待合室などがある。

 一般的に公開されているのは3階までで大抵の探索者ならすべて1階で用事が済むようになっている。

 内装はまさに市役所と似たような感じで、違うのは受付に駆けつける探索者たちの格好くらい。

 実際、俺も学ランから防具付きの動きやすい服装であまり外では見ないものを身につけている。

 背中に剣が携えてある人や杖を持つ人、人によって装備はさまざまで近代的な建物に対して中にいるのは中世を思い出すようなメルヘンチックな人ばかり。

 まぁ、これが日常で普通になっているから俺は何も引っかかったりしないが探索者と言う仕事に携わったことがない人にとっては異様と言えるだろう。

 そんなこんなで受付の整理番号が書かれた札を受け取ってベンチに座って時間を潰す。

 やがて自分の番号が電子掲示板に表示され、指定された番号の受付に向かった。

「どんなご用件でしょうか、國田様?」

 透き通った美しい声で話しかけたきたのは受付嬢の「下田美玖しもたみく」さんだった。俺が探索者を始めてからギルドで話すときは決まって彼女であり、最近は軽く談笑するほどには仲良くなったほどだ。

 ただ、そんな俺に対してあまりにも無愛想に話しかけてくるもので少しむかついて呆れ口調で言い返した。

「下田さんってずっと苗字読みですよね……」

 俺の言葉にピクッと眉を顰めて、ジト目を向けてきた。

「仕事中、ですからね?」
「別に俺のことは呼び捨てでもいいって言ったじゃないですか。俺、馬鹿にされてるFですし」
「それとこれとは関係ありませんっ。とにかく、要件を言ってください」

 全く折れる気もなさそうなので俺はキッパリ言い返すのをやめて、バックに入れていたゴブリンの毛皮を見せる。

「これの換金をお願いできますか?」
「迷宮区のアイテム換金ですね。承知しました。それではこの紙に記入して、受付の向かいにあるボックスシュートから入れてください」
「ありがとうございます、下田さん」
「仕事ですので。それと、國田さんはF級冒険者なのでくれぐれも深追いするのはやめてくださいね?」
「大丈夫ですよっ」

 意外と心配してくれているんだなと感心しつつ、俺は無愛想な下田さんから離れて紙を記入してシュートに投げ入れた。

 アイテム系の換金はこのダストシュート的な穴に入れればいいらしく、中の機械がすべて勝手に判別して振り分けてくれるらしい。

 待っていると掲示板に番号と価値が記載されていて、電子マネーとして探索者免許のカードに自動で送金される仕組みになっている。

「ふぅ……ひとまず、今日は帰るとするか」

 結局、稼げたのは約5000円。

 ゴブリン十匹殺してこれなので、命張って仕事している俺からしては安いバイトの賃金程度じゃ割に合わないと言いたい。

 ただまぁ、これしか出来ないので仕方がないと言われればそこまでなのだ。

 ため息まじりに、俺は帰路についた。
 

 ☆★☆
 
「ただいま~~」
「あ、お兄ちゃん、おかえりなさい」

 家に帰ると出迎えてくれたのは俺の妹、國田雫くにたしずくだった。

 中学2年生にしては落ち着きがあり、黒髪ロングの綺麗な髪の毛をふわりと垂らし、俺とは違い学校では人気者でコミュ力も高い。

 まさに真逆の存在で、本当に妹なのかも疑わしいくらいの美少女だ。

「今日はカレー作っておいたからって――随分と汚れてるね」
「そうだな、俺って汚れだよな」
「そんなこと言ってないって……ていうか、そこまで言ってないし。お兄ちゃんは汚れじゃなくてカッコいいよ?」
「うぅ……そんなこと言ってくれるのマジで雫だけだぜぇ~~」
「うわっ、もう……泥まみれの制服でくっつかないでよ」

 さっきまで褒めてたのにジト目はきつい。

 ただ、そんな妹の顔を見て噴き出す涙に耐えきれず、抱き着くとなんだかんだでなでなでしてくれる雫はとても優しかった。

「はいはい、どいたどいた。まずはお風呂入ってきてね?」

 そう言って背中を押されて俺は風呂場に向かいシャワーを浴びた。


 一日分の疲れを洗い流し、小さな部屋の真ん中に置いてあるテーブルに腰かける。ダイニングキッチンなのでテーブル越しに見える雫の表情。真面目でいつも俺のご飯を作ってくる雫には頭が上がらない。

 ちなみに、俺たちには両親と呼べる人がいない。

 というのも昔、ダンジョンが発生してしまったごちゃごちゃがあった時代に色々とごちゃついてしまったらしく、俺と雫の血は繋がっているものの孤児院で育ったために親が分からないのだ。

 そのため、この家は政府が与えてくれたものだし、二人の生活費もお互いに色々と分担して稼いでいる。雫はまだ14歳でダンジョンに行けないからギルドの補助事務員として週5で働いているし、生活費の大体は俺のダンジョンで倒したモンスターの換金で賄っている。

 あんな風に学校のやつらには色々と言われているが俺も俺でダンジョンに行かないわけにはいかない。その日暮らしの俺たちにとっては死活問題なのだ。

 それに、雫が将来いい大学に入っていい夫を見つけてもらうために俺はしっかりしなくてはいけない。

「お兄ちゃん、あと10分くらいで出来るよ」
「ん、10分?」
「うんっ」
「おぉ、早いな。さすが雫。ありがとな」
「ううん、そっちこそね。ダンジョンお疲れさまだよ」

 そんな可愛い笑顔で褒められちゃうと俺はもう最高に嬉しくなっちゃう。
 お兄ちゃん最高! 妹最高!

 別にいいんだ、俺なんて非モテキモオタ陰キャで最弱探索者でも妹の笑顔さえあればな。シスコンでもどんと来いってんだ!

 そんなこんなでご飯を作ってくれている間に持っていたスマホを操作しながら今日のニュースを見つめる。

 俺が住んでいる場所、つまり札幌市のニュースをスクロールする。書いているものはいつもと変わらず、札幌市にあるS級ダンジョンの最奥階層突破だとか、超新星のA級探索者高校生「上里誠也」だとか、一番上からほとんどが探索者ばかりで見飽きてきた。

 それにしてもすげえよな、上里君は。この年で地元の星だし、イケメンでスタイルも抜群。それでいて探索者としての実力ありで女子からモテモテときた。誰もがうらやむ男だ。

「お兄ちゃん、何見てるの?」

 すると、キッチン越しに雫が訊ねてきた。

「ん、これか?」
「あ、私知ってるよその人っ、上里君じゃん」

 俺がスマホの画面を見せると雫は笑顔でそう返した。
 うん、雫がこんなイケメンを好きなのはなんか心にとげが刺さった気分になる。

「上里誠也を知ってるのか?」
「うん。そりゃもう、学校じゃ有名だからね? でも、あれ、同じ学校でしょ?」

 そう聞かれて少しギクッと背中に電気が走った。
 ちょうど昨日、助けられて貶されたばっかりだ。

 とはいえ、妹の夢は壊したくないので普通に投げ返した。

「まぁなぁ、話したことないけど。確かにカッコイイよな。雫も好きなのか?」
「うーん。それはどうだろ? 学校の皆は好きって言ってたけど、私の学年にも凄そうな男の子いっぱいいるんだけどねっ」

 おぉ、さすが俺の妹。
 マイラブリーシスターしずくちゃんだな、見る目がある。

「そりゃ、男子たちも大変だな。俺みたいになったら困るって言ってやってくれや」
「別に私は困ってないけど?」
「そんなこと言ってくれるの本当に雫だけだよ」
「はいはい~~」

 若干の苦笑い。
 まったく、俺としたことがだな。

 いっつも雫には助けられてるけど言わせちゃってる感じがするし、もっと頑張って早くパーティに入って稼がないとだな。

 いい加減嫉妬するだけじゃ何も買えられないことを学ぶことだ。

「あ、できたよっ」
「お、じゃあいただきますだなぁ!」

 そうして雫が作った最高にうまい料理を平らげて、自室に戻った俺は変動したニュースのランキングを眺めているとふと触れてしまい開いてしまった。

「――て、なんだ?」
 
 そこに書いていた記事は「S級の最高位探索者が!?~甲鉄の氷姫が札幌に来訪か~」というものだった。

 S級が札幌に。こりゃまた凄いことになったな。

 まぁ、どうせ噂も噂だな。この辺の情報は報道機関も錯綜してるしなかなか信じる値しないものも多い。

 考えても無駄だろうな。

 それにだ。たとえこれが本当でも俺のランクが上がるわけでもないF級スキル持ちの最弱探索者は最弱らしくヒソヒソしてるべきだ。

 俺には関係のないことだ。






 しかし、この時は思いもしなかった。
 まさか、次の日。

 A級探索者も霞むほどの……が俺のクラスに転校してくるなんて。

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