F級スキル持ちのモブ陰キャ、諦めきれず毎日のようにダンジョンに潜ってたら【Lv.99999】まで急成長して敵がいなくなりました

藍坂いつき

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第1章「始まり」

第21話「魔物の大量発生」

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「あっ……え、お、俺ってそんな有名人になってるんですか?」

 ――バシバシと両手で俺の両肩を叩いていくるギルド長の勢いはそれはもう凄かった。

 ニコニコとした顔で、周りの人たちの顔なんか見ずにグイグイ来るおかげで変な緊張感は感じなかったが別の意味でドキドキしていた。

「あぁ、別になってないぞ? 俺だけ俺だけ~~」

 何が面白のか分からなかったがその笑顔はそれはもう嬉しそうだった。

 いつも見ていた探索者時代の黒沢さんはとにかく冷静沈着で努力を怠らないストイックな男だった気がするのだが……今ではその影がオーラしかない。

 なんか、口うるさい陽気なおじさんみたいだ。

 陽気というかどっちかというとうるさいよりかもしれない。

 よく近所で登下校の時に目をあわせたら絶対話しかけてくるおじさん――みたいな雰囲気を醸し出している。

 あれれ、さっきまでかっこよかったよな。
 オーラがあって。


「いやぁ……自分で言ってなんだが、俺の間では大ブームってだけだな‼‼ ははっ!」

 異様な陽気さに驚きはおろか、こう、甘いものの食べ過ぎで胃もたれしてしまう感覚に襲われる。

「は、はぁ……」
「まぁでも俺のブームになるなんてすごいんだぞぉ⁉ おじさんこれでも軍歌と銃火器しかブームになったことないんだからな? 人がそれにとって代われるなんてもう、すごい! すごすぎるってな! ぶはははっ」
「……」

 そう言えば、黒沢さんが探索者してた時の趣味ってそんな感じだったっけ? なんかテレビの特集でやっていたような気がするけど……。

 あぁ、なんか冷めてくるな。俺って飽き性じゃなかったんだけどなぁ。
 憧れがこうだと冷めるのは普通なのかな。

 別に面白くもないし、ふたを開けてみればなんとやらって言うのはこう言うことのなのかな。

 

 地味に肩も痛くなってきた気がしたところで黒崎さんが間に入って、興奮気味なギルド長を当然の様にメスを入れる。

「ギルド長、いい加減、普通に落ち着いてください」
「っちょっとぉ、釣れないなぁ~~黒崎君はぁ!」
「気持ち悪いです、あと酒臭いです。あんまり近づかないでください」
「それは心に来るよぉ? おじさん、結婚してるから別にいいんだけどさぁ~~」

 ……ん、今結婚って言ったか?

 え、あの黒沢城之助が結婚してるの?
 何それ、初耳なんですけど。

 探索者やめてギルド長になったことまでは知ってるけど……それはさすがに知らなかった。

 メディア露出は減ったとは言っていたけど、そんな重要なことニュースにならないわけないよな?

 というか、逐一探索者のニュースを確認している俺としてはそんな重大ニュースを見落としているわけもない。

 もしかして、秘密か何かなのか?

「あ、ギルド長……それ、公表前じゃなかったですっけ?」
「あぁ! そうだった! 何してるんだぁ~~俺はぁ」

 馬鹿笑いするおじさんにこしょこしょと注意するギルドの職員のお姉さんの声が聞こえてくる。

 案の定、どうやら俺の予想は正解だったようだ。

 自分で言っておいて自分で落胆している姿は大変シュールで、心の底から湧き出ていた尊敬の念がやっぱりすっと引いていくのを感じる。

 なんか、拍子抜けだなこれは。

 そんなことを感じていると黒崎さんが冷静な横やりを再び入れてきた。
 
「ギルド長、今、緊急事態なんですよね?」

「あぁ、そうだったそうだった!」

 虚を突く一撃に、再びハッとするギルド長。
 忘れていたのに気が付いていなかったのか、ポリポリと頭を掻きながら席に戻っていく。

「っていうことで、君たちとはそうだね。作戦会議をしなくちゃいけなかったね」

 バシッと周辺地域の地図を空中にビジョンで写して、そう言った。

 そう言えば、今の今まで気づいていなかったけど俺と黒崎さん以外にもこのテントの中には見知った顔が10人近くいる。

 金髪のイケメンな男から赤髪の可愛い顔をしている有名な魔法士まで、この周辺地域でブイブイ言わせている高ランクの有名パーティのリーダーたちだった。

 怖い、とかは無かったがあまりにも有名な顔に少しだけ緊張が生まれる。

 北海道の中では有名な老パーティの「黒き深淵を覗く者たち」や若手の探索者で構成された「パワーズ」、その他にもテレビでよく見る顔ぶれが多く若干不安がっているとギルド長はそんな俺に手を振って手をこまねいた。

「おいおい、君も聞いていきなよぉ~~。実力は本物だって聞いてるよ?」
「え、いや……でも俺F級ですけど、いいんですか?」
「ははっ! ふつうは信用できないけどね~~でも、下田君からの報告だから信用してるよ?」
「し、下田さん?」
「お、知ってるの下田さん?」
「受付を担当してくれたので……そんな凄い人と絡んでるだなんて……」
「凄い人だなんてぇ~~はずかし!」

 またまた始まったギルド長劇場に溜息を吐くパーティのリーダーたち。

 さすがにしびれを切らしたのか、ギルド職員の女性が低くい声を出しながら、怖そうな目つきで睨みつける。

「ギルド長、早くしてください」

「ん、あぁ! ごめんごめん! そうだねぇ~~。あんまりいないから興奮しちゃってた……流石に始めようか?」

「えぇ、作戦決行まで残り10分なのでなるべく早くしてくださいね」

「厳しいね。まぁ、分かったよ」

 ため息交じりに、ぐちゃぐちゃになっていたテントの中で作戦会議が始まったのだった。





 まず、起きていることについてだが簡単に言うと「魔物の大量発生」のようだった。

 現時点で確認できているのはE、Dランクの魔物の大群とF、Cランクの魔物の大群の二つで、場所は札幌各地とのこと。

 原因はというと未だ不明であり、自衛隊や警察が結論を出すまでは公式見解では分かっていないことになっているが——緊急とは言ってもこういうことはこの世界ではたまに起こっていることである。

 今までの事象や原因から考えられるのは恐ら

 それによって行き場を失った魔物が食料を求めて地上に出てきたと推測できる。昔の札幌市ではよく山から熊が餌を求めて人里降りて来ていたらしいが、きっとそれと同じようなことだと言える。

 ただ、何が原因かは予測できたとしても、実際にどこの迷宮区からやってきているのかについては不明であり、至る所にある迷宮区に加えて山や森林でも自然に発生している様でその規模が不透明と言える。

 つまり、今ギルドや自衛隊、警察が確認できている魔物のランクよりも強いランクの魔物も出てくる可能性もあるということだ。

 そうなれば数十年前に起きた脱走事件の二の前をこの平和な札幌でも踏むことになるため、探索者全員集合という形ではなく、統率が取りやすいA級以上の実力者に集合を掛けたとのこと。

 日が浅い学生探索者なら考えがちのことだが、相手がランク的に弱いからと侮ってはいけない。

 CやDだからと言ってC,B,A級の探索者が簡単に倒せるわけではないのだ。一匹なら余裕に倒せても、それが10匹以上の群れを為してくると話は変わってくる。

 もちろん、それはS級の黒崎さんも例外ではなく、10匹程度ならまだしも100匹単位で来るとかなり苦しいものがある。スキルは魔力を消耗するし、いつまでもそのスキルを常時発動できるわけでもない。

 だからこそ、ギルドの考え方は合理的だった。

 そんな中、俺がいるのも中々異質だけどな。


 ひとまず、北海道ギルドから札幌市のギルド長に出されている命令は市街防衛戦。
 なかでも俺たちが担当するのはその中心の中央区の市街地で発生した魔物の殲滅だった。

 どこまで被害が及んでいるのか、どの程度の魔物が解き放たれているかが分からない以上。今の状態を維持するために各地区に探索者を配置して見つけ次第魔物を狩っていくということらしい。

 あまり不用意に動いて力を一点集中させても他のところで発生してしまえば対応ができなくなり、そこからほころびが生じる。

 そのため、現状その作戦が最適解と言える。

「それで……もちろん、君も参加できるんだよね?」
「は、はいっ」

 周りを囲むパーティリーダーたちがヒソヒソと心配事を話している中、ギルド長は黒崎さんの脇にいた俺に目を合わせて聞いてくる。

 もちろん、自分でここまで来たくせに「できない」なんて今更言えるわけもない。

 そして、こんなチャンスがあるのに「できない」なんて言うつもりもなかった俺は緊張を噛み殺しながら頷いた。

「っよし、それじゃあ君たち仲良さそうだし。東側を担当してもらおう!」

「了解です」
「分かりましたっ」

 胸を張って返事をする。
 そうして、俺の観客ありの初実践が幕を開けたのだった。

 
――――――――――――――――――――――――――――――――――
【スキルリスト】
『神託予見』『知覚向上』『魔物特性』『高速移動lv.1』『自信向上』『極寒性気色悪つまらないセクハラ』『信仰心』
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